インターネット・ビジネスの急速な拡大に伴い,宅配大手各社が今後の有力顧客であるネット事業者への支援に本腰を入れ始めた。消費者がインターネット経由で購入した商品を配送する従来のサービスに加え,カード決済を導入して代金回収サービスを拡充したり,顧客企業とのシステム連携を強化して物流関連データのやり取りを効率化する。こうしたサービス・レベルの向上によって,ネット事業者のさらなる獲得を狙う。

表1●ネット事業者向けの支援サービス強化に取り組んでいる主な宅配業者。サービスの強化ポイントと,配送業務に関して提携している主なWebサイトを示した
 日本通運と佐川急便が今年3月,インターネット上の最大の仮想商店街「楽天市場」と提携し,商品配送や代金回収など,物流業務全般を請け負う契約を締結した。楽天市場との契約は,業界最大手のヤマト運輸や,西濃運輸なども狙っていたと言われる。

 このようなインターネット・ビジネスの業務受託を巡る競争が激化するなかで,宅配各社がネット事業者に対するサービス強化に注力し始めた(表1[拡大表示])。ネット事業者に代わって行う代金回収で決済手段の選択肢を増やしたり,ネット事業者とのシステム連携を進めて物流関連のデータを容易にやり取りできるようにする。

 宅配各社にとって,膨大な数の商品と顧客を抱えるネット事業者は今後の超有力顧客である。2000年3月期に取り扱い商品の個数と経常利益がいずれも過去最高を達成する見込みのヤマト運輸も「ネット事業者の業務受託が業績向上を後押ししている。特に今年に入ってから,ネット事業者との提携が急速に増えている」(ヤマト運輸の東崎太郎IT戦略推進室アシスタントマネジャー)。宅配各社がネット事業者の支援に本腰を入れるのはそのためだ。

新サービスで先行業者に挑む佐川

 最近,大きな動きを見せたのが佐川急便だ。今年3月に,同社の基幹システムである「貨物追跡」,「勘定系」,「情報系」の各システムの刷新を完了。新システムをベースにした,インターネット対応の新しい総合物流サービス「e’s(イーズ)」の提供を開始した。1998年に宅配事業に参入した後発の佐川急便はイーズを活用して,ネット事業者の支援サービスで先行するヤマト運輸などに対抗する。

 イーズは,インターネット上で売買される商品の配送に加えて,商品を購入した消費者からの代金回収や,同社の「流通センター」を使った在庫保管など,物流にかかわる業務全般を請け負うサービスだ(図1[拡大表示])。ネット事業者が運営する仮想商店街への出店企業などは,インターネットを通じて商品の集荷依頼や配送指示などを行う。商品を購入した消費者が自ら,配送状況を確認することも可能だ。

 400億円以上を投じた新システムは,構築に苦労しながらも1997年から3年がかりで稼働にこぎつけた。このうち,メインフレームと超並列サーバーで動かす貨物追跡システムは,これまで分散管理していた1日当たり約4000万件という膨大な貨物情報を本社のデータベースで一元管理し,ネット事業者などがリアルタイムに把握できるようにする。「パソコンから商品の配送状況を照会したときに,素早いレスポンスを確保できる」(佐川急便の齋藤光仁情報システム部長)。

 イーズの目玉は,他社に先駆けて,現金だけでなくクレジットカードやデビットカードによる決済を可能にしたことだ。4月21日に東京地区で試験的に開始した「eコレクトサービス」である。「決済手段の選択肢を増やすなど,消費者にとって便利な環境を提供することが,より多くのネット事業者の獲得につながる」(佐川急便の齋藤光仁情報システム部長)と考えた。

 佐川急便はカード決済を本格展開するため,6月下旬には配送車の運転手が使用するカード決済用の端末を,現在の500台から5000台に増やして全国展開する予定だ。この端末はクレジットカードとデビットカードの両方に対応し,NTTドコモのパケット通信サービスに対応した通信機能を備える。端末に入力した決済データは,カード決済業務を受託する日本カードネットワーク(東京都千代田区)のシステムに送信できる。

日通とヤマトもカード決済を可能に

図1●佐川急便が総合物流サービス「e’s(イーズ)」の一部として提供する,ネット事業者向け出荷支援サービスの概要。データはすべてインターネットを通じてやりとりする
 カード決済が可能な代金回収サービスは,日本通運とヤマト運輸も計画している。日本通運は今年5月から,デビットカードによる決済が可能なサービスを試験的に開始。クレジットカードでの決済も視野に入れているという。ヤマト運輸も,「どれほど需要があるのか正直言ってわからないが,来春までにはデビットカードとクレジットカードの両方に対応したい」(東崎アシスタントマネジャー)としている。

