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現実を見据えた発想転換が必要

 データ・キャッシュ・コンポーネントのアーキテクチャは,Enterprise BluePrintsが示すものとは異なる。お手本通りではない。ここが,評価の分かれるポイントとなる。しかし設計者やプログラマのスキル差を吸収できるという明らかなメリットがある。

 J2EEやオブジェクト指向に十分なスキルとセンスを持った設計者やプログラマには,このような仕掛けは不要なのかもしれない。しかし企業情報システム開発現場の全員が,J2EEやオブジェクト指向による分析/開発のエキスパートである状況は考えにくい。J2EEやオブジェクト指向を消化し,現実的な生産基盤として活用するうえでは,お手本に従うことは必ずしも得策ではない。独自の発想転換をしたアーキテクチャや手法を採用することも必要である。

企業情報システムのあるべき姿を見失うな

 最後に,フレームワークなど企業情報システムの基盤技術に必要な条件をまとめてみたい。

 まず,分析/設計手法を簡素化させ,コーディング量を減らすこと。これにより初期開発コストが減り,開発期間を短縮できる。

 次に,アプリケーションの構造を適度に分割できること。適切な単位にプログラムが分割されるので,ソースコードを均質化しやすい。結果として,保守性が向上する。

 基盤技術を使うための学習が容易であることも大切だ。トレーニングにかかるコストを減少できる。プロジェクトの垣根を越えて,人材を流動的に活用することができるようになればさらに望ましい。

 そして,組織としての力を引き出すこと。開発者個人の力も重要だが,プロジェクトはチームで進めるものである。組織全体で優れたシステムを構築できるような仕掛けが必要である。

 筆者は最近,以上の条件が軽視されているのではないかという危惧を抱いている。プログラミング技術にばかり注目が集まりすぎているように思う。オブジェクト指向がプログラミング言語から発生したことに起因しているのかもしれない。特にJ2EEの世界は,この傾向が強いように感じる。

 しかし,企業情報システムに要求されている成果物はプログラムではない。経営資源として価値のある情報,つまりデータである。開発技術や手法がオブジェクト指向やJ2EEに進化していっても,この事実は変わらない。

 これはデータ中心アプローチ(DOA)の思想に近い。企業情報システムの本質を語るうえでは,最終的に帰結するテーマであると言える。その証拠に,このところDOAが見直されつつあるようだ。雑誌などでも,DOAに関する記事を見かけることが多くなった。DOAとオブジェクト指向をうまく融合させ,価値のあるデータを生み出せるシステムを開発することが必要だ。

 J2EEは優れた技術の集積であり,Javaの可能性も無限である。しかし企業情報システムに適用する際には,企業システムの本質に沿った現実的な方法を採用すべきである。それが伴わない限り,システム開発がエンジニアの自己満足に終わってしまうことを忘れてはならない。

長尾 寿宏 Toshihiro Nagao

テンアートニ 第一事業部執行役員,プロダクト開発グループマネージャー
1986年,コンピュータと無縁な早稲田大学社会科学部を卒業。最初の職場で初めてコンピュータと出会う。汎用機とCOBOLに始まり,ダウンサイジング,オープン化,Web化と激しく変化する環境の中でシステム開発の現場に身を置く。1998年テンアートニに入社,数々のJava+Webシステム開発プロジェクトのリーダーを務めながら,Java開発基盤の整備を推進。同社のWebアプリケーション構築フレームワーク製品「WebWorkBench DeveloperCafe」の開発責任者である。