PR
写真1●携帯機器向け燃料電池を手がける主なメーカーの試作機
携帯機器向けの燃料電池は,パソコン・メーカーが中心になって開発している。東芝は,Librettoの背面に直結させる形で燃料電池を実装した試作機を公開。専用の燃料カートリッジを差し替えて,燃料を補給する。NECの燃料電池搭載ノートパソコンも,本体の背面に直結させている。東芝とNECは,2004年中の製品化を目指している。日立製作所は,製品化の目標を2005年に定め,開発を進めている。3社がメタノールをそのまま燃料極に送り込む方式を採用しているのに対し,カシオ計算機ではメタノールから水素を抽出する方式を採用した。同社は2007年にも,リチウムイオン電池の4倍の駆動時間を持つ燃料電池を実用化させるとしている。
図4●燃料電池の動作原理
燃料電池では,燃料極と呼ばれる電極(電池の負極にあたる)でメタノールから電子を取り出し,正極にあたる空気極で水素イオン,電子,酸素が結合して水を排出する。燃料には希釈したメタノールを燃料とする方式が主流である。
写真2●日本電子が試作した電気2重層コンデンサ
ニッケル水素電池並みのエネルギ密度を持つ,日本電子の「ナノゲート・キャパシタ」の試作機。ノートパソコンや携帯機器に限らず,次世代の蓄電技術として急速に浮上してきた。試作機はPCカードより一回り大きい。

期待を集める燃料電池

 リチウムイオン電池の先には燃料電池が控えている。リチウムイオン電池の約10倍のエネルギ密度を持つため,「駆動時間を大幅に延ばせる電池として期待している」(富士通パーソナルビジネス本部 ユビキタス事業推進部 統括部長の磯部祐司氏)。

 現在は,ノートパソコンや携帯機器のメーカーが自社製品への搭載を目指して燃料電池を開発している(写真1[拡大表示])。東芝とNECは2004年中に燃料電池を搭載したノートパソコンを製品化する予定。日立製作所は若干遅れており,2005年の製品化を目指している。

 燃料電池は名前こそ“電池”となっているものの,その仕組みからすれば発電機と呼ぶべきものだ(図4[拡大表示])。

 燃料電池自動車などは燃料に水素を用いるが,ノートパソコンではメタノールを使う。常温でガスになる水素を持ち運ぶのは現実的でないからだ。頑丈なボンベが必要だし,爆発物なので危険だ。燃料極と呼ばれる電極には,白金などの触媒が配置されている。触媒は水素のイオン化を促進する働きをする。放電時に燃料極に送り込まれたメタノールは,触媒に触れて水素イオンと電子,二酸化炭素に分かれる。電子は導電体を通って回路へ向かう。水素イオンは燃料極と空気極を隔てる電解質膜(セパレータ)を通り抜けて,空気極へ移動する。空気極では,機器から戻ってきた電子と外気中の酸素,水素イオンが結び付き,水となる。水は水蒸気となって排出される。

 メタノールを燃料とする場合,直接メタノールから電子を取り出す方式と,メタノールを分解して水素を取り出す方式がある。前者はDMFC(Direct Methanol Fuel Cell:直接メタノール型燃料電池),後者はPEMFC(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell:固体高分子膜型燃料電池)と呼ばれる。ノートパソコン向け燃料電池はDMFCが主流である。

 パソコン用としては唯一,カシオ計算機がPEMFCで開発中。PEMFCには,メタノールから水素を取り出す「改質器」が必要になる。改質器は小型化が難しいため,パソコンには向かないと考えられてきた。カシオ計算機では切手大の改質器の開発にメドを付けた。ノートパソコンを駆動できる試作機はまだだが,リチウムイオン電池と同程度の大きさで,4倍程度の性能を持つ燃料電池を2007~2008年に製品化したいという。

燃料電池の使い方に提案が必要

 着々と開発が進む燃料電池だが,「正直言って今のスペックでは燃料電池にあまり魅力を感じられない」(あるパソコン・メーカー)のが現状だ。今のところ燃料電池のスペックは,10%に希釈したメタノール300mlで,駆動時間は5時間程度。平均出力14Wで,最大出力は24Wである(NECの場合)。

 しかも,燃料電池の部分が大容量のバッテリパックよりも大きい。とても邪魔になる。それでいて駆動時間は5~10時間と,現行のリチウムイオン電池に比べ飛び抜けて改善されるわけでもない。おそらく多くのユーザーは,形状のデメリットを上回る性能向上があるとは受け止めないだろう。むしろ,大きさや燃料補給の面倒さなどから,ユーザーに「燃料電池なんてこんなものなのか」と思わせてしまいかねない。

 今のスペックのまま製品化するならば,燃料電池の必然性がある用途を明確に示す必要がある。さもなければ発電能力を大きく高めたいところだ。

 大きな性能向上には,発電効率の向上と,より高濃度のメタノールを使用可能にすることが必要だ。それが実現できれば,コンパクトな装置で長時間動作させられる。しかしそれには新しい素材による電解質膜の開発を待たねばならないなど,簡単には解決しそうもない。ブレークスルーへの道のりはまだ見えていないのが実情だ。

充電時間が数分になる新“電池”

 燃料電池以外にも,人工衛星からワイヤレスで給電してACアダプタを不要にし,常に使えるようにする「宇宙太陽発電」の流れをくむアプローチなど,新しい技術開発が進められている。中でもここに来て急浮上してきたのが,電気2重層コンデンサだ。日本電子が2003年10月に発表した「ナノゲート・キャパシタ」は,容量ではリチウムイオン電池にかなわないが,数分で充電が完了する画期的な技術である(写真2)。

 キャパシタとは,コンデンサの別名である。その意味では燃料電池同様,正確には電池ではない。キャパシタは,短時間で充放電可能な蓄電システムとして,高負荷時に他の電源を補助するバックアップとして使われることが多い。バックアップとしての利用が主なのは,容量が小さいためだ。しかし,ナノゲート・キャパシタは,重量エネルギ密度を,従来の10倍以上の50~75Wh/kgに高めることに成功した。これは,ニッケル水素電池と同等である。つまり,ナノゲート・キャパシタは主電源として使える可能性を持つ。しかもキャパシタなので,充電時間が極端に短い。体積エネルギ密度が低いという欠点もあるが,今後の改良でエネルギ密度の向上も期待できるため,そのうち“数分で充電できるノートパソコン用バッテリ”も夢ではなくなるかもしれない。「今は製造メーカーと具体的な製品化を検討中。まずは現在の性能でなるべく早く製品化し,それから性能向上に注力していきたい」(日本電子)という。

仙石 誠