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配線:多層配線をフレキシブルに

写真1●セイコーエプソンがインクジェット印刷で作成したフレキシブル基板
図3●インクジェット印刷による配線方法
金属微粒子を混入したインクをインクジェット・ヘッドで射出することで配線を印刷する。20層の多層回路基板を試作した。

 現在実用化されているフレキシブル基板は4層前後。しかし既存の技術のままで,これ以上層の数を増やすのは現実的ではない。フォト・リソグラフィの原板となるフォトマスクが層の数だけ必要になりコスト増を招く。

 そこでセイコーエプソンはインクジェットによる印刷技術を応用した薄型多層基板を試作した(写真1)。層数は20である。基板を除く部分の厚みは200μmと薄い。基板に金属配線を直接描いて回路を形成する。フォトマスクが不要になり安価に多層化できる。配線の変更も描画データを差し替えるだけで済む。「フォト・リソグラフィに比べて50%はコストを削減できると見ている」(セイコーエプソン 生産技術開発本部KN推進プロジェクトの和田健嗣部長)。

 多層配線をインクジェットで印刷するために,金属微粒子を含んだ特殊インクを開発した(図3[拡大表示])。特殊インクが必要なのは,金属微粒子は互いにくっつく性質を持ち,ヘッドが目詰まりを起こすから。そこで金属微粒子の凝固を防ぐために,有機物の膜を付ける。

 多層配線の作り方はこうだ。基板にインクを射出して,第1層の金属配線を描画。導電性のない有機物の膜を取り除くために150~200℃の熱で焼き固める(焼成)。2層目を描画する前に,第1層と第2層の回路を結ぶ垂直配線を描く。焼成後に層と層の間を絶縁する絶縁膜を描画する。これを繰り返すことで多層化する。「今回は20層だが,必要に応じて増やせる」(和田部長)。

 今回試作した多層基板の外形寸法は20mm×20mm。描画に使用するのは民生向けのインクジェット・プリンタ用ヘッドと同等品。量産時には複数のヘッドを使い製造速度を上げる。「50cm角の多層基板の製造装置を開発中」(和田部長)という。今後は量産技術の検証を進め,2007年の実用化を見込む。

 課題は抵抗値の低減である。ポリイミドを使ったフレキシブル基板で使える200℃以下の焼成温度では,金属微粒子同士を完全に融着させられない。金属微粒子間にすき間がある状態になるため,金属塊(バルク)に比べると抵抗値が10倍程度に上がる。「焼成の温度を300℃程度に上げれば抵抗値は下がるが,フレキシブル基板への適用は難しくなる」(和田部長)という。バルクの金属を使う既存のフレキシブル基板に対しては,「多層・薄型で差異化を図る」(和田部長)。