業界内の他社とシステムを共同利用すれば,各社が個別にシステムを構築するよりもコストを削減できる。こう目論んだ損保各社は今春から,代理店向けシステムの共同化を一気に推進。ところが現時点では3陣営に分かれ,業界全体でシステムを一つに集約する難しさが浮き彫りになっている。

 「非競争領域のシステムは,他社と共同開発することで効率化していくべきだ」。東京海上火災保険 IT企画部企画室企画グループの稲葉茂課長はこう強調する。

 損保最大手の東京海上は,日動火災海上保険や共栄火災海上保険を含めたミレア保険グループとして,日新火災海上保険と共同で「次世代代理店オンラインシステム」を稼働させる。東京海上が今年11月に使い始めるのを皮切りに,日動火災は来年2月から,共栄火災と日新火災はそれぞれ来年度上半期から,次世代代理店オンラインシステムの利用を開始する。

 これに対して損保業界2位の損害保険ジャパンは,来年4月の稼働を目指し,東京海上とは別の「次世代Web型代理店システム」を構築している。日本興亜損害保険,あいおい損害保険と3社でシステム共同化を進める格好だ。目的は,「システムの開発・運用コスト削減と開発スピードの向上。例えば開発コストは,システムの共同化によって2割は減らすことができるとみている」(損保ジャパン情報システム部の末広利明担当部長)。

 東京海上や損保ジャパンの取り組みに先駆け,損保業界ではすでに今年4月から共同化したシステムが稼働している。三井住友海上火災保険とニッセイ同和損害保険の利用する「ISSシステム」がそれだ。ISSシステムは,三井住友海上とニッセイ同和損保に加え,生保12社の共同出資企業である「インシュアランス・システム・ソリューション(ISS,東京都千代田区)」が開発・運営している。

 ISSはこの10月をメドに,銀行の窓口で保険商品の一部を販売する機能を追加。同時期に,チューリッヒ生命が新たにISSシステムの利用を開始する。ガン保険最大手のアメリカンファミリー生命保険も,「利用開始時期は未定」(三重野勝典執行役員)ではあるものの,近いうちにISSシステムを利用することを表明している。

図1●代理店システムを損保業界で共同利用すれば,損保各社は開発コストを低減できる。代理店も,保険会社の顧客データを一元的に取り扱うことができる

保険会社と代理店の双方にメリット

 主に代理店経由で保険商品を販売する損保業界としては,代理店向けのシステムは欠かせない存在だ。代理店向けシステムは,代理店の担当者が保険契約の内容や契約者の顧客情報を確認したり,保険の見積もりを作成するのに使う。損保各社にとって,本来は「競争すべきシステム」(三井住友海上 ネットワーク推進部の成相(なりあい)修課長)である。

 とはいえ,代理店向けシステムが備える機能には,損保各社で共通な部分がある。例えば,顧客管理や保険契約の概要を管理する機能だ。こうした非競争領域の機能を共同利用しようというのが今回の試みである。

 代理店向けシステムの中で,たとえ一部分だけでもシステムを共通化すれば,代理店にとっても,大きなメリットがある。それは,「代理店が複数の保険会社にまたがって,顧客データや契約内容を参照できる」(三井住友海上 販売推進部営業IT企画グループの松崎哲哉業務課長)からだ(図1[拡大表示])。そうすれば,複数の保険会社の代理店を兼ねる“乗り合い型”の代理店は,各保険会社の契約や顧客の情報をまとめて一元的に比較できるので,「代理店の業務効率が上がる」(同)。

 これまで“乗り合い型”の代理店では,「各社の代理店向けシステムを立ち上げ,パスワードやIDを入力した後,各社ごとに一覧表示したデータを印刷して比較したりしていた」(三井住友海上の松崎業務課長)。

(大和田 尚孝)

次回(下)へ続く