安田火災や東京海上といった大手損保各社が,IT分野向け保険商品の品ぞろえを強化している。中堅・中小規模のIT事業者に的を絞った保険商品や,特定のパッケージ・ソフトの利用を前提にした保険商品も登場し始めた。ユーザー企業による訴訟の増加を憂慮するIT事業者や,不正アクセスなどによるシステム障害に不安を抱くユーザー企業からの引き合いが急増しており,損保各社も市場活性化の手ごたえを感じている。
2000年半ばから2001年初めにかけて,大手の損害保険会社がIT分野向けの保険商品(以下「IT保険」と略す)を次々に投入している。ユーザー企業に納入したシステムのトラブルによって賠償責任を負ったIT事業者,あるいは,社内システムのトラブルや社外からの不正アクセスなどによって業務に支障を来したユーザー企業などを対象にした保険商品だ。
特に最近は,利用する企業の規模や,補償の対象となるITの種類を絞り込んだ保険商品が登場し,注目を集めている。2001年1月には安田火災海上保険が,対象を「中堅・中小規模のIT事業者」に特化した保険商品「商賠繁盛21<IT>」を他社に先駆けて発売した。一方,東京海上火災保険はパッケージ・ソフトのベンダー2社とそれぞれ保険商品を共同開発。各ベンダーが自社のサービスの一環として,この2月に提供を始めた。
「2000年末から引き合いが急増」
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図1●IT保険は,IT事業者向けとユーザー企業向けに大別される |
IT事業者向け保険商品の需要が増えているのには理由がある。「今後は国内でも,IT事業者がユーザー企業から訴訟を起こされるケースが増えるという見方がある。そのため,損害保険が必要だと考えるIT事業者が増えている」(安田火災の入谷浩之火災新種業務部賠償保険課主任)。特に中堅・中小規模のシステム開発会社やインターネット・モール事業者などにとって,訴訟は切実な問題だ。「一度でも損害賠償の責任を負えば,倒産してしまう可能性がある」(同)。
こうした状況を背景に,損保各社はIT保険の契約数を一気に伸ばそうと意気込む。例えば,東京海上が販売しているIT事業者向けの「e-RiskSolution」とユーザー企業向けの「eクリック」の場合,現在の契約件数は合計100件を超えた程度だが,「2002年春までに1000件の契約を目標にしている」(東京海上の星野副主任)。