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図1●ハードディスクの記録密度と容量
年率60%でディスク1枚当たりの容量が増えていく見込み。ただし面記録密度で200Gビット/インチ2を境に,従来の「面内磁気記録方式」から「垂直磁気記録」方式へ切り替える必要があると言われている。メディアの記録密度に応じて,読み書きに使うヘッドも変わっていく。現在は1998年から使われているGMR(Giant Magneto-Resistive)が主流。80G~200Gビット/インチ2ではトンネル効果を使ったTMR(Tunnel Magneto-Resistive)ヘッド,200Gビット/インチ2以上ではこれまでヘッド面に対して水平に配置していた電極を垂直方向に変えるCPP-GMR(Current Perpendicular to Plane GMR)が必要になる見込み。ディスク1枚当たりの記録容量は1.8型ハードディスクの場合。
図2●ハードディスクの主な記録方式
メディアに対して水平方向に磁化する「面内磁気記録方式」と,垂直方向に磁化する「垂直磁気方式」がある。記録ビットを小さくして記録密度を上げると,熱エネルギによって磁界が消失する「熱ゆらぎ」が起こる可能性が高まる。そこで現在は磁性層を複数設けることで磁界の保持力を高めるAFCメディア(Antiferromagnetically Coupled media)を利用して熱ゆらぎの問題を解決している。面記録密度が200Gビット/インチ2を超える2005年以降は,垂直磁気記録方式に切り替えなければ熱ゆらぎを避けられないと言われている。
 2003年の11月から12月にかけて,ソニーの「PCG-X505」シリーズに東芝の「dynabook SS SX」,シャープの「Mebius MURAMASA PC-MM2」と,1kg未満のノートパソコンが相次いで登場した。これら軽量ノートが搭載するハードディスクは,ディスク直径が1.8インチ(1.8型)のハードディスク。2.5型のハードディスクの大きさ幅70mm×奥行き100mm×高さ9.5mmに比べると,1.8型ハードディスクは幅54mm×奥行き78.5mm×高さ5~7mmと小さい。重量も2.5型ハードディスクの94~95gに比べて1.8型は47~51gと軽い。小型・軽量のぶん,耐衝撃性も増す。携帯ノートにとって小型・軽量はいいことずくめだ。

 しかし課題は容量。現在のところ,1.8型ハードディスクはディスク1枚で20Gバイトが最大だ。2003年前半までは10G~15Gバイトで「ノートパソコン・メーカーの要求仕様の最低である20Gバイト」(東芝ストレージデバイス事業部ストレージデバイス商品企画部の加瀬林祐主務)すら満たせなかった。現在でも実売20万円前後の価格帯のノートパソコンが搭載するハードディスクの容量40G~60Gバイトと比べると1.8型搭載機は見劣りする。高解像度の動画を保存するには心許ない。

 ハードディスクの容量は,1998年から2000年にかけて年率100%で増加してきた。2001年以降はややペースを落とし「年率60%で伸ばしていける」(複数のハードディスク・メーカー)(図1[拡大表示])。今後も年率60%の容量増を続ければ,1.8型の容量は2004年に30G,2005年に50G,2006年に80Gバイトに増える*1

出番が迫る垂直磁気記録方式

 しかし2005年から2006年にかけてハードディスクは容量増加の踊り場を迎える。面積当たりの記録密度(面記録密度)に換算すると,およそ180Gビット/インチ2。従来のハードディスクが用いている「面内磁気記録方式」では,「200Gビット/インチ2が限界と言われている」(日立グローバル ストレージテクノロジーズ モバイル事業本部テクノロジー・インテグレーション担当の倉知宏治氏)からだ*2

 200Gビット/インチ2以上の記録方式として開発が進んでいるのが「垂直磁気記録方式」である(図2[拡大表示])。この記録密度になると,微細化によって記録した磁性を保持する場所(記録ビット)の磁区の保持力が弱まり,熱エネルギによって磁界が消失する「熱ゆらぎ」が発生する。垂直磁気記録方式であれば,面方向に記録ビットを小さくしても垂直方向に記録ビットの容積を稼げるので,保持力を維持できる。ただディスクの構造や材質,ヘッドが変わるため製品化のハードルは高い。しかも「垂直磁気記録だからといって高価になるのは受け入れられない」(複数のハードディスク・メーカー)。ユーザーから見れば,価格は容量で決まるのが自然だからだ。ハードディスク・メーカーからすれば,垂直磁気記録方式への移行は可能な限り先に延ばしたい。

