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組み込みシステム

特徴づける四つの特性

 リアルタイムOSについて議論する前に,その適用対象である組み込みシステムとは何かを知らなければならない。

 組み込みシステムに決まった定義があるわけではないが,一般に「各種の機器に組み込まれて,その制御を行うコンピュータ・システム」を指す。「機器の一部分となるコンピュータ・システムで,機器と一体で製品(一つのシステム)と見なされるもの」と説明される場合もある。大きくとらえると,パソコンやサーバー・マシンなどの汎用コンピュータ以外は,すべて組み込みシステムだと解釈できる。

 つまり,システムの規模・性質のいずれの面からも極めて多様である。例えば規模的に見れば,小は炊飯器や電子レンジの制御から,大は原子力発電所の制御までが範ちゅうに入る。組み込みシステムは,皆さんの生活を支え,社会を支える存在なのである。

 多様とはいえ,共通する部分がないわけではない。組み込みシステムには大きく四つの共通項がある。(1)専用化されている,(2)リソースの制約が厳しい,(3)高い信頼性,(4)リアルタイム性,である。こうした条件を満たすように考慮しながら設計するのが,組み込みシステムであり,本稿の主題であるリアルタイムOSということになる。条件(場合によっては制約)があるからこそ,技術者としての醍醐味が味わえるともいえる。

(1)専用化されている

 特定の機器を制御するという目的のために開発された専用システムである。ハードウェアとソフトウェアは,対象の機器を制御する目的に特化して設計(選定)される。例えば携帯電話向けの組み込みシステムといっても,メーカーによって異なるし,同じメーカーでも機種によってシステム構成はかなり違っている。

(2)リソースの制約が厳しい

 プロセッサの演算性能やメモリ容量に対する制約が厳しい。この制約は,二つの要因からきている。一つはコスト低減のため。最終製品のコストを抑えるために,部品レベルで厳しいチェックが入る。もう一つは消費電力や動作環境,信頼性に起因する。例えば携帯機器では,電池寿命を延ばしたい,逆に言うと電池を軽くしたいという要求から,動作周波数が高く,消費電力の大きい高速プロセッサを使えない。こうしたリソースの厳しい制約を満たしながら,技術者はシステムを設計することになる。

(3)高い信頼性

 組み込みシステムのバグは機器の誤動作に直結することから,高い信頼性が求められる。誤動作が人命にかかわるなど重大な事態につながる機器では,とりわけ厳しい条件が課せられる。細心の注意を払っても,改修を要する問題が見つかることがある。この場合には,機器を回収し修正した後にユーザーの手元に届けなければならない。組み込みソフトウェアのバグが原因となった回収騒ぎを,読者も何度か見聞きしていると思うが,こうした事態が発生すると,大きなコストがかかるし,企業イメージの失墜につながってしまう。

(4)リアルタイム性

 組み込みシステムは,制御対象の機器の定める時間要件に従って動くことが求められる。単に速ければよいというわけではなく,所望のタイミングで,必要な時間内に処理を終えなければならない。リアルタイム性は,組み込みシステムを最も特徴づける性質である。ただし同じリアルタイムといっても,対象によって制約の“きつさ”は大きく異なる。例えば筆者の研究対象である自動車制御では,非常に厳しいリアルタイム性が求められている。安全性にかかわる部分が多いので,前述の(3)の制約も厳しい。リアルタイム性については,後で詳しく議論する。

高田 広章 Hiroaki Takada

名古屋大学大学院情報科学研究科 情報システム学専攻

東京大学の坂村健教授の研究室に在籍中からITRONプロジェクトに参画し,ITRON仕様のリアルタイムOSの開発と普及に務める。その後,豊橋技術科学大学を経て,現在は名古屋大学に在籍。研究テーマは,当初のリアルタイムOSから,徐々に組み込みシステム設計開発技術一般に広げている。最近では,ソフトとハードの境界分野に最も興味を持っている。自動車メーカとの共同研究を数年にわたって継続しており,組み込みシステムの適用分野の中では,自動車の制御システムが一番詳しい。