経済産業省は「日本版CMM(能力成熟度モデル)」のレベル認定を政府調達の重要な条件とする方針を再考している。「調達するシステムの重要性によってはCMMの認定を求めない」,「CMM以外のプロセス改善手法も調達条件として認める」といった方向で,年内いっぱいをかけて見直す。
経済産業省の見直しの背景には,CMM導入に対するソフト業界の反発がある。経済産業省は政府が調達するシステム案件の品質向上を目指して,2002年度の調達案件から応札者にレベル認定取得を義務づける方向で検討を進めてきた。7月には,この方針を明記した中間報告を公表している。
ところが,この中間報告に,ソフト業界の一部が反対の狼煙のろしを上げた。「CMMのレベル認定取得だけを考えた,文書作りなどの無駄な活動がはびこり,肝心の開発プロセス改善努力がおろそかになる」,「開発プロセスを改善する方法はCMM以外にもある。CMMだけを絶対視するのはおかしい」,「CMMのレベル認定を受けるには相当の費用がかかる。それに耐えられない中小ソフト会社やベンチャーを足切りするものだ」といった批判が経済産業省には寄せられた。
こうした声に対して経済産業省は,「日本版CMMを強調しすぎたことなど,中間報告には反省すべき点があった」(商務情報政策局情報処理振興課の村上敬亮課長補佐)と述べる。その上で「今後は,CMM以外のプロセス改善手法,例えば欧州で広く使われている『SPICE』などを取り入れることを検討したい。また,CMMのレベル認定をすべての案件の条件にすることは考えていない。例えば,防衛関連のシステム調達にはCMMのレベル認定が必須だが,電子メールのようなシステムはそうではない。こうした点を年末までに明確にしていく」と説明する。
ただし情報処理振興課は,ソフト業界の一部にあった「日本版CMMの導入を白紙撤回すべき」という意見には否定的だ。村上課長補佐は,「(中間報告に対するコメントなどで)そういった声があることは承知している。だが,日本版CMMは政府調達案件の品質向上もさることながら,ソフト会社の開発能力アップも狙っていることを理解していただきたい。開発プロセス改善が大事という認識を広める上でも,日本版CMMはソフト業界の役に立つ」と説明する。
ソフト業界には「CMMよりも,QCD(品質,コスト,納期)の実績でソフト会社を評価すべき」という意見も出ている。だが,これに対して村上課長補佐は「検討はする」と述べるにとどまった。「QCDの実績データは,開発能力が高いのか,一過性の“頑張り”で実現したのかが評価しにくい」からだ。
なお,経済産業省は,日本版CMMのレベル認定を調達条件にするに当たって,導入後一定の猶予期間を設ける方針を明らかにした。この間に「実質的な内容のあるプロセス改善に取り組み,レベルを高めてもらいたい」と村上課長補佐は語る。
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表●政府が策定中の新しいシステム調達方式を巡る動き。CMMのレベル認定を入札条件とするかどうかが焦点になっている CMM :米カーネギーメロン大学が開発したソフト開発組織の成熟度を評価する基準のこと。ソフト開発組織の開発体制や品質管理手法などを評価し,その組織の開発能力を5 段階で示す |