インターネットを使ったオークション(競売)・サービスが日本でも本格的に普及し始めた。国内最大の「Yahoo!オークション」や「楽天フリーマーケットオークション」は,今年に入って出品数が急増。この2月には,1000万人以上の会員を持つ米最大手のイーベイが国内市場に参入して,競争が激しさを増してきた。オークション・サイトの運営企業は,企業からの出品増が利用者を増やすカギと見ており,企業向けの環境整備を急いでいる。

図1●国内最大の出品数を誇るYahoo!オークションの画面。商品はカテゴリ別に分けられ,入札期限が迫っている順に並んでいる。3月15日現在で約380件ものプレイステーション2の出品があった
 3月4日に発売されたソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレイステーション2は,予約販売専用のWebサイトがアクセス集中でダウンし,大きな話題になった。これほどの人気で現在も需要が供給に追いつかないプレステ2を,予約も行列待ちもしないで今すぐ購入できる“店”がある。インターネットでのオークション(ネット・オークション)を仲介するWebサイトだ(図1[拡大表示])。プレステ2は現在,定価より1万~2万円高い5万~6万円程度で競り落とされている。

 ネット・オークションは,企業や個人がインターネットを介して商品を競売できるサービスのこと。競売にかけられた商品は,設定した期限までに最も高い金額で入札した企業や個人に落札される。出品者は落札者との間で個別に決めた決済方法や引き渡し方法に従って,商品を売買する。オークション・サイトの多くは,1回の出品につき100円程度の出品料と,1回の落札につき数%の手数料を出品者から徴収する。

 こうしたネット・オークションの市場が,今年に入ってにわかに盛り上がってきた。既存のサイトが出品数や利用者数を急激に伸ばす一方で,2月には米最大手のイーべイが国内市場に参入するなど,競争が一気に激化してきたのだ。

有力サイトが続々と参入

 ネット・オークションが注目されるようになったのは,昨年9月に国内最大の仮想商店街「楽天市場」を運営する楽天(東京都目黒区)や,検索サイト最大手のヤフーが相次いでサービスを開始してからだ(表1[拡大表示])。パソコンや周辺機器などが出品されるオークション・サイトは以前からあったが,商品の分野が限定されていることもあって盛り上がりにかけていた。

表1●国内の主なインターネット・オークション・サイト。楽天は仮想商店街の出店者のみが出品できるオークション・サイトを別途用意している
 ヤフーが運営する「Yahoo!オークション」は,出品数を順調に伸ばしている。1日に7500万ページビューと国内最大のアクセス数を持つ検索サイトからの誘導や,他のサイトと違ってユーザーが無料で出品できる特徴が奏功し,昨年12月に十数万点だった出品数は,今年3月に約3倍の40万点を超すまでに急増した。「3月時点で,1日当たり約3万5000点の出品と,2億7000万円以上の取引がある。利用者の数も日を追うごとに増えている」(ヤフーの殿村英嗣シニアプロデューサー)。

 これに対して,楽天が運営する「楽天フリーマーケットオークション(楽天フリマ)」は,出品料と落札手数料を出品者に課している。そのため,Yahoo!オークションほど出品数は多くないが,昨年12月に1万弱だった出品数を,今年3月には1万7000点以上にまで伸ばした。2000店以上の店舗数と17万点以上の品ぞろえを誇る日本最大の仮想商店街で培った集客力を生かしている。

 これらの先行組を追いかけるのが昨年11月にサービスを開始した「BIDDERS」である。楽天フリマと同様,出品料を課金している。同サイトを運営するディー・エヌ・エー(東京都渋谷区)は,ソニーコミュニケーションネットワーク(東京都品川区)やリクルート(東京都中央区)からの出資を受けて話題を集めた。両社がそれぞれ「So-net」と「ISIZE」で抱えている膨大な数の会員をオークション・サイトに誘導できるからだ。今年1月から本格的にサービスを開始し,3月時点では約5000点の出品数がある。

米最大手のイーベイが日本上陸

 さらに,こうした動きに拍車をかけそうなのが,2月末にサービスを開始した「eBayジャパン」だ。ネット・オークション最大手である米イーベイの日本法人,イーベイジャパン(東京都千代田区)が運営する。3月時点で,米イーベイの会員数は1000万人に達し,出品数は400万点を超えている。米イーベイは,「米国でネット・オークションの80%のシェアがあり,年間で3000億円以上の取引がある」(イーベイジャパンの山田彰彦マーケティングマネージャー)としている。

 eBayジャパンの滑り出しは順調で,「サービスを開始してから2週間足らずで約3000人の新規会員を集め,約1000点が出品された。1回の落札の平均単価は,米国の約2倍の1万円程度」(同)という。同社は今後,出資を受けているNECのインターネット接続サービス「BIGLOBE」の会員については手数料を割り引くなどして利用者増を狙う。

 このような利用者の急増に対応するため,eBayジャパンをはじめとする各サイトの運営企業はオークション・システムの増強を急いでいる。具体的には,Webサーバーやデータベース・サーバーの処理能力や信頼性を高める作業に注力している。

