平成10年度第三次補正予算により実施された「産業・社会情報化基盤整備事業」の“成果”39件が出そろった。通産省は事業案件を採択するに当たって,「将来の実用化」という狙いを掲げた。結果を見ると,自動車業界ネットワークの「JNX」など当初の狙いを達成できるメドのついた事業がある一方で,相変わらず“実験”の枠を超えていない事業も見受けられる。実施期間の長さや成果の評価方法など事業自体の問題点を指摘する声も上がっている。

 「実用化を前提に事業を実施し,社会基盤となるシステムを普及させる」。平成10年度第三次補正予算で実施された「産業・社会情報化基盤整備事業」の狙いを,通産省機械情報産業局電子政策課の小林栄二通商産業事務官はこう説明する。

 通産省が主導する事業に対しては,ともすれば「実験のための実験」との批判も多い。こうした中で,実用化を目指すと明言して実施した産業・社会情報化基盤整備事業の“成果”39件が,2000年11月9~10日の成果報告会で出そろった。

 発表された成果を一言で表すと「玉石混淆」。実用化のメドが立った事業案件もあれば,相変わらず“実験”の域を脱していないものまでさまざまだ。

 例えば「自動車産業を中心とするグローバル共通ネットワーク基盤開発事業」では,自動車業界の共通ネットワーク「JNX(Japanese automotive Network eXchange)」を構築。2000年10月には約20社が参加して運用を開始した。だが,その一方で,利用者が少ないなどの理由でほとんど評価ができず,採択したこと自体が疑問視されるような事業案件も見受けられる。

 事業のあり方自体を問題視する声も根強い。まず,「成果に対して相変わらず『質より量』が求められる風潮がある」という指摘がある。「事業案件の予算1000万円につき,10cmの厚さの成果報告書が必要になるという暗黙の了解があるようだ」(ある事業案件の担当者)。ネットワーク関連ベンチャー企業イー・アクセス(東京都港区)のCOO(最高執行責任者)であり,日本のIT事情を見てきたエリック・ガン氏は「今回の事業でも,元々研究・開発予算が豊富にありそうな大手企業ばかりが審査に通っているのではないか。産業界にとっての意義は薄い」(同)と手厳しい。

(玉置 亮太)