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インターネット,携帯電話,無線LAN。これらが成功したのにはそれなりの理由がある。歴史を振り返ることで成功するための六つのポイントを導き出す。

(本誌)

 筆者は現在,無線LANチップベンダーの経営者という職にある。実は4年前までネットワーク関連の技術者として,NECの研究所などで研究/開発に従事していた。

 この転職によって,技術を別の角度から眺められるようになり,技術者のときに見えていなかったものが姿を現すようになった。例えば「なぜ,話題にならなかったあの技術が成功したのか」「鳴り物入りで開発された技術が,なぜ鳴かず飛ばずなのか」というビジネス的な視点だ。この視点に立って市場を見ると,「もったいないな」とか,「もっといい売り方があるのに」と思える技術が少なくない。

 そこで本稿では筆者が技術者として培った約20年間の経験と,4年間の経営者としての経験を基に,技術書にはない一味違うネットワーク技術論を展開してみたい。今後の技術開発やビジネスのヒントになれば幸いである。

 前編となる今回は,これまでのネットワークの歴史を振り返り,その根底に流れる普遍的な事象を筆者なりの視点で整理したい。次回(後編)は,現在進行形で普及が進んでいる無線LANについて,その成功の理由や今後発展するための条件に関して考えたい。

視点1. 集中と分散に絶えず注目

 歴史を振り返ると,コンピュータは集中から分散,分散から集中へという変化を絶えず繰り返してきた。前職のNECでは1983年当時,中央研究所にACOSという大型コンピュータが設置されていた。筆者はそれにリモート端末で接続して計算をしていたものだ。その後,パソコンが出現し自分の手元にあるパソコンで計算するようになった。次に出現したのはLANである。LANとワークステーションにより,人々は再びクライアント―サーバー・モデルという集中型システムで計算を行うようになった。

図1●分散と集中の関係
現在はネットワークのコストが高く,集中型のシステムが売れているが,今後ネットワークのコストを急激に下げる技術が登場し,分散全盛の時代になると予測できる。

 このように処理形態の主流が分散か集中で揺れ動いた背景には,コミュニケーション・コストとコンピューティング・コストの関係がある。コミュニケーションのコストが安ければ分散に振れ,逆に高くなれば集中に重心を移す(図1[拡大表示])。

 この法則に,もう一つ付け加えておきたいことがある。それは「コストが高い方の技術でブレイクスルーが生まれる」というものだ。歴史を振り返っても,コンピューティング・コストが高かった時代にパソコンという大きなブレイクスルーが起こったし,その後,コミュニケーション・コストが高くなると,電話モデムの速度が大幅に向上し,最終的にはADSL技術に発展していった。これは技術のトレンドを考える上で重要な視点である。システムが集中に向かっているのか,分散に向かっているのかを見極めることで,技術開発の力点をどこに置くべきかがある程度分かるからだ。

 今の市場を見ると,メールやWebなど文字と画像が含まれた情報はネットワークを中心にやり取りされる一方で,動画をオンデマンドで流すほどまで帯域は広くなく,リアルタイム性を保証できない。結果,ネットワークを通じた動画配信は試験的な提供にとどまっている。ハードディスク・レコーダやDVDレコーダなど,データを手元に置く用途に向けたストレージ・ビジネスが好調になっている。先の視点で考えれば,現在はコミュニケーション・コストが相対的に上昇している時期と考えられる。裏を返せば,コミュニケーションのコストを下げるべく,FTTHの導入や研究開発が行われているのだ。

 筆者はこの傾向を,インターネットで映像コンテンツがやり取りされる時代への端緒と見ている。ストリーミング・データをネットワークに流すと,これまでのアプリケーションとは比べものにならないほど大きなピーク負荷が発生し,従来の網設計概念を破壊する。現在の技術を使い続ける限り,コミュニケーション・コストを劇的に下げることは困難である。そこでローカル(またはローカルに近い場所)にコンテンツをためることでこれを解決しているのだ。この状況を破るためには,通信コストを劇的に下げる新技術の登場が不可欠である。