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 1月14日金曜日,福岡へ出張。昨年12月1日にオープンした羽田第2旅客ターミナルを初めて利用した。テレビ・コマーシャルのイメージでは,天井が扇形で高く開放感のある空間かと期待したが,意外に天井は低く,第1ターミナルと比較して空間が狭く感じられた。

 福岡行きのゲートは65番。B搭乗口から待合室に入って,はしの65番ゲートまで歩くこと歩くこと。一直線に長い長いターミナルだ。入り口から放射状に何本かのターミナルを設けるといった工夫はされていない。電動カートがお年寄りを乗せてゲートに向かっていた。確かにこの距離だと,お年寄りが歩くのは気の毒だ。

 筆者は全日空のファンだが第2ターミナルのために顧客が減るのでは,と心配になった。今,この原稿を帰りの飛行機で書いている。帰りは空港からリムジンバスを使うことが多いのだが,第1ターミナルでは到着口から近かったバス乗り場がどうなっているかそれも心配だ。

 さて,今回は2月4日のNET&COM2005における講演「『逆転の発想』が企業ネットワークを変える」の内容から,2年間のブームが終わったIP電話の総括と,これからのIP電話で台風の目になりそうな「Skype」について書きたい。

IP電話の成功と失敗

 IP電話は2年前に,大手企業での導入が日本経済新聞の1面で報道されてブームになった。その後,大企業がIP電話を導入すると,それ自体がニュースとして新聞で報じられるという状況が続いた。しかし,そんなブームはもう終わった。結果を総括すると,「設備コスト削減」のように数値として可視化できる目的を持って導入されたIP電話は成功しているが,「ワークスタイルの変革」とか「オフィスの生産性向上」といった可視化し難い目的をかかげたIP電話はほとんど成功していない。

 例えば個人のデスクを固定せず,社員数より少ないデスクを共用するフリーアドレス。営業マンの尻を引っぱたくのが主な目的だが,1カ月もしないうちに「フリーズアドレス」になっていることが多い。契約書や見積書など紙を使わざるを得ない職場では,毎朝ロッカーからファイルとパソコンを取り出し空いている席を見つけて仕事を始めるより,固定的なデスクにファイルやパソコンを置いている方が効率的だ。また,営業的仕事でも技術的仕事でも共通に聞かれるフリーアドレスの欠点は,先輩と後輩が隣あって座ってOJTしたり,電話のやりとりを近くで聞いて状況を把握するといったチーム・コミュニケーションが難しいことだ。フリーアドレスで成功したという話は,IP電話を売っているベンダーやキャリアからしか聞いたことがない。

IP電話導入の四つのポリシー

 ブームが終結したと言っても,それはIP電話の導入が終わったということではない。電話のIP化の流れは合理的な必然であり,誰にも止めることはできない。ブームは終わっても,着実にIP電話の導入は進んでいる。これからのIP電話導入では,四つのポリシーが重要だ。

 第1に可視化困難な効果でなく,「設備コスト削減」という実利を取ること。電話の利用は固定電話を中心に年々減りつづけている。総務省の統計では1999年に年間で約62億時間だった通話時間が,2003年には52億時間に減った。通話時間減少の主因はメールの普及だろう。メールを1日に数十通受信したり送信したりする人は珍しくないが,電話を数十回かけたり受けたりする人は少ない。減少を続ける音声通信のために高い設備コストをかけることはポリシーとしておかしい。VoIPサーバーや高価なIP-Phoneを不要にし,確実にコスト削減するのが賢明だ。

 第2のポリシーは陳腐化リスクを軽減するため,「資産を極力所有せず」「短いライフサイクル」で導入から更改までの企画・設計をすること。後述するSkypeもその例だが,IP電話の技術やサービスはまだまだ変化する。IP電話のための資産はなるべく少なくし,短い期間で投資の回収を図ることが肝要だ。

 第3にエンドユーザーが電話に求めている基本的な機能や使い勝手を大切にすること。生産性向上のためにユニファイド・メッセージやプレゼンス(在席などの状態表示)を強調して採用されたIP電話が,ピックアップや転送といった基本的な電話の使い勝手が悪いという理由で,エンドユーザーから拒絶されたケースがある。付加的な機能を強調する前に,エンドユーザーの求める基本的な機能が,従来の電話と同等に使えることを確かめねばならない。