 これまで,宅配業者による決済の主流は,消費者が商品を受け取るときに現金で支払う代金引換が主流だった。「インターネット上での決済には,セキュリティ面で不安を感じるユーザーが多い」(ヤマト運輸の東崎アシスタントマネジャー)というのがその理由だ。しかし代金引換では,商品が届いたときに消費者が現金を持ち合わせていないと,宅配業者は代金を回収できないという制約がある。カード決済はそのような心配がないことに加え,「消費者の選択肢を増やすという点でも,ネット事業者の希望が強いサービス」(日本通運 e-ロジスティクス部の高崎政行担当部長)という。

インターネットで容易にデータ交換

 宅配業者は決済手段の多様化のほかに,自社とネット事業者など顧客企業との間で,物流関連のさまざまなデータをやり取りしやくする仕組み作りにも力を入れている。各社は従来から,大口の企業顧客とは個別にEDIシステムを構築し,商品の集荷や配送などに伴うデータ交換を自動化していた。だがここにきて,システム環境が異なるネット事業者などの顧客が急増したことを受けて,Webによる情報提供や,インターネット経由で基幹システム同士を結ぶEDI(電子データ交換)などに取り組んでいる。

 佐川急便のイーズでも,仮想商店街などを運営するネット事業者や出店企業などがインターネット経由で,佐川急便とさまざまなデータをやり取りする。例えば,商品の注文情報や配送指示の情報を,それぞれネット事業者と出店企業からインターネット経由で勘定系や貨物追跡などの基幹システムに取り込むことができる。一方,ネット事業者と出店企業はWebブラウザを使って佐川急便のWebサイトにアクセスし,配送状況を確認することなどができる。加えて,商品の在庫保管や入出庫管理などのサービスを利用する場合は,Webブラウザから在庫状況などを確認することも可能だ。

 佐川急便は,「インターネットを通じてデータをやり取りできるようにしたことで,仮想商店街への出店企業の利便性と,仮想商店街を利用する消費者の顧客満足度を同時に高めることができる。さらに,仮想商店街を運営するネット事業者の事業拡大にもつながる」(佐川急便の丸田正明経営企画室課長)と見ている。

データ交換や情報提供を改善

 一方,ヤマト運輸は昨年10月から,EDI仕様「データ交換規約」を顧客企業に公開している。物流業界の標準EDI仕様に基づいているが,「商品番号」や「顧客番号」などのデータ項目を追加するなど,ヤマト運輸が独自に仕様を拡張したものだ。顧客企業はこの規約に準拠した形式でデータを送受信するための仕組みを自社システムに追加することによって,物流関連のデータをヤマト運輸とやり取りできる。

 ヤマト運輸はデータ交換規約によるネット事業者などとの連携に注力しており,今後も契約企業を増やしていく。昨年10月に提携したデジタルガレージ(東京都渋谷区)のEC(エレクトロニック・コマース)サイト「Web Nation」が契約の第1号で,現在までに「数十社程度と契約した」(ヤマト運輸の東崎アシスタントマネジャー)。

 従来,宅配業者が顧客企業と個別にEDIの仕組みを作ろうとすると,双方のシステムに大幅な作り込みが発生したり,顧客企業がEDI専用のパッケージ・ソフトを導入する必要があった。「データ交換規約を利用したEDIでは,顧客企業が既存のシステムに大きく手を加えたり,高価なパッケージ・ソフトを導入する必要はない。コストも安くすむ」(東崎アシスタントマネジャー)という。ただし,「データ交換規約を利用したEDIの事例がある程度蓄積されたら,パッケージを用意することも考えている」(同)。

 日本通運は,ネット事業者に対してきめ細かな配送状況などの情報をインターネット経由で提供するサービスを計画している。同社は数百億円を投じて新しい貨物追跡システムの構築に着手している。同社は時期を明らかにしないが,情報提供サービスを2001年度中にも提供する見込みだ。

 新システムは,商品と配送車を関連づけて管理できるようにすることで,配送状況に関する情報の精度を高める。道路状況や天候などを加味して配送車の動きを追跡し,「商品の到着時刻などを予測することが可能になる」(日本通運の高崎部長)。これにより,ネット事業者へのサービスを向上する考えだ。

(井上 理)