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 7月最後の土日は情報化研究会の古いメンバーで旅行をするのがここ7年ほどの恒例になっている。7月末にする理由は梅雨明けで天候が安定しているのと,家族サービスの時期と重なりにくいからだ。今年は14人で香川県に行った。10人が東京から,あとは大阪,名古屋,松山から参加。高松に入った7月26日,四国から東海地方までが梅雨明け宣言された。例年ならとっくに梅雨があけているのだが今回はギリギリだった。それでも,宣言のとおり2日間とも好天に恵まれた。

 1日目は金毘羅さん詣でとうどんの食べ歩き。金毘羅さんは森の石松が参詣したことで知られているが,海運と商売の神様だ。長く高い石段が有名。本宮までが785段,さらに奥の院までは500段以上ある。11人が本宮まで登った。785段と言えば35階から36階程度の高層ビルを階段で上るのと同じくらい。息は上がらなかったが,かなりきつかった。

 金毘羅さんからうどんの有名店へ。ジャンボタクシーで移動したのだが,走っても走っても着かない。どんどん山の中に入っていく。店の名前は「山中」。主人の名前なのだろうが,まさに山の中だ。おせじにもきれいとは言えない小屋のような店。イスもテーブルも粗末なのだが,客はたくさん入っている。壁には有名人の色紙がいっぱい。確かに麺が絶品のおいしいうどんだった。こんな山の中でうどんだけで商売が成り立つのだから大したものだ。

 実はこの原稿,8月下旬に書いている。研究会旅行を終え,家族と墓参りに帰省し,のんびりした夏を過ごした。が,盆休み明けの8月18日の週に夏休みムードを吹き飛ばす二つの事件が起こった。今回はこの二つの事件を取り上げる。

IP電話の大敵,ウイルス

 8月18日の週に新種ウィルスMSBLAST.D(Welchi,Welchiaなどとも呼ばれているようだ)が猛威をふるった。MSBLAST.Dは,このウィルスの前に流行したBlaster(msblast.exe)の亜種であり,感染したことにユーザーが気が付きにくい上に,感染対象マシンを探すためにPingを打ちまくるという悪質なものだった。

 このMSBLAST.Dが打つPingのせいで,LANからWANに出るところの回線がパンクし,通信不能になってしまうトラブルが私のお客様の中でも何件かあった。ユーザーから見ると通信できないので,回線かネットワーク機器の障害ではないかと思ってヘルプデスクに申告してくるのだ。調べてみるとネットワークそのものに異常はなく,大量のPingがデタラメに飛んでおりウイルスが犯人だと分かる。

 IP電話をイントラネット上で使っているユーザーでこのトラブルが起こると,音声が途切れたりひどい場合は電話の接続ができなくなる。幸いなことに私のお客様ではIP電話への影響はなかったが,ひやりとした。IP電話をイントラネット上で使う場合,当然ながらWAN上でも,LAN上でも音声パケットを優先制御している。しかし,回線がパンクするほどパケットを流されたら優先制御など効果はない。渋滞した高速道路では救急車だって速く走れないのと同じだ。

 WANへの影響をなくすのは簡単だ。IP電話では音声パケットをLAN上で優先するため,音声系VLANとデータ系VLANに分け,802.1qタグを使って優先制御している。データ系のVLANをWANから切り離せば回線がパンクすることは防げる。さらにデータ系のVLAN上でパケットが飛ばないようにするにはパソコンやサーバーをLANから抜くしかない。

 しかし,データ系のVLANを切り離すにしても,パソコンをエンドユーザーに抜いてもらうにしても,5分や10分でできることとは思えない。IP電話がウイルスのために長時間使えない,などということになったら大変なことだ。どんなにウイルス対策をしっかりしている企業でも,今後新種のウィルスが現われて感染しないとは限らない。万一,感染したらどうするのか真剣に対策を打たねばと思った。

広域イーサネットの先駆者CWCが更正手続きを開始

 二つ目の事件。広域イーサネットの先駆者であるクロスウェイブコミュニケーションズ(CWC)が8月20日,東京地方裁判所に会社更生手続きの申し立てを行った。2002年2月のNET&COMでCWCの広域イーサネットを使ったローソンのルーターレス・ネットワークを紹介したり,情報化研究会のホームページで「IP-VPN vs. 広域イーサネット」という比較記事を書いて応援してきた筆者としては少なからず驚いた。

