7月から稼働している不動産競売物件の紹介サイト「BIT」は,最高裁判所の依頼に基づき東芝がASP形式で運用している。にもかかわらず最高裁や地方裁判所はBITの利用料を一切支払っていない。それでも東芝は収益を見込む。関係者のいずれもがメリットを得られる事業モデルが明らかになった。
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図1●最高裁判所が提供する不動産競売物件の紹介サイト「BIT」の画面例 |
通常なら,BITを使う地裁が利用料を支払うことになる。しかし,BITの利用料を最終的に負担しているのは,競売物件の債権者に対して債務を弁済する義務を負う債務者である。その仕組みはこうだ。地裁は競売物件の落札者が納めた購入代金の中から,BITの利用料をはじめとする諸経費を執行費用として優先的に差し引き,その残り分を債権者に交付する。債務者からすれば,地裁が差し引いた費用の分だけ,債権者に弁済できる金額が減るものの,債務の弁済を進められる(図2[拡大表示])。
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図2●競売物件を紹介するWebサイト「BIT」の利用料は,債務者が最終的に負担することになる。 地方裁判所が競売物件の購入代金から利用料を差し引いて東芝に支払うので,その分だけ債務者が弁済に充てることができる金額が減るからだ |
BITのように,国が1円も支払わずにシステムを利用する事例は,「今回が初めて」(東芝 官公情報システム事業部 官公情報システム技術第一部官公情報システム技術担当の坂田穂積 技術主任)。東芝は入札対象の競売物件を1件掲載するごとに,1万3400円の利用料を得る。数年後をメドに,数億円とみられるBITの初期投資も回収できると見込む。
BITの特徴は,「競売物件に関する詳細なデータを掲載できること」(最高裁判所 民事局第三課執行手続第一係の森田恵祐 係長)。具体的には,「物件明細書」,「現況調査報告書」,「評価書」という,競売物件に関する“3点セット”をPDF形式で掲載する。「不動産競売の売却率を上げ,不良債権の早期回収に弾みをつけたい」(同)。BITはさらに,物件の最寄り駅に関する情報を自動的に付け加える機能を備える。東芝は,同社が手がける情報サイト「駅前探険倶楽部」のノウハウを使って,この機能を用意した。
これに対して通常の新聞広告では,競売物件の最低売却価格や所在地などの概要しか掲載していない。“3点セット”を閲覧するには地裁などに出向かなければならず,「入札希望者にとって不便だった」(最高裁の森田係長)。
東芝が今回のような条件でBITの運営業務を落札したのは今年2月のこと。これに先駆け最高裁は,BITの業務分析や要求仕様の策定支援,入札評価の支援を受けるための入札を昨年9月に行い,廣済堂が落札した。廣済堂は,BITが完成した後の監査も随意契約で実施。廣済堂に支払う費用は最高裁が負担した。