システム子会社を軸に,IT (情報技術)関連の組織改革を断行する企業が増えている。システム子会社を分離・独立させて新会社を設立したり,複数のシステム子会社を1 社に統合するなど組織改革のやり方はさまざまだ。だが,誕生するIT 会社の目標は共通している。親会社向けの仕事に依存せず,対外向けサービスを拡充して,プロのIT 会社として独り立ちすることだ。こうした動きは1990 年代末にもあったが,ここにきて再び活発になってきた。
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図1●日本重化学工業は,同社のIT関連事業部門である「情報・通信事業部」とシステム子会社「日重システム開発」を投資組合に売却した。この2組織が新会社「アイコテクノロジー」として再出発する |
「われわれは自ら,情報・通信事業部を本体から分離・独立させてほしいと経営陣に願い出た」。こう語るのは,日本重化学工業で対外向けのシステム開発や運用管理などを手がける情報・通信事業部の望月大南夫事業部長だ。
業績悪化に苦しんでいた日本重化学工業は,この進言を受けてIT関連の組織改革の検討を続けてきたが,今年7月にようやく結論を出した。本業に専念するため,情報・通信事業部とシステム子会社「日重システム開発」を,ある投資組合に売却することにしたのだ。情報・通信事業部と日重システム開発が一つになり,全く新しいIT会社「アイコテクノロジー」として今年11月に再スタートを切る(図1[拡大表示])。
日本重化学工業をはじめ,多くの企業が相次いで,システム子会社を軸にIT関連の組織改革に乗り出した(表1)。住友金属工業と三菱商事は,得意分野の異なる複数のシステム子会社を統合し,“総合力”を武器に幅広いITサービスを提供するIT会社を設立。日商岩井や帝人,新日本製鉄,NKKも思い切った組織改革を断行する。
組織改革の方法やきっかけは,それぞれ異なる。しかし,どの新会社にも共通しているのは,プロのIT会社として独り立ちすることを目標に掲げている点だ。親会社に依存せず,対外的なサービスを積極的に拡充していく。
事業部が自ら分離・独立を望む
業績不振の企業が,特定の事業部や子会社を手放す例は珍しくない。そのなかで日本重化学工業のケースが注目されるのは,情報・通信事業部や日重システム開発が自らの意思で本体から飛び出し,独立したIT会社として再出発しようとした点だ。
情報・通信事業部の社員や,同事業部の出向者が大半を占める日重システム開発の社員は,「本体への依存体質から脱し,独立したIT会社として勝負したい」(日本重化学工業の望月事業部長)という考えで一致していた。本体の業績悪化という状況から見ても,「これまでに開拓してきた顧客や取引先に対してサービスを継続的に提供し続けるには,独立するしかない」(同)と判断した。
社員が本体からの分離・独立に意欲を見せる背景には,情報・通信事業部が以前は「コスコ」と呼ぶ独立したシステム会社で,1990年に日本重化学工業に吸収された,という事情がある。そのため,情報・通信事業部は独自の人事権を持ち,「ITのスキルを持った人材を豊富にそろえていた」(望月事業部長)。こうした自信の裏付けに加え,業績も好調だった。最近では,日本重化学工業の営業利益の4分の3を稼いでいた。
新会社アイコテクノロジーの社長に就任する望月事業部長は,プロのIT会社として成長するためのカギは人材だとみる。そこで,「社員のモラールを高めるため,処遇体系を年功序列から実力・成果主義に切り替える」(望月事業部長)。これまでは情報・通信事業部が頑張って黒字を出しても,本体の業績に引っ張られて,満足のいく待遇にはできなかったという。 (戸川 尚樹)