米国で9月11日に発生した未曾有の大規模テロ事件。この被害からの復旧を支援する動きが,ITベンダーの間で広がっている。米IBMや米HP,米EMCなどの大手ベンダー各社が代替製品の無償提供を相次いで始めた。一方,米国からの製品供給の先行きを懸念する国内ベンダーも多い。

 「社員とお客様の安全確保,そしてシステムの復旧に全力を尽くそう。完全に元には戻らないかもしれないが,できる限り早く,お客様の業務を復旧させよう」。米IBMのルイス・ガースナー会長は,事件発生の数時間後,全世界の社員30万人に向けた電子メールでこう呼びかけた。

 IBMの場合,倒壊した世界貿易センター(WTC)ビルだけで,100社以上の顧客企業が入居していた。IBMはその日のうちに,WTCビルから50kmほど離れた本社内に緊急支援チームを発足,被害にあった顧客のシステム復旧に乗り出した。政府組織,病院などの医療機関,民間企業の順で,現在,支援対象を広げている。

 具体的には,パソコンとパソコン・サーバー,ストレージを中心に,IBMの全ハードウエア製品と顧客が必要とするソフトウエア製品を当分の間,無償で貸与する。パソコンに関しては,少なくとも数千台が貸し出される見通しだ。

 エンジニアとサポート要員も,被害にあった企業に最優先で割り当てる。「契約書類や費用のことは原則として後回し。本来は別のお客様に納入するはずだった製品を,被害を受けた企業に回すこともあり得る」(日本法人の幹部)という。

 米HPも,IBMと同様の支援組織を立ち上げた。顧客企業からの依頼が入り次第,システムの復旧要員を派遣する。自社が運営するデータセンター内の施設を,一時的に無料で貸し出すなどの支援策も用意するようだ。

 今回の事件では,日本HPが構築から保守までを手がけた日系企業のシステムも被害にあった。日本HPは米国本社と連絡を取りながら,このシステムの早期復旧に尽力する意向である。同社は「日本から社員を派遣することも検討したが,現時点では難しいと言わざるを得ない」(日本HPの広報)としている。

 ストレージ最大手の米EMCは,ニューヨーク市に隣接するニュージャージー州にある自社のデータセンターを使って,被害にあった顧客システムの復旧を支援している。「殺到する復旧依頼をさばくため,エンジニアが不眠不休で作業に当たっている」(日本法人の幹部)。

 このほか米マイクロソフトは9月12日(米国時間),被害の復旧を支援する組織に対して,500万ドル(約6億円)分の同社製ソフトとエンジニアによるサポート・サービスを提供することを発表した。さらに同社は総額500万ドルをテロ被害復旧基金に寄付する。米HPも総額300万ドル(約3億6000万円)の寄付を申し出ている。

 一方,事件の余波が日本国内のユーザーに及ぶ気配もある。外資系のハードウエア・ベンダーなどで,製品の納入が9月14日現在,ストップしているからだ。米国内だけでなく,日本と米国を結ぶ航空輸送網は,事件発生後しばらくの間まひした。

 大手ベンダー各社の日本法人では,当座の在庫は確保してあるので,まだ直接的な影響は出ていない。だが,「航空輸送の混乱が続くようだと,お客様への納品に影響が出かねない」(コンパックコンピュータやシスコシステムズ)と各社の担当者は苦慮している。

 事件発生後1週間を経て,日米間の航空輸送はようやく再開した。しかし,通常状態にはほど遠い。

(高下 義弘,玉置 亮太)