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キーを増やさず,機能を増やす

画面4●使いかたナビ
キーワードを入れて,探したい機能を検索できる。初の搭載端末は2003年末に登場した。画面は「ムーバ N506i」。
図7●機能を画面に表示する
各ショートカット・キーに割り当てられた機能を画面上に表示する。操作局面に応じて,表示される機能は切り替わる。画面は東芝製の「W21T」。
画面5●デコメール作成画面
デコメールは,携帯電話でHTMLメールの作成を可能にするもの。文字のサイズや色を変えたり,画像を挿入できる。画面は富士通製の「F901iC」。

 メニュー構成やキー割り付けなどのUI設計に目を向けると,求める機能にどれだけたどり着きやすくするかが大きなテーマとなっている。特に使い勝手に影響を与えるのは,日ごろそれほど使わない機能。メールのように頻繁に使う機能は,専用のキーに割り当てればよいし,ユーザーが操作に慣れるため不満にはつながりにくい。不慣れな操作ほど,スムーズに実行できることが必要だ。

 目的の機能に少ない手順で到達させるための最も単純な方法は,キーの数を増やすことである。基本となる数字キーと電源,発信キーだけでなく,上下左右にカーソルを移動できる十字キーや,メールやアドレス帳といった主な機能を呼び出すためのショートカット・キーが付け加えられていった。

 しかし,増やせるキーの数には限界がある。携帯電話のサイズが限られているだけでなく,分かりやすさが失われるという問題があるからだ。使いたいキーをいちいち探さなければならないのでは,かえって使い勝手は低下する。

 そこで,キーを増やさずに多くの機能に対応しなければならない。ここでは,二つの工夫が必要になる。まず,メニューをうまく分類し,階層化すること。階層構造や階層名が適切なら,階層名自体でユーザーをガイドできる。目的の機能にスムーズにたどり着きやすい。

 とはいえ,必ずしもそれだけではうまくいかないこともある。そこで,メニュー階層をたどらなくても言葉で直接機能を検索できる「使いかたナビ」を搭載した携帯電話も登場している(画面4)。

 もう一つの工夫が,キーと機能の対応関係を分かりやすく見せること。一つのキーが複数の機能で利用されるので,ユーザーの混乱を招きやすい。これを防ぐには,キーに機能を打刻しておくのが有効だが「一つのキーにいくつもの機能が書かれていては,かえって分かりにくくなる」(富士通パーソナルビジネス本部ユビキタスクライアント事業部モバイルフォン企画部の渡辺英明氏)。

 そこで今,各キーに割り当てられた機能を画面上に表示する方法が一般的になっている(図7)。操作可能なメニューが画面上に表示され,操作局面に応じて切り替わる。「画面が大きくなったことや解像度が上がったことで,こうした手法が可能になった」(富士通の渡辺氏)。

 別の方法としては,パソコン風のメニューのスタイルもある。例えば,2004年にNTTドコモの端末に搭載された「デコメール」機能は携帯電話でHTMLメールを作成できるもので,文字の色やサイズを変えたり,画像を挿入したりできる。これだけの機能を,すべてキーには割り当てられない。

 そこで富士通製の「F901iC」では,機能に対応したアイコンを画面の下部に並べている(画面5)。一つを選択すると,サブメニューが表示される。

ユーザーのカスタマイズを可能に

 UI設計で今後のテーマとなるのは,個別のユーザーにいかに合わせるかである。使いやすいと感じるUIは,ユーザーによって違う。例えば旧機種のUIに慣れているユーザーは,たとえ使いやすいUIが発明されたとしても,それが既存のものと異なると使いにくく感じる。だから「基本的には,従来のUIを大きく変えられない」(東芝の今村氏)。

 こうした制約の中で一人ひとりに使いやすいUIを提供するには,ユーザーのカスタマイズを可能にするしかない。パソコンでは従来から採り入れられてきたアプローチだが,携帯電話でも試みは既に始まっている。

 その一つが,東芝製の「W21T」。メール作成時に使う機能をショートカット・キーに割り当てられる。例えば,顔文字をよく使うユーザーなら顔文字機能を割り当てておける。通常,顔文字は入力モードを切り替えなければ入力できないが,その必要がなくなる。

(八木 玲子)

シフトキーを使ってキー打鍵を減らす

画面●Kodama
Webページで公開しているデモ画面。画面の右端に表示されているのが,12個のキーに割り当てられたローマ字。シフトキー(「Y」)を押すと,キーの割り当てが変わる。
図●Kodamaのキー割り付け
Kodamaでは,2段階のシフトによってすべての文字を入力する。また,各ローマ字の割り付け位置を,キーに打刻されている文字に近づけた。

 T9以外にも,キー打鍵数を減らして入力効率を向上させるための手法はいくつも提案されてきた。例えば1999年には,富士通がローマ字による文字入力方式を発表している。大学や個人の研究者の間でも,多様な研究がなされている*。ただその多くが,キーの数や配置を従来と変えることを前提としている。このため,なかなか実用化に結びつかない。富士通が発表した方式も,その後同社製の携帯電話には採用されていない。

 その点,千葉大学生活協同組合の職員である中川圭司氏が考案した「Kodama」は,これまでの携帯電話の形状を変えることなく導入できるのが特徴だ。シフトキーを使ってキーに割り当てられた文字を切り替える。NTTドコモの携帯電話向けのiアプリや,PDA用のKodamaをWebで無償公開している。

 Kodamaは,ローマ字を使ってひらがなを入力する(画面)。たとえば「か」なら「KA」と打鍵する。ただし26文字あるアルファベットを,12個のキーにすべて割り当てることはできない。そこでシフトキーを使って,文字の割り付けを3段階で切り替える。シフトキーを押すたびに,割り付けられる文字が変化する。

 中川氏が気を配ったのは,キーの割り付け方。まず,よく使われる文字ほど少ないシフト数で入力できるようにした。さらに「携帯電話のキーに打刻されている文字と実際に入力する文字を近づける工夫をした。両者がバラバラだと,ユーザーが混乱してしまうからだ」(中川氏)。

 シフトキーを押さない初期状態では,清音の入力時に使われる文字が割り当てられる([拡大表示])。まず,母音をL字型に配置する。それ以外のキーには,表面に打刻された文字の子音を割り付けた。例えば「か」のキーには「K」,「は」のキーには「H」といった具合だ。マ行とワ行をのぞく清音は,シフトキーを押さずに入力できる。

 1度シフトキーを押すと,清音が濁音に切り替わる。例えば「か」のキーにガ行を入力する「G」が,「さ」のキーにはザ行を入力する「Z」が割り付けられる。

 2度シフトキーを押さなければならないのは,撥音(パ行)や記号の入力時。日本語の入力時にはあまり使われない「C」や「X」といった文字もここに配置した。

 シフトキーを「Y」にしたのにも合理的な理由がある。Yは「I」「E」との組み合わせでひらがなが作れないからだ。例えば「Y」を一度押されたとき,それがシフトキーとして押されたのかヤ行を入力するために押されたのか区別がつかない。そこで,1段シフト時に,母音のキーも残しておく必要がある。このとき「I」と「E」の母音を省略できるので,それ以外の文字を配置できる。