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 米インテルの64ビット・プロセサ「IA-64」がようやく姿を現した。IA-64の最初の製品「Itanium」(アイテニアム)を搭載するサーバーが,今後数カ月以内に各社から登場する。だが肝心のアプリケーションがそろうのは来年半ば以降。Itaniumの役目はIA-64用アプリケーションの開発と評価が中心になる。

図●米インテルの64ビット・プロセサ「Itanium」の概要
表●米インテルの64ビット・プロセサ「Itanium」の開発の経緯
 米インテルは米国時間の5月29日,Itaniumの量産出荷を宣言した([拡大表示])。米ヒューレット・パッカード(HP)との共同開発を1994年に発表してから7年後のことだ。その間,インテルはItaniumの出荷を2度にわたって延期した。

 30年におよぶマイクロプロセサの歴史のなかで,開発がこれほど長期化したプロセサはない。同時にIA-64ほど多くの注目を業界で集め,メーカー各社を振り回し続けたプロセサも例をみない([拡大表示])。

 一時の熱気がウソのように,Itaniumは静かに船出した。インテル自身が認めるように,Itanium搭載サーバーの当面の用途は,「メーカー側で特定のアプリケーションやミドルウエアを組み合わせた,ソリューション商品としての販売が中心になる」(インテル日本法人でIA-64のマーケティングを担当する平野浩介マネージャ)からだ。具体的には,64ビット・プロセサの利点が生きる大規模データベース処理や,データ解析処理用途での利用を狙う。「SCMやERPといった企業向けソリューションの中核にIA-64搭載機が使われるのは,Itaniumの後継プロセサMcKinley(開発コード名)が登場する来年後半になるだろう」(同)。

 ハードウエアの準備は整っている。今年8月までに20社以上がItanium搭載サーバーの出荷を始める。NECの16プロセサ機や日立製作所の8プロセサ機といった大型サーバーも登場する。

 問題はソフトウエアにある。「OSとミドルウエアの移行に,予想以上に手間取った」(米インテルでIA-64のマーケティングを担当するロン・カリー部長)。当座利用できるIA-64用OSは,HPの「HP-UX11i」,IBMの「AIX5L」,そしてLinuxの三つしかない。多くのサーバー・メーカーが期待していたIA-64用Windowsの正式出荷は,2002年前半になった。米マイクロソフトはItanium搭載サーバーの出荷と同時に「64ビットWindows」の提供を始めるが,これはあくまでもソフトウエア開発や評価のための“試用版”だ。

性能で競合プロセサを凌駕できず

 ソフトウエア面の遅れは,Itaniumの行く手を阻む本質的な要因ではない。Itaniumはサーバー市場で競合するRISCプロセサに性能面で差を付けられなかった。このことがサーバー・メーカー各社がItaniumに,軸足を移しきれない本当の理由だ。

 IA-64は32ビット・プロセサ(IA-32)の命令/データ長やアドレス空間を64ビット長に拡張するだけでなく,プロセサ性能の劇的な向上を目指した。そのため,IA-64に新アーキテクチャ「EPIC」を導入した。

 EPICは複数命令間の依存関係の解析と並び替え(スケジューリング)をコンパイル時に処理することで,プロセサが同時に実行可能な命令数,すなわち性能を高めようとする試みだ。「プログラム全体を対象に依存関係の解析と並び替えをするので,同時実行可能な命令数を増やしやすい」とインテルは考えた。

 他のRISCプロセサは,プロセサ内に読み込んだプログラムを対象にスケジューリングをする。このため「同時実行可能な命令数は理論値で最大4程度,現実には2.5前後で限界に達する」(インテルの平野マネージャ)とされている。限界を超えようと,インテルとHPはEPICに取り組んだ。しかし,コンパイラの開発に予想以上に手間取り,結果として出荷遅れを招いた。

 その間,RISCプロセサは着実に進化した。Itaniumが同時実行可能な命令数は平均3前後にとどまったようだ。この値は最新のRISCプロセサと同レベルにすぎない。

 量産出荷と併せてインテルは,米サン・マイクロシステムズのUltraSPARCとの相対値という形でItaniumの性能を公表した。「トランザクション処理性能は,750MHz動作のUltraSPARCIIIの1.3倍」といった具合だ。Itaniumを4個搭載したサーバー上で業界標準ベンチマークTPC-Cを実行した場合の性能は,5万tpmC(トランザクション/分)程度とみられる。

 このことはItaniumの性能が,HPやIBMが今年後半に投入する最新プロセサと同程度か,いくぶん劣ることを意味する。HPは,自社製RISCプロセサ「PA-RISC」の開発を2004~2005年まで続ける。IBMもIA-64にしばらく距離を置く。「2005年ごろまではIA-64よりも自社開発のPOWERプロセサのほうが性能面で優位に立てる見通しが立った。IA-64への関心は急速に薄れている」(IBM関係者)という。

価格性能比で圧倒,長期戦を挑む

 インテルはアプリケーションの品揃えを待つとともに,来年後半に製品化するMcKinleyの性能をItaniumの2倍程度に高めることで,巻き返しを図る。「競合のRISCプロセサと異なり,IA-64には性能向上の余地が多数残されている」(平野マネージャ)と主張する。この目標を達成できるかどうかが,IA-64の将来を占う試金石になる。

 インテルは,「性能面で大差をつけられなければ,3~5年後にはIA-64がサーバー向けプロセサ市場を制覇できる」と考えている節がある。複数メーカーが搭載製品を出荷するIA-64の生産量は,サーバー市場で競合するRISCプロセサを大きく上回ることは確実だからだ。インテルは量産効果に基づき,競合プロセサよりも格段に安くIA-64を提供できる。パソコン用プロセサで上げた利益をつぎ込んで,IA-64の価格を戦略的に引き下げる手もある。

 ItaniumのOEM価格は1177ドル(3次キャッシュ容量が2Mバイトの733MHz動作品)から,4227ドル(同4Mバイトの733/800MHz動作品)の範囲にある。これは競合プロセサの半分以下の水準だ。

(星野 友彦)