600万円使えば60万円ディスカウント

 新税制では、「10%の税額控除」と「50%の特別償却」のどちらか一方を選択できる。20万円のパソコンを30台買って「600万円以上」の条件(図1[拡大表示]参照)を満たした場合、10%税額控除を選べば60万円、50%特別償却を選べば90万円分、減税がない場合に比べて法人税が減額される(図2[拡大表示])。

図1●IT投資促進税制の概要とその特徴
6000億円という規模に加えて、大企業とソフトウエアを対象にしたこと、税額控除を10%にしたことは異例の措置である
 
図2●IT投資促進税制がもたらす効果
20万円のパソコン30台(合計600万円)を購入した場合、10%の税額控除を選ぶと初年度の法人税の支払額が通常に比べて60万円減る。一方、50%の特別償却を選択した場合は、通常に比べて90万円減る

 一見したところ、50%の特別償却の方が減額幅が大きく得に見えるが、必ずしもそうではない。特別償却では、初年度に支払う法人税は軽減されるが、パソコンの法定耐用年数である4年トータルでみた場合の法人税の支払い総額は通常と変わらないからである。特別償却というのは、法人税の支払いの“先送り”にすぎない。

 ただし、初年度に多額の運転資金が必要な企業にとっては、その年の減額幅が大きい50%特別償却のほうが有効だ。50%特別償却は、赤字が見込まれる企業にも減税効果をもたらす。大型の情報化投資をして赤字になっても、赤字額は5年間繰り越しできるからだ。2003年度に生じた赤字額は、2004~2008年に生じた黒字額と相殺できるので、2004~2008年に支払う法人税を軽減できる。

 一方、10%の税額控除は、文字通り60万円の“法人税ディスカウント”、“真水の減税”だ。情報化投資の費用対効果を高めることができる。ただし、繰り越しは1年だけなので、赤字が続く企業には効果がない。

ベンダー、ユーザーとも歓迎の声

 IT投資促進税制は今のところ、ITベンダーにもユーザー企業にも好評だ。システム・インテグレータ大手TISの船木隆夫社長は、「減税は、ユーザー企業の情報化投資を後押ししてくれるだろう。景気の悪化を懸念して、予算の執行が先送りされている投資案件が少なくない。減税があれば、こうした案件が動き出す。減税効果は業種を問わないが、特に製造業で顕著になるのではないだろうか」と期待する。

 富士通の秋草直之社長も「ソフトを対象にしたのは非常によいことだ。(パソコン減税のときと違い)リース物件も減税対象にしているので、中小企業にも利用しやすくなっている」と評価する。

 ある中堅専門商社のシステム関係者は、「現在利用中のWindows98搭載パソコンを、数年かけてWindows XP搭載機に入れ替えようと計画している。減税があるなら、この計画をより短期間に実行することも考えたい。西暦2000年問題に対応するため1999年に大量に入れ替えたハードの一部は今年リースが切れるが、再リースだけでなく再入れ替えも選択肢になってくる」と語り、投資計画の見直しを検討する考えだ。

実効を上げるためには運用が大事

 大きな効果が期待されるIT投資促進税制だが、二つの懸念材料がある。一つは、3年間の時限措置である点だ。ある大手製造業のシステム担当者は、「情報化投資の計画は長期的な視点で立てている。減税があると言われても、容易に前倒しできるわけではない。資金の手当てもすぐにはできない」と語る。財務省は「今回の減税は、ゆっくり行われているIT化を一気に進めてもらうことが狙い。したがって、期限は切らざるを得ない。それでも通常の投資促進減税は期間2年が一般的なところ、今回は3年と比較的長くとっている」(財務省税制第二課の青木孝徳(たかのり)企画調整室長)と説明する。しかし、無理を承知で5年程度の期間をとってもらいたいとの声も上がっている。

 第2の懸念は、国税庁の運用方針である。ユーザー企業からは「投資を実行した後で、『この製品は減税の対象ではない』と言われたらたまったものではない。当面は、様子見だ」という声も聞こえてくる。国税庁には“前科”があるからだ。かつて法人税では、30万円未満の少額資産は一括して償却してよいという実質的な減税の仕組みがあった。多くの企業がこの制度を使ってパソコンを導入しようとしたが、「LANに接続されたパソコンは対象外」というのが国税庁の見解で、情報化投資に水を差した。デフレ克服と競争力強化という減税の趣旨に沿った、適切な運用を望みたい。

(森 永輔)