ソニーと松下電器産業が取り組むインターネット販売の実像が見えてきた。両社は今年に入ってから相次ぎ,家電製品をインターネット経由で販売する専門の子会社を設立。いずれの子会社も新しい情報システムを構築し,グループ企業やパートナ企業のシステムと連携させて,サービスの提供を始めた。しかし,取り扱い商品の品ぞろえなどを比べると,両社の意気込みには大きな差がある。“本気度”ではソニーに軍配が上がる。

表1●ソニーと松下電器産業のインターネット直販子会社の概要
 家電業界で始まったインターネット販売の動向に大きな注目が集まっている。日本の産業界で大きな影響力を持つソニーと松下電器産業が,いよいよ動き出したからだ。

 先行したのはソニー。今年1月にインターネット販売専門の子会社であるソニースタイルドットコム・ジャパン(東京都港区,ソニースタイル)を設立し,2月1日にサービスを開始した(表1[拡大表示])。わずか2カ月後の4月には,松下電器産業もインターネット販売専門の子会社を設立した。4月21日にサービスを開始した松下ネットワークマーケティング(大阪府中央区,松下ネットワーク)である。

“本気度”ではソニーに軍配

図1●ソニースタイルドットコム・ジャパンのWebサイト「sonystyle(ソニースタイル)」のトップ画面。URLはhttp://www.jp.sonystyle.com/
 ソニーはこれまでもグループ企業を通じてインターネット販売に取り組んできたが,取り扱い商品は証券や損害保険,チケットといった,デジタル化が可能で物流が伴わないものに限られていた。ソニー本体が生産するエレクトロニクス製品のインターネット販売には一切手をつけていなかった。その理由について,ソニーは昨秋,「商品の受け渡しや販売後のサポートを考えると,インターネット販売のメリットがなかなか見えない」(ソニーの堀籠俊生上席常務)と説明していた。

 ところがソニーはこの方針を180度転換し,同社の主力製品を対象にした本格的なインターネット販売をスタートさせた。ソニースタイルのWebサイト「sonystyle」(図1[拡大表示])では,カラーテレビ「ベガ」をはじめ,CDプレーヤー,MDプレーヤー,パソコン「VAIOシリーズ」といった商品を注文することができる。

 これらの商品は,既存の販売店が扱っている商品と全く同じものではない。「店舗では購入できない付加価値のある商品」(ソニー)だ。例えばVAIOは,パソコン本体に周辺機器や関連ソフトなどをパッケージ化した独自モデルとして提供している。テレビは,本体のカラーを購入者が自由に指定できるようにした。

 一方,松下電器は,ソニーに比べてインターネット販売に慎重な姿勢を見せている。全国約2万の系列販売店への影響を配慮してか,主力商品を対象から外した。「インターネット販売の可能性を模索する」(松下電器)ために,手探りの状態という印象だ。

 松下ネットワークのWebサイト「Pana Sense」(図2[拡大表示])で購入できるのは,自転車や音楽・映像ソフト,ヘッドホン,掃除機の紙パック,浄水器のカートリッジなど。設置工事や販売後のメンテナンスがそれほど必要ない商品を対象に選び,テレビやパソコンなどの主力商品は扱っていない。「インターネット販売は実験的な試みだ。白物家電やパソコンといった主力製品の販売は,これまで通り店頭販売を主軸にする」(松下電器)という。

 取り扱い商品の品ぞろえを見る限り,インターネット販売にかける意気込みはソニーに軍配が上がりそうだ。

店頭のパソコンからも発注可能に

図2●松下ネットワークマーケティングのWebサイト「Pana Sense(パナセンス)」のトップ画面。URLはhttp://www.sense.panasonic.co.jp/
 このように取り組み方の違いはあるものの,巨大企業2社がインターネット販売に乗り出したことで,家電業界では既存販売店の“中抜き”が一気に進む,と警戒する声が出始めている。しかし,両社とも「中抜きなどあり得ない」と明確に否定する。

 ソニーはその理由として,インターネット販売が既存販売店の売り上げ拡大にもつながる,と説明する。ソニースタイルのインターネット販売では,一般消費者が自宅のパソコンからWebサイト「sonystyle」に直接アクセスする以外にも,商品を購入する方法を用意しているからだ。

 具体的には,系列販売店であるソニーショップや家電量販店の店頭に設置された専用パソコンからも発注できるようにした。ソニースタイルはWebサイトとして「sonystyle」のほかに,ソニーショップ向けのWebサイト「e-Sony Shop(イー・ソニーショップ)」と,家電量販店向けのWebサイト「PC e-tailer(ピーシー・イー・テーラー)」を立ち上げている。

 とはいうものの,現時点では全国約2000店のソニーショップのうち,専用パソコンを設置しているのはわずか50店程度。「近いうちに100店に設置してもらう」(ソニー)のが目標というが,それでも全ソニーショップの5%にすぎない。

 一方,家電量販店については,「滑りだしは好調」(ソニースタイルの佐藤一雅社長)だ。すでに大手のラオックスやヨドバシカメラ,コジマなど約20社が「PC e-tailer」への賛同を表明している。

中核はUNIXサーバーの受注システム

図3●ソニースタイルドットコム・ジャパンにおける注文データの流れ。ソニースタイルドットコムが集約した注文データは,日次バッチでソニーの製造事業所,ソニーロジスティックスに送信される仕組み
 ソニーはこれまで,ソニースタイルのインターネット販売向けシステムについて,「セキュリティの関係で詳しいことは説明できない」としていた。しかし,本誌の取材でその概要が見えてきた。

 中核は,Webサーバー経由で受け取った注文データや顧客データなどを管理する受注システム。このシステムは,UNIXサーバーで稼働している。

 ソニースタイルの受注システムが一般消費者の自宅やソニーショップ,家電量販店から受け取った注文データは,ネットワーク経由で生産拠点や物流拠点に送られる。具体的には,ソニーの各製造事業所にある生産管理システムや,物流業務を担当するソニーロジスティックス(神奈川県川崎市)の物流システムに,日次のバッチ処理で転送される(39ページの図3[拡大表示])。ソニーは生産計画の立案に,ソニーロジスティックスは配送業務に,このデータを活用する。

 受注システムの構築は,「連携先の生産管理システムや物流システムをきちんと理解している」(ソニー)という理由で,ソニーのシステム部門に当たるコーポレートISソリューションズに任せた。

 一般消費者が自宅からソニースタイルのWebサイトにアクセスし,商品を注文してから手元に届くまでの期間は,「平均1週間」(ソニー)である。ただし,ソニーショップや家電量販店の店頭から商品を注文する場合は,納期にバラツキが出る可能性もある。配送業務は,ソニーショップや家電量販店の方針に任せるからだ。

 ソニースタイルは今後,ソニーショップや家電量販店とのパートナシップをさらに強化して,サービス内容を充実させていく考えだ。「当社が販売した商品の設置工事やアフターサービスなどを委託することを計画している」(ソニー)。

図4●松下ネットワークマーケティングのインターネット販売の概要。松下電器の資料を基に作成
 松下ネットワークもソニースタイルと同様,インターネット販売専用の受注システムを構築した(図4[拡大表示])。このシステムは,松下ネットワークが扱う商品の配送業務を一手に引き受ける日本通運の物流システムと連携する。

 日通は在庫管理や代金回収も行っている。インターネット販売で扱う商品の登録作業や,日通への在庫補充などは,松下電器の事業部やグループ企業が手がける。

(戸川 尚樹)