「システム・インテグレーション(SI)を,社員が人生を賭けるだけの価値のある事業にしたい。そして,社員が誇りを持てる会社を作っていく」。4月1日に発足した新日鉄ソリューションズの棚橋康郎社長はこう宣言する。そのために,「ハード/ソフト・メーカーをリードし,彼らの製品に注文を付けられるくらいの実力を蓄える」。さらに,「顧客の言いなりになるのではなく,もし顧客に問題があれば我々のほうからガイドしていく」。顧客とも,メーカーとも,対等な関係にある真のインテグレータを目指す考えだ。

写真撮影:寺尾 豊

――新日本製鉄は4月1日付で,エレクトロニクス・情報通信事業部(EI事業部)を,子会社の新日鉄情報通信システム(ENICOM)に移管し,ENICOMの社名を「新日鉄ソリューションズ」に改めました。この“新会社”をどう舵取りされますか。

 ちょっと芝居がかっているかもしれませんが,わたしの思いとしては,事業をやる以上,人生を賭ける価値のある事業にしたい。そして社員が誇りを持てる会社を作りたいと考えています。そのために社長としては,常に目線を高くし,高い志を持ってマネージしていくつもりです。なにしろ,システム・インテグレーション(SI)という事業は,人がすべてです。社員が意欲を持って取り組んでくれるように,わたしが導けるかどうか,これが勝負のカギだと思っています。

 価値とか誇りとは具体的にどういうことかと言いますと,一つにはハード製品やソフト製品を作っているメーカーをリードできるくらいの力を持つ会社にしたい。さらに,顧客企業に対しても,ソフト開発を下請けする業者としてではなく,IT(情報技術)パートナとして認知してもらう。

 SIという事業はサーバーやパッケージといった製品を作ることが使命ではありません。メーカーが投入する製品を使いこなして,顧客に感動を与えられる,いいシステムを作るのが基本です。しかし,正直言ってそれだけでは非常に寂しい。日本国内のSIマーケットは年間11兆円の規模と言われていますが,一皮向けば中味がほとんどない。使っている製品に日本製のものがどれほどあるでしょうか。

メーカーに要請を出せる力を持つ

 我々は海外のメーカーより顧客に近いところにいて,しかもさまざまなメーカーの製品を扱っています。そこで,社員には,「ハード/ソフト・メーカーに,こういう製品を作ってくれ,と要請できる力を持とうじゃないか」と言っています。目線を高く持つというのはこういうことだと思います。

 今,日本のインテグレータやメーカーが何をしているかというと,大平洋越しに双眼鏡でシリコンバレーをいつも見ていて,競合他社より一瞬でも早く新しい製品とか技術に近づこうとしています。「新しいものに早く飛びつくことがインテグレータとして唯一の差別化だ」といわんばかりの態度が目につきすぎます。「お前のところも一緒だろう」と言われると,現状はそうかもしれません。ですが,その域にとどまるつもりはありません。

――実際にメーカーをリードできるところがありますか。

 部分的にはそうなっている事業分野がすでにあります。例えば,ENICOMが手掛けてきたリレーショナル・データベースの構築・設計。社長のわたしが言うのもなんですが,業界では「データベースについてはENICOMが最後の駆け込み寺」という評価をいただいています。実際に,他社が手掛けてうまくいかなくなったデータベースの案件を我々がお手伝いして収拾したという事例が増えています。

 また,新日鉄のEI事業部は,デリバティブとかリスク管理といった金融業の最先端アプリケーションの設計や構築という領域で,高い評価を得てきました。さらに,製造業の生産管理アプリケーションについても,顧客が満足される仕事ができるという点ではEI事業部が最右翼だと思っています。

 今回,ENICOMとEI事業部を統合したのは,データベースをはじめとするENICOMの基盤系技術と,EI事業部のアプリケーション力を融合すれば,いい意味の突然変異が起こると考えたからです。単に一足す一は二の会社を作るつもりは毛頭ありません。

――顧客企業のIT(情報技術)パートナになるというのは,どういう意味ですか。

 顧客に言われたら何でもその通りにする,というのがこの業界の常識でした。かつて巨額の利益を生んだメインフレームという“刺身”があり,ソフトはその“つま”として位置付けられていたなごりでしょう。生意気なようなですが,我々はそうではなくて,顧客と対等の関係で仕事をしたいと思っています。

