無線LANが標準化されてからわずか8年。今や企業,家庭に広く普及し,その勢いが衰える様子はない。CSMA/CAと呼ぶアクセス方式を採用したことが今の興隆につながった。

(本誌)

 今や無線LANは,家庭/企業の無線データ通信の主役といってもいいほどに普及した。一体どうして無線LANがこれほど普及したのか。

 また,標準化とスピードの歴史をたどれば,1997年にIEEE802.11がリリースされたときには2Mビット/秒でしかなかったものが,1999年の11bで11Mビット/秒,11aで54Mビット/秒になった。現在は,100Mから200Mビット/秒を実現する11nの策定作業が,2007年のリリースを目標に続けられている。つまり,この10年間で100倍もの高速化が実現しようとしているのだ。何が無線LANと他の無線技術を分けたのだろうか。

 今回は無線LANの成功の理由を探りたい。

周波数拡大こそが成功の証

 1990年代初め,無線LANという規格をIEEE 802委員会が作ろうとしたときに,まず問題になったのが空いている周波数帯域を見付けることだった。最終的には,900MHz帯と2.4GHz帯が割り当てられた(900MHz帯は日本では使用を許可していない)。これらはISM(Industry Science Medical)バンドと呼ばれる帯域である。ISMとは特段に用途を定めるものではなく,産業,科学,医学などの発展のために用意した帯域である。

 周波数は有限の資源である。その割り当ては,慎重,公平かつ長期的な展望に立つ必要がある。したがって,専用の帯域を取得するには,携帯電話などのように,事業計画を伴うような長期的展望が必要となるわけである。無線LANはプライベートで使用するものであり,その事業規模は見えなかった。当時の政策判断としてISMバンドを割り当てるのがベストだったのだろう。

 その後,インターネットが普及し,有線ネットワークが広帯域化した。これを受ける形で米国はUNII(Unlicensed National Information Infrastructure)構想,日本はe-Japan構想を策定した。この過程で,政府が無線ブロードバンド技術の重要性を認識し,1999年に5GHz帯を利用する11a(日本ではARIB標準T71)を標準化した(日本では5.15G~5.25GHzを割り当てた)。

 この帯域はISMバンドと異なり,無線LAN専用に割り当てたものだ。ただし,この帯域は気象衛星がすでに使用していたため,無条件で使えるものではなかった。具体的には屋内での利用に限定した。1999年は2.4GHzを利用する11の高速版,11bを標準化した年でもあった。

 2003年は無線LANが広く家庭に浸透する年となった。理由は二つある。まず,11aと同じOFDM変調を使った2.4GHz帯で使える高速の無線LAN標準,11g(最大54Mビット/秒で通信可能)が登場したこと。もう一つは,ほぼ同時期にADSLを筆頭とした高速のインターネット・アクセスラインが一気に普及したことである。この二つがうまく合わさったことで,無線LANは一気に広まった。無線LANは今やインターネットへのアクセスという用途だけでなく,ネットワーク家電,インターネット電話という新しい市場での採用が始まっている。近い将来,自動車や飛行機にまで浸透するだろう。

 2004年11月には,WRC2003(世界周波数会議)の決議に対応する形で,5GHz帯をさらに開放する答申を総務省が出した。具体的には,4.9G~5.725GHz(一部帯域を除く)というほぼ1GHz近い帯域を開放した。政府が無線ブロードバンドの重要性が認識した結果といえる。

 新たに開放された5GHz帯は衛星通信や地上マイクロ波通信,レーダーなどですでに利用している。携帯電話のように占有的な周波数ではない。しかし,電波資源の有効利用が叫ばれる情勢で無線LANのようなプライベートなシステムに対して約1GHzという広い帯域を割り当てるという決断がなされたことは,歴史上初めてではないだろうか。今後,無線LANがどのように発展し,市場の活性化に弾みがつくのか,業界に携わる者としてワクワクしている。