経済産業省は,2002年度からシステム調達の落札結果の詳細を公表する。落札価格の総額だけでなく,機器の価格や開発費用など,ITベンダーが提出した見積もりの内訳をWebサイト上に掲載する。他省庁のシステム調達にも広める計画で,政府全体のシステム構築コストの適正化を目指す。
経済産業省は,システム調達の仕組みを来年度から抜本的に見直す。同省のシステムを落札したITベンダーの見積もりの詳細を,同省のWebサイト上で公開する。公開する内容は,ハードウエアやソフトウエア製品の価格だけでなく,開発や運用に必要な工数や費用など詳細な点にまで及ぶ計画だ。
見積もり内容を公開する目的は,「正当な入札を実施し,システム構築のコストを適正化することだ」(経済産業省商務情報政策局の福田秀敬IT産業室長)。落札結果を広く社会に公表することで,入札企業は非常識な見積もりを提出するのが困難になる。「適正水準よりも大幅に安い価格で落札した案件の場合,価格の内訳を見れば,必ずどこかに説明がつかない金額が表れる。この矛盾した落札内容を公開すれば,ITベンダーはほかの一般企業から同価格での発注を迫られる」(福田IT産業室長)からだ。
現行の政府のシステム調達では,ITベンダーは最初に不当な安値で落札しても,後で穴埋めをすることが可能である。落札後の設計変更や機能追加でITベンダーは多額の開発費を請求できるからだ。このため一見,安値入札でシステム構築コストを削減できるように見えても,「トータルではコストが膨らんでしまっているのが実情」(福田IT産業室長)である。
経済産業省は10月12日,まず予定価格の1割以下といった安値落札案件の見積もり内容を公開する方針を発表した。ただし,同省の真の狙いは,「安値落札にとどまらず,通常の案件についても情報公開を進める」(福田IT産業室長)ことにある。
政府も自己責任が問われる
経済産業省が,今回の見積もり公開という対策を考えた背景には,「官公庁のシステム開発・管理能力が著しく弱い」(福田IT産業室長)ことがある。現在は,入札時のRFP(ITベンダーへの提案要求書)の記述があいまいで,ITベンダーに突け込まれるスキがたくさんあり,いい加減な見積もりを許してしまっている。「RFPの内容が十分でなければ,まともにシステムが構築できるはずはない。開発の途中で,追加や修正が多くなってしまう。最終的に,システム構築コストは膨れ上がる」と,福田IT産業室長は自省する。
しかし,システムの開発・管理能力を高めるのは一朝一夕にはできない。一方で,現在でも行政機関のシステム構築には年間で約2兆円程度もの費用が支出されており,今後3~5年間で電子政府関連のシステム構築プロジェクトに数兆円の膨大な費用が投じられる予定である。そこで,落札結果を公表し一般の監視の目を頼りにするという,いわば“開き直った”策を経済産業省は打ち出したわけだ。
発注者側である政府は,見積もりを公開することで自らの責任を問われる場合も出てくる。一般的な水準からかけ離れた高値で発注すれば,税金の無駄使いと糾弾されるからだ。会計検査院は開発工数などの妥当性まではチェックできないので,結局は発注者が自ら責任を持って妥当な価格を調べなければならなくなる。