 たくさんのお客様に使ってもらっているだけでなく,今現在200回線を超えるCWCの回線を新規に開通させつつあるからだ。CWCからは20日の夕方に連絡があり,サービスの継続には問題ないという説明があった。即刻,すべてのお客様に文書をメールで送信するとともに,電話をかけた。翌日の朝刊でいきなり事件を知ったら驚いてしまう。

 私は機会あるたびにここ数年のネットワーク業界で最大の貢献をしたのはCWCだと言ってきた。なぜなら,CWCが広域イーサネットを始めなければ企業ネットワークは画一的なIP-VPNばかりになり,ユーザーには選択の自由がなくなっていたと思うからだ。最初は取るに足りないと思われていた広域イーサネットも,ローソンをはじめとする大企業で採用され,その良さが理解されると銀行や保険会社が相次いで採用し始めた。

 ただ,CWC以外の通信事業者が矢継ぎ早に広域イーサネット・サービスを始めたため,この市場は過当競争にさらされた。結果的に企業向けデータ通信以外に事業をしていないCWCは,広域イーサネットの損失を補うことができず今回の事態になってしまった。

 CWCの経営効率や技術力が他社に比べて劣っているためにこうなったのなら仕方がない。しかし,そうとは思えない。チャレンジ精神とアイデアを持つ企業が伸びていけない市場の仕組みは,日本の社会にとって損失だと思う。

 CWCが企業ネットワークの世界に革新をもたらしたという事実,他社のユーザーも含めて広域イーサネットのメリットを国内ユーザーにもたらしたという事実は素晴らしいもので,それらの事実が消えることはない。CWCの関係者はこのことに誇りを持ち,どんな形で事業が継続されるにしろ,これまでどおり胸を張って頑張っていただきたい。

今夏の宿題

 話を研究会旅行に戻す。2日目におとずれた小豆島は高松からフェリーで1時間。壷井栄の「二十四の瞳」で有名な島だ。そのモデルになった岬の分教場を見学。島と岬で囲まれた内海は丸くて青い湖のように見える。海辺には瀬戸内特有の黄金色がかったきれいな砂浜があり,半農半漁の小さな村がある。岬の先にある分教場は木造平屋の小さな建物で教室は三つしかない。机は二人がけの木製で,どの机にも真中に縦の線がナイフで彫られている。

 「この線からこっちはボクの領域だから,ノートとか筆箱をはみ出させるなよ」ということ。自分も小学校で同じことをしていたなあ,と机にすわってなつかしく思い出していた。この教室には今でもやさしい先生と生徒,やさしく見守る村の人たちのあたたかさが残っているように感じた。皆で机にすわって集合写真。この写真は今,私のパソコンの壁紙になっている。

 ちょっとした事件があったのは小豆島から高松への帰り。幹事役を手伝ってくれた女性ネットワーク・エンジニアのAさんが高速艇の時間を間違えてしまい,東京へ帰る飛行機に間に合うかどうか微妙になった。すみませんというAさんに,「遅れたら遅れたときの話。そん時きゃ,そん時。トラブルなんて何時だって起こるよ」と私。するとAさんは「そうですよね。そん時きゃ,そん時という考え方も大事ですよね。」と,意を強くしたような口調でひとりごちた。

 ネットワーク・エンジニアである彼女はトラブル経験も豊富。私の言う意味,というか気持ちの持ち方にすぐ共感したようだ。設計にしろ,試験にしろどれだけ入念にしてもミスはあるし,漏れもある。考え付くこと,やれることをやりつくしたら,後は心配してもしょうがない。やれるだけやったら後は「そん時きゃ,そん時」と明るく割り切った方がいい。やれるだけやっていれば,トラブっても何とかなるものだ。

 さて,先のIP電話でのウイルス対策,どこまでやったら「やるだけやった」ことになるのだろう。もう夏も終わろうとしているのに,大きな夏休みの宿題ができてしまった。

(松田 次博)

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松田 次博:情報化研究会主宰。1984年より,情報通信に携わる人の勉強と交流を目的とした情報化研究会(www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)を主宰。著書にVoIP構築の定番となっている技術書「企業内データ・音声統合網の構築技法」や「フレームリレー・セルリレーによる企業ネットワークの新構築技法」などがある。NTTデータ勤務。趣味は,読書(エッセイ主体)と旅行。