有力通信事業者のIIJとパワードコムが,合併を視野に入れた提携交渉を始めた。広域LANなどの成長領域でスケール・メリットを追求し,NTTに対抗する一大勢力の結成を目指す。だが,両社の事業分野には重複が多い。企業文化もまったく異なるため,合併が成功するかどうかは疑問だ。

写真●事業統合を発表したIIJの鈴木幸一社長(左)と,パワードコムの種市健社長(右)

 「データ通信分野で,NTTと肩を並べる地位を確立する」。IIJ(インターネットイニシアティブ)の鈴木幸一社長(写真)は7月18日,パワードコムと一体化する狙いを強調した。両社は,年内をメドに経営統合の具体的な内容を決定する。パワードコムの種市健(たねいちたけし)社長は「合併や持株会社の設立などを含め,さまざまな選択肢を検討している」と説明する。IIJのグループ会社クロスウェイブ コミュニケーションズや,東京通信ネットワーク(TTNet)を含めた4社連合に発展する可能性もある。筆頭株主がいずれも東京電力のパワードコムとTTNetは,来年4月の経営統合をすでに決定している。

 IIJは黎明期からインターネット接続事業を手がけ,技術力に定評がある。一方,パワードコムは全国の電力会社を親会社に持ち,通信インフラの保守運用で実績がある。両社が一つになれば,確かにNTTに対抗し得る。

 特に成長分野の広域LANの分野では強い。JPモルガン証券で通信分野を担当する米島(よねしま)慶一アナリストは,「IIJグループとパワードコムのシェアを合わせると85%に達する。これだけのシェアがあれば,そのインフラの上で新しい付加価値サービスを提供する道も見えてくる」と語る。

図●4社の主要サービス。統合後は広域LANに注力し,シェアの拡大を目指す

 だが,IIJグループとパワードコムの一体化は,一筋縄ではいかない。両社が提供するサービスは完全に競合しており,合併による相乗効果は期待しにくい([拡大表示])。むしろサービス・メニューの統合に手間取る可能性が大きい。例えば,クロスウェイブとパワードコムでは同じ広域LANでも,ネットワークの仕組みや使用機器などがまったく異なる。IIJの浅羽登志也(としや)常務は,「当面はそれぞれのサービスを継続し,2~3年後にサービスを刷新するタイミングで,共通化を図る」としている。しかし,それではスケール・メリットが出ない。

 パワードコムの種市社長は「営業の一本化を手始めに,関係を深める」と語る。だが,この発言にも現実味があまり感じられない。独立系のIIJと,公共会社系のパワードコムの社風は大きく異なるからだ。IIJの鈴木社長とパワードコムの種市社長は,「確かに水と油の関係だが,共通の目的があれば,協力しあえる」と口をそろえるが,それほど単純な話とは思えない。

 IIJの主要株主にNTTコミュニケーションズが入っていることも気になる。この点に関して,鈴木社長は「前向きな返答が得られるはず」と言葉を濁すだけだった。

(鈴木 孝知)