 四つめのポリシーは,生産性向上のためのメニューには極力コストをかけないこと。メールやWebが爆発的に普及したのは,安くて便利だからだ。良いものは,ヘ理屈をこねなくても使われる。パソコン上のソフトで電話や会議通話を可能にするソフトフォンは,ベンダーに言わせればこれからのIP電話の目玉だという。しかし,ベンダーの勧めるソフトフォンは1本が1万円から2万円もし,さらに1万数千円のUSBハンドセット(受話器)やヘッドセットを買わねばならない。

 IP-Phoneが1万円台なのにソフトフォンだと3万数千円。とても納得できる価格ではない。しかも,ベンダーのソフトフォンでは本当にやりたいことができないのだ。無料IP電話ソフト,Skypeならそれができる。

Skypeから生まれる企業ネットの革新

 筆者のようにプロジェクトを組んでコンサルティングや設計をする仕事では,ソフトフォンで生産性向上を図ることが可能だ。ただし,そのためにはプロジェクト・メンバーの状態がプレゼンスで表示され,ワンクリックで電話したり,電話会議やチャット会議ができなければならない。

 こうしたことは,ベンダーのソフトフォンではできない。なぜなら,自社内でしか使えないからだ。プロジェクトは自社メンバーだけで構成されている訳ではなく,ほとんどの場合,複数のパートナー企業のメンバーが入っている。ベンダーのソフトフォンは自社内メンバーのプレゼンスしか表示できないし,会議通話に社外のメンバーを加えることもできない。これではプロジェクトの生産性は上がらない。

 Skypeは社内,社外にかかわらずプロジェクト・メンバーをコンタクト・リストというプレゼンスに加えてオンライン,退席中,取り込み中といった6種類の状態で表示できる。単純な1対1の通話に加え,コンタクト・リストからメンバーを指定して最大5人までの会議通話が行える。チャット会議なら50人まで可能だ。必要なファイルを会話中に相手に送信するのも簡単。複数の企業にまたがるコラボレーション・ワークの生産性を確実に高めることができる。

 SkypeはルクセンブルグのSkypeTechnologies社が開発・運用しているピア・ツー・ピア(P2P)型の無料IP電話だ。Skypeの利用方法はいたって簡単。SkypeのWebからダウンロードしインストールする。設定はすべて自動的に行われるので専門知識は必要ない。SkypeNameというアカウントを登録すれば準備は完了。通話したい相手のSkypeNameを指定して通話やチャットができるようになる。Skype同士の通話は無料,通常の固定電話への発信はSkypeOutと呼ばれ有料だ。Skypeには050などの番号が付与されてないので,現在は固定電話や携帯電話からSkypeへの発信はできない。

 筆者はSkypeをノートパソコンにインストールし,@Freedで使っている。どこにいてもプロジェクト・メンバーと相談したり,ファイルの送受信が簡単にでき,重宝している。筆者はSkypeの利用者のことをSkyperと呼んでいる。P2Pはうさんくさい,などと言う非合理的な先入観は捨て,皆さんにも体験することをお勧めしたい。IP電話の新しい可能性が実感できるはずだ。もちろん,Skypeが企業の電話に対するニーズをすべて満たすことはできない。しかし,IPセントレックスや携帯電話と併用され,企業ネットワークに新たな革新を起こすことは間違いない。

第2ターミナルからの帰りに

 福岡から羽田に着いた。出口への動線は意外に短く,バスターミナルも近かった。以前はバスの乗車券を買って乗り場に行かないと空席の有無が分からないというお粗末なシステムだった。新ターミナルではバスの発券機で購入前に空席のありなしが確認できるようになった。リムジンバスは第2ターミナルで乗客を乗せてから第1ターミナルに向かった。到着後の利便性はまずまずかな,と思った。今回は時間がなかったが,次に第2ターミナルを利用するときは,レストランやショップをチェックしたい。

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松田 次博:情報化研究会主宰。1984年より,情報通信に携わる人の勉強と交流を目的とした情報化研究会を主宰。 近著に本コラム30回分をまとめ、IP電話を中心とする企業ネットワーク設計技法を書き下ろした「ネットワークエンジニアの心得帳」がある。NTTデータ勤務。趣味は,読書(エッセイ主体)と旅行。