日本IBMがロータス日本法人に対する影響力を本格的に行使し始めた。社員全員をIBMに転籍させるなど,完全統合に向けて外堀を埋めつつある。IBM製品とロータス製品の統合計画も動き出した。一連の動きに,これまでロータス製品を販売してきたパートナ企業の多くが困惑している。
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図●ロータスが販売する製品群。今後はWebSphereをはじめとするIBM製品との連携を強化する [図をクリックすると拡大表示] |
10月1日以降,ロータス日本法人の社員は名義上ほとんどいなくなった。現在約400人いる社員のうち,安田誠社長や役員数人を除く全員が日本IBMに転籍したからだ。これらの社員は即日,ロータス日本法人に再び出向して,これまでの業務に引き続き携わっている。ロータスの安田社長は「親会社のIBMと人事制度を統合することが転籍の目的。ロータス日本法人の体制にはまったく変化がない」と本誌に説明する。
だが,この言葉を額面通り受け止めることは難しい。1995年の買収以降,米IBMは米ロータス・ディベロップメントに対する支配を着実に強化しているからだ。すでに米国におけるロータスは「米IBM製ソフトウエアの1ブランド」といった位置付けにすぎない。この9月1日には,ブランド名も「ロータス ソフトウエア フロム IBM」に変更した。
米国では製品の統合も進んでいる。米IBMは8月14日,ロータスとIBMのEIP(企業情報ポータル)構築ツールの統合計画を正式発表した。これまでロータスが戦略製品として注力してきた「K-station」を来年1~3月をメドに,IBMの「WebSphere Portal Server」に吸収する。
ロータスの屋台骨を支えるノーツ・ドミノの次期バージョン(開発コード名はRnext)の売り物も,IBMのWebアプリケーション・サーバー・ソフト「WebSphere」やデータベース・ソフト「DB2」との連携強化である。
こうした米国本社の動きが日本法人に波及しないはずがない。本誌が取材した範囲でも,ユーザー企業やパートナ企業の間でロータスの今後を危惧する見方が急速に広がっていることが確認できた。
なかでも多いのは「IBMはすべてのロータス製品をWebSphereシリーズに統合してしまうのではないか」という声だ。ロータスの販売パートナである日立ソフトウェアエンジニアリングの大津行広営業本部ソリューション第2営業部長は「WebSphereと統合されると,ロータス製品のアプリケーションもJavaで記述するようになるだろう。そうすると,スクリプト言語で気軽にアプリケーションを開発できるロータス製品の良さがなくなってしまう」と警戒する。
「IBM製品とロータス製品の連携を強化しても相乗効果が出ない」といった意見も数多く聞かれた。ノーツのビッグ・ユーザーたちは「ノーツはあくまでも情報系のツールと位置付けている。ノーツと基幹系のWebSphereやDB2を連携するニーズはない」と異口同音に指摘する。
こうした声に対して,日本IBMでロータス製品を含むソフトウエア事業全体を統括する平井康文ソフトウェア事業部長は「ロータス・ブランドをなくす計画はまったくない」と反論する。スクリプト言語も継続するという。
さらに平井事業部長は「ロータスと一緒に,両社の製品を組み合わせたシステムを構築するサービスの強化に着手している。ユーザーにも統合の利便性をアピールし,市場を開拓したい」と語った。