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警備システムが突破口になる

図3●センサーネットによるホーム・セキュリティ
三菱電機はガラスの破砕検知,人感,ドア開閉検知など,単機能センサーノードの販売を考えている。各センサーは無線(ZigBee)で連携させる。ユーザーは新しいセンサーを必要に応じて追加したり,センサー同士の連携を自由に設定できる。
図4●人にセンサーをつけたときに考えられるシナリオ
オフィスでの場合。ユーザーのいる周囲の状態を制御に反映できる。
図5●家電量販店での行動履歴
店内にセンサー・ネットワークを構築することで,エリアごとの人の滞留時間,エリアの移動履歴などを取得できる。これにより,どのように売り場を配置すれば顧客が店内全体を回遊するかを分析できる。図は今崎直樹,「群集行動の観測・分析技術」,東芝レビュー,Vol59 No2(2004),pp70-71の図4を基に作成した。

 センサー・ネットワーク普及のシナリオはこうだ。まずいくつかの特定のアプリケーションから導入が始まる。それがやがて共通のプラットフォームに基づいたネットワークとなり,相互に連携しあうようになる。

 さまざまな規格のLANがやがてイーサネットに収れんし,ネットワーク層もTCP/IPで共通化されてインターネットが成立したように,センサーネットも同じ道をたどって普及するという見方だ。「インターネットというインフラが出来上がった後,多くのアプリケーションが作られた歴史を見れば,センサー・ネットワークでも同じことが起きるだろう」(東京大学大学院 新領域創成科学技術研究科 基盤情報学専攻の森川博之 助教授)。

 最も早く立ち上がりそうなのが,ホーム・セキュリティなど安全のためのシステム。家族や社会の安全のためにコストを負担する素地ができつつあるからだ。「窓が割られたことを検知するセンサーノードなら1000円程度で作れそう。安全意識が高まっている今,そのぐらいなら支払うのではないか」(慶應義塾大学政策・メディア研究科委員長で環境情報学部の徳田英幸教授)。

 三菱電機はセンサー・ネットワーク・システムをホーム・セキュリティ向けに提供できないかと考えている。「煙やドアの開閉,人の接近などを感知する単機能のセンサーノードをユーザーが自由に組み合わせて個々の家庭に合わせるイメージだ」(三菱電機 情報技術総合研究所ユビキタスネットワークシステム部センサーネットワークチームの稲坂朋義チームリーダー)(図3[拡大表示])。

省エネで敷設コストを回収できる

 もう一つ現実的なソリューションとして省エネルギーが挙げられる。センサー・ネットワークを省エネルギー用途に使えば,電気料金の減少分で敷設コストが賄えるかもしれない。「ビル全体で30%の省エネが達成できれば,5年間で省エネシステム導入のコストを回収できるという試算がある」(東京大学大学院 情報理工学系研究室 知能機械情報学専攻の佐藤知正教授)。

 例えば,センサー・ネットワークから得たビル内の温度,明るさ,二酸化炭素濃度などによってビル全体で最適な空調/照明にする。その際に多種多様なセンサーノードを使えば,より細かな制御が可能となる。現行のシステムの場合,その設備を提供するベンダーの製品に限定されるが,他社のセンサーノードと組み合わせることができれば,システムの差異化や低価格化も期待できよう。

 こうすれば「社員証をセンサーノードにすることも考えられる(図4[拡大表示])。人の位置を把握できるので,もっと厳密な電力管理が可能。社員の快適性向上や全社的なセキュリティ向上も期待できる」(沖電気工業 研究開発本部ユビキタスシステムラボラトリの福永茂チームリーダ)。

顧客の回遊をセンサーで集める

 量販店がセンサー・ネットワーク導入の先駆けとなるかもしれない。センサー・ネットワークを通じて,客の行動パターンやし好を調べられるからだ。これまでも人手を使って,顧客の動向を調べることは行われてきた。例えば,カメラを使ってある特定の人がどのように動いたかを観察するといった方法だ。センサー・ネットワークを利用すれば,人手を介さずに精度良く,しかも多数の顧客の行動を調べられる(図5[拡大表示])。これを盗難防止に使うこともできる。

利便性が不安に打ち勝つか

 だが,そもそも最初にあげた絵空事の世界が本当にうれしいのかという根本的な問題がある。いつも機械に監視されている世界は何となく気味が悪い。

 たとえ,処理がシステム内で閉じており,簡単に解析できないとしても,「通信が盗聴されたら」「センサー情報を集約するサーバーが乗っ取られたら」など不安は尽きない。もちろん,暗号や認証の技術を駆使し,こういった問題を発生させない努力は必要だが,「いくら技術が完璧だと言っても,人の感情の問題は解決できない」(カリフォルニア大学アーバイン校Information & Computer Scienceの須田達也教授)。

 一方で「携帯電話を考えれば分かるように,あれば便利と思えるものは,使い始めると,やがてなくてはならない存在になる」(東京大学の佐藤教授)のもまた事実。センサー・ネットワークが浸透してくれば,やがてその利便性が心理的不安を薄れさせるかもしれない。

中道 理