明治生命保険と安田生命保険が2004年4月をメドに合併し,基幹系システムを統合する。両社のシステム統合は困難を極めるとの見方が強い。だが,保険会社の情報システムに精通したコンサルタントは「無理に一本化しようとしなければ,統合はうまくいく」と予想する。
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写真●明治生命保険の金子亮太郎社長(右)と安田生命保険の宮本三喜彦社長 |
「簡単ではないが,かなり早い時期にシステムを統合できると考えている」。明治生命と安田生命が経営統合すると正式発表した翌日,1月25日の記者会見で明治生命の岩田勝三常務は,こう明言した。経営統合における最大の課題は基幹系システムの統合だ,という指摘を完全に否定したのである。
一般に,システム統合はなかなかスムーズにいかない。基幹系システムのアプリケーションには,商品の内容や業務処理のやり方など,企業ごとの特色が反映されているからだ。
だが,長年にわたって保険会社のシステム・コンサルティングを手掛け,業界に精通している保険システム研究所(東京都世田谷区)の伊藤公胤ひろつぐ社長は,「明治生命と安田生命なら,システム統合はうまくいくだろう。逆に,この2社で失敗するようなら,どの企業がシステム統合に取り組んでも成功しない」と太鼓判を押す。明治生命と安田生命がともに,同じ日本IBM製品を利用して基幹系システムを構築していることが大きな理由だ。
明治生命と安田生命はメインフレームのS/390にOS/390を搭載。データベースはDB2で構築,トランザクション処理モニターにCICSを利用している。「アプリケーションの処理の仕組みは,CICSなどミドルウエアの種類に大きく依存する。システム基盤が共通なだけで統合作業は格段に楽になる」(保険システム研究所の尾籠おごもり裕之取締役)。
ただし,大きな効果を目指すあまり方針を誤ると,システム統合に失敗する公算が大きい。具体的には,すべてのデータやアプリケーションを無理してどちらか一方の基幹系システムに統合(片寄せ)しようとすると,共通のシステム基盤を利用していることで得られるメリットは消えてしまう。データ定義の違いを洗い出して共通にしたうえで,アプリケーションを修正する作業には「想定以上の時間と費用がかかり,ほとんど不可能といってもよい」(尾籠取締役)からだ。特に,個人向け保険商品は生保各社で似ているが,違う部分がたくさんある。「保険開始日」というデータ一つを見ても,「保険料の支払いが始まった日」や「契約書類を受領した日」などと異なる。
明治生命と安田生命がシステム基盤が共通であるというメリットを生かして,うまく統合するための現実解は,CICSを介して仮想的にシステムを一本化することであろう。具体的には,明治生命のシステムに発生したトランザクションが安田生命の商品に関するものだったら,それを明治生命のシステムに振り分けたり,その逆を実行する機能をCICSで実現する。
もちろん,これでは二つの基幹系システムを併用することになり,システム統合による運用コストの大幅な削減は見込めない。それでも「生命保険会社ごとの差がほとんどない企業向け保険商品については,アプリケーションを一方に片寄せできるので,システム運用の負担はある程度軽くなる」(伊藤社長)。