JPドメイン名を巡る紛争の処理機関が扱った最初の事件は,事実上,“和解”という形で決着した。当事者間で「ドメイン名を無償で移転する」という合意がなされたことを受けて,ドメイン名の移転を訴えていたシステム・インテグレータのアクシスは1月15日,紛争処理機関への申し立てを取り下げた。

 アクシス(福岡県北九州市)が「axis.co.jp」の所有者であるサイバー・ネット・コミュニケーションズ(サイネット,三重県四日市市)に対して,ドメイン名の移転を訴えていた事件は,アクシスが1月15日,紛争処理機関である工業所有権仲裁センターに対して,「申し立ての取り下げ」を通知したため,決着した。これはサイネットが1月12日,ドメイン名の移転に必要な登記簿謄本や印鑑証明といった書類を代理人を通じてアクシスへ送付したことを受けてのもの。つまり,事実上の“和解”である。

 こうして,工業所有権仲裁センターが取り扱った,最初の事件は決着した。しかし,その過程で,JPドメイン名関連の紛争を処理する現行制度の限界も明らかになった。

 工業所有権仲裁センターによる紛争処理は本来,「悪意を持って不正にドメイン名を取得・使用」している相手から,ドメイン名を取り戻す手段だ。ドメイン名に関するルール違反を裁くのは,同センターではなく,ルールを定めたJPNICの役目である。

 しかしアクシスは,サイネットが「1組織1ドメイン名」のルールに違反していることを理由に,工業所有権仲裁センターにドメイン名の移転を申し立てた。その理由は,「確実に『axis.co.jp』というドメイン名が欲しかった」(大塚健治取締役)ことに尽きる。ルール違反を理由に,JPNICがドメイン名の登録を抹消した場合,希望者の中から抽選で,新しい登録者を決めることになっているからだ。

 つまりアクシスは,「axis.co.jp」を確実に入手するために,「本来の使い方ではないことを承知の上で,工業所有権仲裁センターを利用した」(市川倫教システムエンジニア)のである。このため,アクシス事件で裁判官の役目を果たす「パネリスト」を務めた松尾和子弁護士も,「最初の事案から,微妙な案件が来て困った」と漏らしていた。

 工業所有権仲裁センターには,今後も,本来の役割を越えた案件が持ち込まれる公算が大きい。現在,同センターはアクシス事件以外に3件の申し立てを審議しているが,そのうち「goo.co.jp」と「yuzawaya.co.jp」の2件は,登録者に悪意があることを立証できるかどうかという点は微妙である。「goo. co.jp」の登録者はNTT-Xがgoo事業を始める前に同ドメイン名を登録している。また「yuzawaya.co.jp」の登録者は,「有限会社ユザワ屋商事」だ。ドメイン登録者に明確に悪意があると見られるのは,「itoyokado.co.jp」を巡るケース1件しかない。

 アクシス事件は,サイネット側が「ルール違反であることは認識しており,『axis.co.jp』はすぐに手放すつもりだった」(松井清子総合企画室長)こともあって,円満解決に至った。しかし,他の事件で,こうした幸運は期待できない。工業所有権仲裁センターの苦悩は,今後も続きそうだ。

(井上 理)

表●「axis.co.jp」を巡る紛争の経緯
1994年ごろ 名古屋にあるソフト会社のアクシスが「axis.co.jp」を登録
2000年4月 サイバー・ネット・コミュニケーションズ(サイネット)が名古屋のアクシスを吸収合併。これにより,サイネットは1組織で複数の法人格ドメイン名を所有することになる
2000年10月19日 北九州にあるシステム・インテグレータのアクシスが,JPドメイン名紛争処理機関である工業所有権仲裁センターに「axis.co.jp」の移転を申し立てる
2000年12月28日 裁定を下すパネリストが,本事件の扱いを「手続き中止」とする
2001年1月12日 サイネットがアクシスに対して,ドメイン名を放棄する意思と表明。併せてドメイン名の移転に必要な書類を代理人を通じてアクシスに送付
2001年1月15日 必要書類を確認したアクシスが,申し立ての取り下げを工業所有権仲裁センターに通知