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High Definition Audio
DVDを超えた音楽表現を狙う

 Intelが2004年後半から出荷を開始する新しいチップセット「Grantsdale(コードネーム)*6」の目玉の一つとして挙げているものに,新サウンド機構「High Definition Audio(HDA)」がある。HDAは1997年にIntelが策定したサウンド機構「AC‘97」を置き換える。高音質化とともに,AC‘97の欠点だった仕様の曖昧さを解消する。2004年前半に公開される見込みだ。

図6●High Definition Audio規格の概要
図7●PCI Expressの利点
PCI Express搭載のパソコンが登場する時点(2004年中頃)では,OSがPCIとして扱うため,PCI Expressの利点は生かされない。

 AC‘97とHDAで定める機能は基本的に同じである。オーディオのデータ制御などを行う「HDAコントローラ」,オーディオ・データをデジタル/アナログで相互変換する「コーデック」,コントローラとコーデックをつなぐインタフェース「HDA-Link」の三つについて定める(図6[拡大表示])。

 AC‘97との最大の違いは扱える音声帯域を広げたことである。

 AC‘97ではDVD-Videoの再生がその上限だった。つまり,20ビット/48kHzでサンプリングしたデータを6チャネル分(5.1チャネル・サウンド)までしか扱えない。

 HDAではさらに高音質なデータを流せるようにする。Intelの資料によれば,「24ビット/192kHzでサンプリングした7.1チャネル・サウンドが一つのターゲット」だという。これは今後,DVD AudioやSuper Audio CDなどの高音質メディアやインターネットからの高音質コンテンツなどが広く流通する可能性があるからだ。加えて,モデム1チャネル,テレフォニ用に2チャネル分利用しても余裕があるようにする*7

 HDAの最大の売りは高音質化および多チャネル化がだが,短いタイムスパンで見れば,インタフェースの仕様がより厳密になるという点が大きい。AC‘97ではインタフェースの仕様の中で,特にコントローラの部分が曖昧だった。このため,チップセット・ベンダーごとに互換性がなく,ドライバを各メーカーが用意していた*8

 HDAでは曖昧な部分を取り除くことによって,統一したドライバを作れるようにする。Longhornでは「Universal Audio Architecture」と呼ぶドライバモデルを作り,Microsoftが基本ドライバを提供する(拡張部分に関しては各社がドライバを作ることもできる)。

 この結果,アプリケーションが相互に連携してボリュームを調整できるようになる。例えば,DVD-Videoを大音量で再生しているときでも,OSのエラー・メッセージの音は小さいままにしたり,IP電話で通話中にはテレビの音量を上げるといったことができるという。また,複数のコーデックがあり,それぞれにスピーカーがつながっている際,その音質にあった最適な出力先を選択できるような仕組みも入る。

PCI ExpressとシリアルATA
Longhornでネイティブ・モードに移行

 PCI ExpressとシリアルATAは,Longhornで正式サポートされるインタフェースである*9。PCI Expressはチップ間/デバイス接続用インタフェースであるPCIを置き換えるもの。2004年後半から出荷される「Grantsdale」搭載のマザーボードから搭載される見込みである。一方のシリアルATAはパラレルATA(IDE)を置き換える。2003年後半からチップセットへの搭載が始まった。

 いずれのインタフェースも前世代の規格をハードウェア・レベルでエミュレーションできるようになっている。このため,既存のOSでも,特別なドライバを必要とせず,PCIとパラレルATAとして認識,操作できる。

 Longhornでは,PCI Express/シリアルATAがそれぞれPCI/パラレルATAから拡張した部分を使えるようになる。PCI Express/シリアルATAは,PCI/パラレルATAの欠点を解消するだけでなく,高性能化している。

 PCI ExpressがPCIより優れている点は大きく五つある(図7[拡大表示])。

 一つは速度。PCIは両方向で132Mバイト/秒だが,PCI Expressは片方向当たり250Mバイト/秒で伝送できる。しかも,伝送リンクを最大32本まで束ねる拡張機構があり,これを活用して片方向最大8Gバイト/秒まで高速化できる。

 二つ目は将来への拡張性。デバイスごとに異なるクロックで通信できるようにしてあるので,将来,さらに高速なPCI Expressの投入が容易である。

 三つ目は複数のデバイスが同時に通信できること。例えばA,B,C,Dという四つのデバイスがある場合,AとB,CとDが同時に通信できる。PCIのようなバス構造の場合,AとBが通信している際にはバスが占有されるのでCとDの通信はバスが空くまで待つ必要がある。

 四つ目はQoSのサポート。デバイスにプライオリティを付けて通信できるようになる。例えば,ビデオカメラからの映像を他のデバイスよりも優先度を上げることで映像を途切れずに送れる。

 五つ目は活線挿抜。パソコンの起動中に動作中のデバイスを着脱できる。

 上記のうち,QoSや活線挿抜,デバイス間通信などがLonghornで新たに使えるようになる見込みである。

 シリアルATAとパラレルATAの主な違いは,(1)伝送速度,(2)コマンド・キューイング,(3)活線挿抜――の三つだ。

 (1)伝送速度の現状は片方向150Mバイト/秒である(パラレルATAの最新仕様,Ultra ATA/133では双方向133Mバイト/秒)。2004年中ごろに300Mバイト/秒,2007年に600Mバイト/秒の規格が策定される予定である。

 (2)コマンド・キューイングは複数のコマンドを同時に受け取り,コマンドの順番を最適化する機能(最大32コマンド)のこと。ハードディスクのヘッドが最も効率の良い動作になるように並び替える。

 (3)活線挿抜はOS起動中にドライブの取り付け/取り外しができる機能である。

 このうち,(1)の300Mバイト/秒の転送速度と(2),(3)は「Serial ATA II」と呼ぶ規格で定められている*10

 Serial ATA IIでは一つのリンクを複数のリンクに分岐するPort Multiplierという規格も含まれる。これは電気信号をすべてのリンクに分岐するリピータハブのような動作をするものである。これらすべての強化項目がLonghornでサポートされる。

(中道 理)