米5大会計事務所(ビッグファイブ)が相次ぎコンサルティング部門を別会社化するなど,日米で機構改革に乗り出した。誕生する新生コンサルティング会社は,インターネット事業を強化するために,顧客企業やベンチャ企業と積極的にパートナシップを結ぶ。会計監査部門からの独立性を高めることで,こうした戦略を推進しやすくする。IT(情報技術)業界ではインターネット事業に強い企業の争奪戦で,新生コンサルティング会社が台風の目になりそうだ。

表1●「米国5大会計事務所」系列のコンサルティング会社が相次いで実施する機構改革の概要
 ビッグファイブのうち3社は,今年4月から7月にかけて大規模な機構改革に取り組む。

 先行したのは米KPMGLLPだ。全世界で約1万7000人のスタッフを抱えるコンサルティング部門を4月に分離し,米シスコシステムズと共同出資で新しいコンサルティング会社,米KPMGコンサルティングLLCを設立した。

 今年6月には,米アーンスト&ヤングがコンサルティング部門(全世界で2万人)を欧州の大手情報サービス会社,仏CAPジェミニに売却。同部門はCAPジェミニ傘下で,新しいコンサルティング会社として再スタートする。続いて7月には,米プライスウォーターハウスクーパース(PWC)がコンサルティング部門(全世界で約5万人)を分離し,これを別会社化する(表1[拡大表示])。

 これら3社と違い,すでに会計事務所から独立している2社も,新事業のための新会社設立に踏み切る。米デロイト・コンサルティングは米チェースマンハッタン銀行と共同出資で,企業間取引のWebサイトを使った備品の調達・決済サービスを提供する新会社を設立,今年8月からサービスの試行を始める。米アンダーセン コンサルティングは米マイクロソフトと共同で,Windows2000を使ったシステム構築を手がけるベンチャ企業「アヴァナード」を2002年春までに設立する計画だ。人員構成は,米アンダーセン コンサルティングから約800人,米マイクロソフトから約30人,外部から約600人,を計画している。

狙いはネット事業の本格展開

図1●米KPMGLLPは今年4月にコンサルティング部門を分離し,米シスコシステムズと共同出資で新会社を設立した。これを受けて,国内KPMGグループのコンサルティング会社2社が事業を統合した
 機構改革を進める各社には,共通の狙いがある。インターネット事業に本腰を入れて取り組むことだ。

 会計事務所の一部門である限り,コンサルティング事業にも高い中立性が要求される。インターネット事業を展開するうえで不可欠な企業提携も,法的に厳しく制限される。「企業と手を組んでビジネスをすることは極めて難しかった」(プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント=PWC,東京都渋谷区=の富村隆一常務)。こうした状況を打開して新事業に打って出るには,大胆な機構改革を実施するしかないと判断した。

 機構改革によって独立した新生コンサルティング会社は,企業がインターネット事業を立ち上げる際に対等に手を組める存在として自らを位置づけ,生き残りを図る。企業提携を積極的に進めている既存のITベンダーにとっても,パートナ企業の争奪戦などで強力なライバルになりそうだ。「優秀な顧客企業やITに強い企業と提携することは,コンサルティング会社として勝ち残っていくために不可欠な条件だ」(日本アーンスト&ヤング コンサルティング=日本E&Y,東京都千代田区=の藤本邦明社長)。

日本法人も機構改革に着手

 米国での動きを受け,ビッグファイブ系列コンサルティング会社の日本法人の機構改革も活発になる。

 この4月には,米KPMGコンサルティングLLCの設立と同時に,その100 %子会社であるKPMGコンサルティング(東京都千代田区)が発足した。国内ではこれまで,グループ企業であるKPMGグローバルソリューションとKPMGコンサルティングの2社が個別に事業を展開していたが,両社のコンサルティング事業と社員を新会社に統合した(図1[拡大表示])。