 実は垂直磁気記録方式は古くから考えられており,何度も「面内記録方式の限界」がささやかれてきた。ハードディスクの記録密度を上げていくと,記録ビットを構成する磁区は小さくなる。すると磁界の強さが弱まるため,読み取りが難しくなるからだ。1955年にハードディスクが誕生して以来,「記録ビットの微細化の限界」と言われるたびに垂直磁気記録方式が代案として浮上してきた。しかし1991年の「MR(Magneto-Resistance Effect:磁気抵抗効果」ヘッド,1996年の「GMR(Giant Magneto-Resistance Effect:巨大磁気抵抗効果」ヘッドと,ヘッドの改良で克服してきた。

 今度はディスク側で熱ゆらぎの問題が浮上すると,磁性層を複数設けることで磁界の保持力を高めるAFCメディア(Antiferromagnetically Coupled media)を,2001年に米IBM社と富士通が相次ぎ製品化*3。記録層の磁界を反転して転写する性質を持つ「ルテニウム」層を設けて,ディスク板面に対して垂直方向に逆極性の磁性層(安定化層)を作り出す。記録層と安定化層が互いに引きつけ合うことで,熱エネルギよりも高い保持力を持たせている。

 ただAFCメディアを使っても,面記録密度が200Gビット/インチ2を超える2005年以降は垂直磁気記録方式に切り替えなければ熱ゆらぎを避けられないと言われている。さすがに今度こそは垂直磁気記録方式に登場願うしかなさそうだ。既に2002年から2003年にかけて,米Hitachi Global Storage Technologies社(HGST)や米Seagate Technology社,米Maxtor社などのハードディスク・メーカーは,100G~170Gビット/インチ2の垂直磁気記録方式の技術デモを披露している。2005年から2006年にかけての製品化を目指している*4

(高橋 秀和)

耐衝撃性はパソコン側で工夫

図●米IBM社が開発した「IBMハードディスク・アクティブ・プロテクション・システム」
加速度センサーをノートパソコンに組み込み,落下や移動を検知してヘッドを退避させて耐衝撃性を上げる。移動中か,ひざの上か,という設置状態の定常運動をプロファイルとして持ち,ヘッドを退避させる加速度のしきい値を動的に変更することで無用なヘッド退避を減らしている。

 ハードディスクの容量が増え保存しておけるデータが増えるほど,衝撃による破損で失うものは大きくなる。ハードディスクの動作時の耐衝撃性が200G~300G/2ミリ秒であるのに対して,非動作時では1000G~1100G/2ミリ秒と5倍の差がある。「ハードディスクの破損はヘッドとメディアの接触によるものがほとんど」(日本IBMポータブル・システムズ ポータブル製品第三ポータブル製品の木下秀徳氏)であり,動作中はヘッドがメディア上に存在しているので,どうしてもメディアを傷つけてしまう。

 非動作時であれば,少なくともヘッドがメディアに接触しても問題が発生しない場所に位置している。物理的にヘッドが破壊されるような衝撃でない限り問題ない。そこで加速度センサーによって落下や移動を検知してヘッドを退避させることで耐衝撃性を上げる工夫が出てきた。米IBM社が2003年10月に出荷したノートパソコンThinkPad R40/T41が搭載する「IBMハードディスク・アクティブ・プロテクション・システム」である([拡大表示])。

 ファイル・システムのドライバが加速度センサーによって3次元の動きを監視し,一定の加速度がかかるとハードディスクにヘッドを退避させる命令を発行する。落下の検知からヘッドの退避が完了するまでの時間はおよそ500ミリ秒。当然何かがノートパソコンに衝突する,といった状況には対処できない。「ThinkPad T41がモバイル,R50は社内での持ち運びを想定している」(日本IBM PC製品企画&マーケティング事業部PC製品企画モービル製品グループの大久保宣江プロダクトマネージャー)ため,動作中の落下事故や机上の移動でハードディスクが破損するのを防ぐのが目的だ。移動中か,ひざの上か,という設置状態の定常運動をプロファイルとして持ち,ヘッドを退避させる加速度のしきい値を動的に変更することで無用なヘッド退避を減らしている。

 ハードウェアの追加は加速度センサーのみ。ハードウェアのコストは「数百円のレベル」(日本IBM開発製造スタッフ・オペレーションズの森山敦行主任広報担当部員)で済む。ただOSのファイル・システムとハードディスクのデバイス・ドライバの間に入ってアクティブ・プロテクション・システムを制御するフィルタ・ドライバをOSごとに用意する必要がある。現在対応するOSはWindows 2000/XP。「BIOSとLinuxへの対応が今後の課題」(日本IBMの木下氏)だという。