生物になるコンピュータ
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図6●究極のコンピュータ・システム 生物はES細胞と呼ばれる細胞から,周囲の状況(化学物質の濃度)などに応じて変化し,最終的に生物の形が出来上がる。同様に,コンピュータも周囲の状況を見ながら,自律的に必要とされる役割を担うように変化し,全体として所望の役目を果たすシステムになる時代が来るかもしれない。 |
ここまで述べてきたような仕組みをネットワーク,サービス,ストレージなどあらゆるレベルで実装していけば,人がネットワークにつなぎ電源を入れただけで,ユーザーが必要とするシステムが出来上がる世界がやってくる(図6[拡大表示])。
生物はES(Embryonic Stem)細胞が各機能を担うように変化していくことで,体を作り上げる。ES細胞は分化の過程で,周囲の状況(化学物質の濃度)に応じてそれぞれの役割を持つ細胞に変化する。これを際限なく繰り返すことで,それぞれの器官を形成し,最終的に生物全体が出来上がる。
一方,現在のコンピュータは見方によってはES細胞に近い。実行するプログラム次第でさまざまな形態に変わることができるからだ。多数のコンピュータがつながる箱を用意し,それらの相互作用によってユーザー所望のシステムが出来上がる仕組みは夢物語ではない。例えば,1台のコンピュータをインターネットに接続すれば,その情報を刺激として,連鎖的に必要なソフトウェアが起動していくイメージだ。現在,多くのネットワーク機器は専用装置となっているが,「最近ではレイヤー2スイッチのアクセラレーション・チップが登場している。これを使えば,例えばパソコンを負荷分散装置やファイアウォールにできる」(富士通研究所ITコア研究所ITアーキテクチャ研究部長の武 理一郎氏)。システムを構成するほぼすべての要素はコモディティなコンピュータで実現できるのだ。
さらに先を見れば,「周囲の状況によってハードウェア・レベルで自己組織化するシステムも考えられる」(国際電気通信基礎技術研究所ネットワーク情報学研究所長の下原勝憲氏)。すでに,プログラムによって回路を動的に変更できるFP GA(Field Programmable Gate Array)のようなハードウェアは存在している。これを使う。「FPGAの回路プログラムが相互作用によって,進化していくことはすでに検証されている。道具は揃っており,後はいつ始めるかだ」(下原氏)。コンピュータが本物の生物に近づく日も,そう遠くないのかもしれない。
生物と情報システムの共通項
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