官公庁のシステム調達案件に入札する企業を事実上制限する基準がひっそりと生まれていた。新基準は,入札参加企業をランク付けする際に,年間売上高を重視するため,中堅・中小のソフト会社やベンチャー企業は,大規模案件に入札できなくなる。業界団体からは反発の声が上がっている。

図●入札の競争参加者の資格
以下の5項目の内容に応じた得点の合計で,競争参加企業をA,B,C,Dの4ランクに分類する。この方法では大手企業の評価がどうしても高くなる
 この新基準は今年1月に導入済み。システム調達に限らず,すべての政府調達案件に適用している。新基準は,(1)年間平均売上高,(2)自己資本額,(3)営業年数,(4)流動比率,(5)機械設備等の額の五つの数字をそれぞれ点数化した合計値(100点満点)によって,各企業の入札参加資格を決める([拡大表示])。

 情報システムの開発を含む「役務の提供」については,(5)の「機械設備」の多寡は関係ないため,(1)~(4)の合計で,入札参加企業を「A(90点以上)」,「B(80点以上90点未満)」,「C(55点以上80点未満)」,「D(55点未満)」の4段階に分類して,参加できる入札案件を制限する。落札予定価格が3000万円以上の案件はAランクの企業だけが参加できる。これに対して,Bランクは1500万円以上3000万円未満,Cランクは300万円以上1500万円未満,Dランクに至っては300万円未満の案件にしか入札に参加できない。

 問題は,各企業のランクを決める要素のうち,年間売上高が大きな比重を占めるので,大企業に著しく有利になっていることだ。逆に中堅・中小企業や設立間もないベンチャー企業は,技術力の優劣にかかわりなく,一様に低いランクが付いてしまう。例えば設立後10年未満で,自己資本10億円以下のベンチャー企業が,Aランクを取得するのは不可能に近い。落札予定価格3000万円以上が多い電子政府関連の案件からは,事実上,閉め出される。

 この新基準に対して,ソフト会社の業界団体「JISA」は「電子政府関連の調達が増えている時期に,入札企業をふるいにかけるのはおかしい」と政府に抗議している。しかし,基準を取りまとめた総務省は,「参加資格はランクだけに頼らず弾力的に運用する申し合わせがある。当面内容を見直すつもりはない」と,議論に乗らない。

 このまま調達基準の見直しが進まなければ,官公庁のシステム調達案件における大手企業の寡占は,いっそう進むことになる。

(中村 建助)