電子政府関連システムの“最後の大物”,総務省の「電子入札・開札システム」が10月に稼働する。複数ベンダーによる安値入札,短期間で大規模な開発,経験のないベンダーが開発を担当,と不安要素が三つもそろったため,業界内で稼働が危ぶまれた。しかし予定通り稼働できる見込みだ。

図●「電子入札・開札システム」のWebページ。
適正な調達を目指して電子政府で初めてソフト開発を一本化したが,2度にわたって安値入札が起こってしまった
 電子入札・開札システムは,企業が現地に赴くことなくインターネット経由で入札したり,結果の通知を受けられるようにするもの([拡大表示])。対象となる業務は,物品などの入札および開札業務。工事などの公共事業は含まれない。

 この10月に,総務省の一部入札案件を対象に運用を開始する。総務省は来年4月から対象案件を順次拡大。取り扱う入札案件の数は,「最終的に総務省だけで年間1万2000~3000件程度」(総務省郵政企画管理局経理課の上田政幸係長)。並行して他の中央省庁にソフトを配布する。2004年3月までにすべての中央省庁に導入が完了する予定だ。

 「電子入札・開札システムの開発は順調だ。予定通り10月に稼働する」と上田係長は太鼓判を押す。実はこのシステム,業界内では「稼働は困難ではないか」とささやかれていた。相次ぐ安値入札による逆転劇の末,同システムの開発を落札したのはコンパックコンピュータ。コンパックは官公庁向けシステム開発案件でほとんど実績がない。にもかかわらず,「実質的な開発期間は4カ月,200人月規模の開発」(コンパック第一営業統括本部第二営業本部の田島次男本部長)という難事業に挑むことになった。業界内で不安視する意見が出るのも無理はない。

 しかし,コンパックは荻窪事業所にプロジェクトの専門ルームを設け,ピーク時に80人の技術者を投入。「失敗したら,今後官公庁市場で仕事ができなくなる」(田島本部長)との覚悟で開発に臨んだ。これが奏功したようだ。

 ここに至るまでの電子入札・開札システムの道のりは平坦でなかった。同システムは全省庁に展開することが決まっていたため,多くのベンダーが注目していた。そのため競争が過熱し,関連システムを含め安値入札が3回も繰り返されるという前代未聞の事態が起こった。

 発端は2000年5月,旧郵政省(現在の総務省)の調達総合情報システムを日本IBMがわずか2万8000円で落札したことだ。「当時,このシステムを受注したベンダーが,本丸の電子入札・開札システムを手中にできるとみられていた」(大手ベンダー幹部)。しかし昨年10月,NECが445万円(予算は2億円)で「電子入札・開札システム概要設計等の委託」を受注。NECが,次のプログラム作成の入札で有利な立場を得ることになった。

 ところが今年4月,プログラム作成をコンパックが825万4988円(予算は2億円)という安値で受注するという再逆転劇が起きた。「外資系の当社が,国内ベンダーが幅を利かせる電子政府案件に食い込む最後のチャンスと判断した」と田島本部長は話す。「今後全省庁への展開で発生する案件や,地方自治体への展開を考えて決断した」(同)。

 コンパックによる開発が順調に進んだのは,コンパック自身が体制を充実させたことに加えて,総務省が「設計と開発がともに入札になる以上,どのベンダーが構築しても支障がない設計になるよう,細心の注意を払った」(上田係長)ことも大きかった。

 電子入札・開札システムには,もう一つ注目すべき点がある。「電子政府関連システムで初めて,開発を一本化した」(上田係長)ことだ。従来の電子政府関連のシステムは汎用申請や認証局など機能がほぼ同じでも,各省庁が個別に構築していた。政府全体でみると同じ機能に重複投資しているという批判が多かった。電子入札・開札システムで,その批判にこたえる試みが初めてなされたといえる。

(広岡 延隆)