 新生KPMGコンサルティングの社長には,これまでKPMGグローバルソリューションの社長を務めていたポール与那嶺氏が就任した。「今後は,これまで会計監査の対象だった優良顧客企業や強力なIT企業と自由にパートナシップを結んでいく」(与那嶺社長)。

 日本E&YとPWCも米国での機構改革を受け,それぞれ今年6月と同7月をメドにコンサルティング部門を分離し,新会社を設立する。いずれも社名を変更する計画だ。

新興インターネット企業を積極支援

図2●デロイト トーマツ コンサルティングが新設するインターネット・ビジネス専門会社の役割分担
 デロイト トーマツ コンサルティング(東京都港区,以下デロイトコンサルティング)は,今年4月から順次,インターネット事業関連の三つの子会社を設立する。それぞれの位置づけは,“BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)”会社,IT専門会社,そしてファイナンス会社である(40ページの図2[拡大表示])。「2~3年後には3社合計で100億円の売り上げを達成する」(デロイト コンサルティングの西岡一正代表)と意気込む。

 BPO事業会社は,業務システムのASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスを提供することに加え,それに関連した業務そのものを請け負う点が特徴。この事業を「BPO」と呼ぶのはそのためだ。この会社が提供するサービスには,米デロイト コンサルティングが米チェースマンハッタン銀行と手がける,Webサイトを使った備品の調達・決済サービスも含まれる。

 IT専門会社は,顧客企業がインターネット事業を立ち上げる際に必要なWebシステムの構築を支援する。ネットワークの構築や,ハード,ソフトの選定なども行う。スタッフは「インターネット関連技術に精通した人材で固める」(西岡代表)考えだ。

 ファイナンス会社は,デロイトコン サルティングが顧客企業やベンチャ企業と共同でインターネット事業の新会社を設立する際に,資金を調達して融資する役目を果たす。

 デロイト コンサルティングが設立するファイナンス会社と同様,PWCも今年9月から新興企業の支援に注力する。顧客企業やインターネット関連のベンチャ企業に対して,ビジネス・コンサルティングやITコンサルティングを手がけるだけでなく,「顧客企業と共同出資で新会社を設立することも考えている」(富村常務)。

 さらに,同社が今後の最重要事業の一つと位置づけるのが,有望なベンチャ企業を支援・育成するインキュベータ(ふ化器)事業だ。「PWC本社がある東京のオフィス・ビルの1フロアをインキュベータ事業専用に使う。ここに,顧客企業20社と当社のコンサルタントが共同で働く環境を用意した」(富村常務)。支援の対象として,インターネット事業で成功しそうな有望企業を,倉重英樹会長兼社長が自ら選別しているという。すでに日米のインターネット関連企業3社が,業務開始に向けて準備を進めている。「手を組みたい,というベンチャ企業が最近急増している」(同)。

優秀な人材の流出を防ぐ

 新生コンサルティング会社はいずれも,「優秀な人材をいかに確保するか」(デロイト コンサルティングの西岡代表)という共通の課題を抱えている。そのため,機構改革に合わせて新たな報酬制度を導入するなど,優秀な社員が流出しないようにする仕組作りを検討している。

 デロイト コンサルティングが設立する三つの子会社では,「デロイト コンサルティング本体にはない処遇体系を導入する」(西岡代表)。具体的には,IPO(株式の新規公開)を実施し,ストック・オプション制度を導入することを計画している。会社が市場で評価されれば,その見返りをきちんと社員に還元するという考え方だ。

 アンダーセンコンサルティング(東京都港区)も,ストック・オプション制度は今年9月にも導入する予定だ。KPMGコンサルティングも「時期は言えないが,IPOを実施する。近いうちにストック・オプション制度も導入し,社員のモラールを高める」(与那嶺社長)。

 PWCも,IPOの実施とストック・オプション制度の導入を「前向きに検討している」(富村常務)。日本E&Yは「IPOは今のところ考えていないが,ストック・オプション制度は導入する方向で検討している」(ケン・スミス パートナー)という。

(戸川 尚樹)