 システムを米国で集中管理しているイーベイは,「1週間に1回,サービスを4時間停止して,機能強化やサーバーの増設などを行っている」(イーベイジャパンの山田マネージャー)。楽天の杉原取締役は,「1カ月に2~4台という急ピッチで,UNIXサーバーを増やしている」と話す。ディー・エヌ・エーは,「大量のトランザクションに耐えられるように,システムを年内にも再構築する。ファイアウオールを利用してセキュリティも高める」(川田取締役)。

企業からの出品は大きなメリット

 各サイトは,企業からの出品が利用者を増やすカギだと見ている。eBayジャパンが設けた,米イーベイにはないサービスがその例である。企業が出品した商品を,個々の企業ごとに独立したページで紹介する「スーパー・ショップス」だ(40ページの図2[拡大表示])。すでに,ソフマップ(東京都千代田区)や丸紅,TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブなどが,それぞれの取り扱い商品をスーパー・ショップスに出品している。

 出品した企業にとっては,オークション・サイトに自社商品だけを扱うページを持つことで,個人が出品した大量の商品に埋もれることなく,利用者の目をひくことができる。さらに,オークションを有力な販売チャネルとして確立できる可能性もある。

 一方,eBayジャパンにとってのメリットも大きい。スーパー・ショップスの利用企業は通常,自社のWebサイトからeBayジャパンへのリンクを張るので,各企業に広告料を支払うことなく集客力を高められる。

 eBayジャパンと同様,Yahoo!オークションやBIDDERSも,商品を出店する個々の企業に特化したページを用意することを検討している。ヤフーの殿村シニアプロデューサーは,「現在,10社程度の有力企業との間で,商品の出品に関するパートナ契約を結ぶ話を進めている。年内にも専用のページを立ち上げたい」としている。

 楽天は,仮想商店街「楽天市場」の出店者だけが無料で出品できるオークション・サイト「楽天スーパーオークション」を別途用意している。同社はその狙いを「企業対消費者取引に注力するため。楽天フリマと楽天スーパーオークションを統合することも考えている」(楽天の杉原取締役)としている。

違法行為に悩むサイト運営企業

図2●eBayジャパン内にあるスーパー・ショップスの一つ,バーチャル秋葉原の画面。富士写真フィルムやオリンパスのデジタル・カメラやNTTドコモの携帯電話関連機器などがオークションにかけられている
 企業は個人の出品者に比べて,詐欺や偽物の出品といった違法行為を働く可能性が格段に低い。このような安心感も,各サイトにとって大きなメリットだ。これまで,こうした違法行為に頭を悩ませてきたからである。この2月にはネット・オークションを悪用した詐欺事件で逮捕者が出た。オープンしたばかりのeBayジャパンでも早速,「堂々と偽物と銘打った商品やWindows2000のコピー商品などが見つかり,即座に除外した」(eBayジャパンの山田マネージャー)という。

 各サイトは違法行為に対抗するため,新規に出品された商品をスタッフがチェックするなど,さまざまな対策をとっている。例えばYahoo!オークションや楽天フリマは,商品の売買が成立した後で,取引の当事者同士が相手の信頼性を評価してサイトに登録する,という仕組みを設けている。評価内容は,その後にオークションに参加する人なら,だれでも参照できるので,取引相手の信頼性を判断する材料になる。楽天フリマやeBayジャパンも同様のシステムを準備している。

 このほか,楽天フリマとeBayジャパンは,出品手数料を決済するためのクレジット・カード番号を事前に登録しなければ出品できないようにすることで,出品者の信頼性をチェックしている。BIDDERSは,初めて商品を出品する人は,IDとパスワードを郵便で受け取るための手続きをとらなければならないようにして,違法行為を抑制している。

 しかし,違法行為の根絶は極めて困難だ。「24時間にわたって随時出品される商品をすべてチェックするのは事実上不可能。違法かどうかを見極めるにも,専門家の手を借りるしかない」(ヤフーの殿村シニアプロデューサー)という。各サイトにとって,利用者が安心して入札できる商品を大量に出品する企業を取り込むことが,ますます重要になってきた。

 「ネット・オークションの成功のカギは企業間取引が握る」と口をそろえる各社は,出品数が多い企業向けに,大量の商品を一括出品するための仕組みを用意することも検討している。現在はどのサイトでも,出品登録の画面では1度に一つの商品しか登録できない。今後は一つの登録画面で,入札期限などの条件が同じ複数の商品を一括登録できるようにする。このような機能を各サイトのシステムに追加するか,専用のクライアント・ソフトとして利用者に配布するかは,各サイトがそれぞれ検討中だ。

 一方,運送会社や決済機関などは,出品者の商品配送や落札者の代金支払いを代行し,保険商品もセットにしたサービスの提供を計画している。これにより,出品者は煩わしい商品発送や代金回収の手続きから解放される。入札者も,第三者が間に立つことで,安心してオークションに参加できる。このようなサービスは,年内にも各サイトで利用できるようになる見通しだ。

(井上 理)