 システム構築を進めるにあたっては,顧客にやっていただくことと,我々がやるべきことが明確にあります。強烈な問題意識をお持ちで,「当社の改革をこうしたいんだ」と紙に書いてどんどん説明してくださる顧客とのプロジェクトはうまくいく。反対に,顧客の担当者によってやりたいことがばらばらであるようなプロジェクトの場合,必ずといっていいほどトラブルが起こります。もちろん,我々に落ち度があることもありますが,顧客のやりたいことがはっきりしていない場合は,こちらから顧客に「何をしたいのかはっきりしてくれ」と言うべきでしょう。そうした発言をできるのが真のITパートナだと思います。

人・月単価を出すのはおかしい

 ところが,現実にはITパートナとはとてもいえない状況がいろいろとあるわけです。わたしがSIの仕事に入ったのは,新日鉄のEI事業部長になった6年前です。顧客に出す見積書に「人・月単価」が書いてあるのを見て,社員をしかりつけました。「我々は知識を売っているのであって,人を売っているわけではないだろう。なせこんなバカなことを書くのか」と怒ったわけです。

 しかし,社員はどうしても記載が必要だという。「それなら1人・月300万円くらいに書いておけ」と言うと,「顧客が1人・月150万円にしてくれと言っています。ただ,後で工数を水増ししてくれるそうですから全体の採算は合います」なんて言ってくる。いったいこの業界はどうなっているのかとあ然としましたね。

 また,ある顧客で我々が送り込んだプロジェクト・マネジャが出入り禁止になるということがありました。よく聞いてみると我々にも非がありましたが,顧客にもそれなりの非がある。そこで,顧客のところへ出かけていって,「今日は謝りに来たのでありません。御社の非を唱えに来ました」と切り出し,「御社にもこういう問題があります。それをそのままで,勝手にマネジャを首にしてもらっては困ります。どうしても代えろというなら,今回の仕事から降ります」と交渉しました。

 顧客はなんと頭が高い会社と思われたでしょうが,翌日電話があって,顧客のほうから我々にお詫びを言っていただきました。それからプロジェクトはうまく進みました。今でもその顧客とは良い関係を維持しています。

――メーカーをリードし,顧客に意見を言える真のインテグレータになるには,相当な実力が必要でしょう。新会社の実力をどう高めていきますか。

 社員には,「まずお互いが持っているものについて徹底的に議論してくれ」と言っています。ENICOMとEI事業部という長年まったく別々に運営されてきた組織が合体したわけですから,それぞれが持つ顧客層も得意分野も,あるいは仕事のスタイルもかなり違う。お互いをよく知ることから始めようということです。ただし,「中途半端に大人の議論をしてくれるな」とも言いました。妙に相手に気を使ったり遠慮をしていては,両方のいいところが出なくなってしまうからです。

――EI事業部とENICOMの人は非常に仲が悪かったという印象を持っています。一緒に仕事ができますか。

 それはプライドなんですよ。自分に相当な力があると自負していると,相手より自分のほうがいいとだれでも思うものです。力があると思えば相手の風下には立ちたくない。そのくらいのプライドがないと困ります。ですから,あまり心配していません。

 それに本音の議論を尽くせば,本当にできる人ほど相手の技量がわかります。いつまでもいがみあって文句を言っている社員は,自分のできの悪さを証明しているようなものです。

――ユーザー系の情報システム会社では,出向者と転籍者,あるいはプロパー採用の社員によって,給与や評価が異なり,プロパーがやる気を失うことがあります。社長が親会社の人事ローテーションで決まるというのも問題では。

 ご指摘のように現在は,さまざまな人がいて,処遇にやや差があります。なるべく早い時期に,同じ技量を持った人は同一の処遇をするようにします。たぶん,みなさんが思っている以上に早い時期に必ずやります。

 わたしは現在,新日鉄の顧問をしていますが6月末で退任し,新日鉄ソリューションズ一本に絞って全力投球します。昔から与えられた場所で全力を挙げ,次の職場のことなど考えない,という仕事のやり方をしてきました。とはいえ,60歳になりましたから物理的にも次がない(笑)。ローソクが燃え尽きる前の最後の輝きにしないといけないと思っています(笑)。

(聞き手=本誌副編集長,谷島 宣之)