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オリックス信託銀行は2003年11月、基幹系システムを全面刷新した。投資効率の最大化を狙い、重複システムの一本化やメインフレームの撤廃に取り組んだ。商品を思い切って絞り込む、パッケージ製品に業務を合わせるなどの“割り切り”で短期開発に成功。維持費用も2割削減した。

表●オリックス信託銀行がコスト削減のためにシステム刷新で断行した三つの“割り切り”
図●オリックス信託銀行の基幹系システムの概要
 「収益の向上を実現するシステムを安く早く手に入れる」。オリックス信託銀行の岡村弘幸システム統括部長は、昨年11月に実施した基幹系システム全面刷新の目的をこう説明する。

 従来二つに分かれていた基幹系システムを一本化し、メインフレームを撤廃してUNIXのみで構築。運用・保守にかかる費用を2割削減した。通常、銀行の基幹系を全面刷新すると最低2~3年はかかるところを10カ月という短期開発を実現。開発コストの抑制にも成功した。これらが実現できたのには理由(わけ)がある。同行が三つの“割り切り”を断行したからだ([拡大表示])。

 オリックス信託銀行の基幹系は従来、二つあった。前身の山一信託銀行時代から使っていたものと、2000年8月に稼働させたインターネット向けである([拡大表示])。後者を既存の基幹系とは別に構築したのは、「インターネット向けビジネスをすぐに立ち上げる必要があったから」(岡村統括部長)。商品やチャネルが限られているインターネット向けは、既存システムに手を入れるよりも新規開発したほうが早く、確実だという判断だ。同様の判断でネット向けと既存システムを並行稼働している企業は少なくない。

シンプルを追求し、基幹系を一本化

 二つのシステムを統合すれば運用・保守の費用が安くなるのは当たり前だが、多くの企業にとってなかなか一本化に踏み切れないのが実情だ。正常稼働しているシステムに手を入れるリスクがあるうえ、「統合コスト」と「削減できる運用コスト」のトレードオフが判断しにくいからである。

 オリックス信託銀行がシステムの一本化に臨んだ理由の一つは、メインフレームで動く基幹系システムの保守期限が昨年末で切れること。ただ、単なる一本化ではなく、思い切ってシステムで対応する商品やチャネルを絞り込んだ。これが一つ目の割り切りである。

 従来の基幹系システムは「多品種型」。同じ機能を実現するには費用も期間もかかる。同行が掲げる経営戦略「シンプルさの追求」に合わせ、「取り扱い商品数は少ないが、販売を強化する商品・チャネルに絞り込むという経営戦略に合致したシステムを目指して要件をまとめた」(岡村統括部長)。

 支店はゼロ、出張所扱いのローン相談所などが全国に6カ所だけという、インターネット専業銀行に近い同行だからこそできた選択とも言える。しかし、割り切ったからシステムの一本化に踏み込めたことは事実である。

パッケージに業務を合わせる

 新システムの動作プラットフォームにはUNIXサーバーを選んだ。信頼性を疑問視する向きもあったが、「メインフレームにはこだわらなかった。サーバーを二重化すればUNIXでも信頼性が高められると判断し、コスト面からUNIXを選択した」(システム統括部の金沢良昌(よしまさ)副部長)。

 少しでも開発期間を短くして開発コストを抑えるため、パッケージ製品を利用。さらに、「既存の事務の流れを変えてでも業務をパッケージに合わせる覚悟をした」(岡村統括部長)うえで、本当に足りない機能だけを追加開発した。パッケージ・ベースの開発で最もコストがかかるカスタマイズを極力抑えるためだ。これが二つ目の割り切りである。

 システムに業務を合わせる方針は、現場の同意が得にくい。そこで岡村統括部長らは、山谷佳之社長が直接プロジェクトのボード・メンバーに参加するという協力を取り付けた。そのかいあり、「業務部門には、システムありきで業務を全面的に見直してもらうことができた」という。現場経験のある岡村統括部長は「現場は業務が変わるのが怖いもの」との実体験に基づき、現場に頻繁に出向いて要望を聞いたり、教育を支援したりした。

手作業も辞さない

 こうした割り切りによって基幹系システムの再構築を10カ月でやり遂げ、予定通り、2003年11月17日に稼働させることができた。

 実は、稼働日は動かすことができなかった。11月17日は銀行間の為替処理を仲介する「全国銀行通信システム(全銀システム)」の刷新日。全銀システムを利用する金融機関は新しい全銀システムに合わせて自社のシステムを変更する必要がある。オリックス信託銀行は、新基幹系システムの稼働日を新しい全銀システムの稼働日に合わせることで、旧システムでは全銀関連のシステム変更を一切しないと決めた。

 ただ、切り替え当日に異常事態が発生したら、全銀システムとの接続ができなくなる。ここに、三つ目の割り切りがある。何らかの理由で全銀システムと接続できなくなった場合は、手作業で為替処理をこなそうというものだ。

 具体的には、他行向けの為替電文は「社員が近くの銀行に駆け込み、ATM(現金自動預け払い機)コーナーで振り込み処理をすればいい」(岡村統括部長)。一方、他行からオリックス信託銀行に送られてくる為替電文は、全銀システムからの通信データを受信する「代替サーバー」を用意する手段を考えた。

 こうした作業手順は、「コンティンジェンシ・プランとしてあらかじめ用意しておいた」(岡村統括部長)。とはいえ、新システムの開発が遅れて11月17日に間に合わなければ、コンティンジェンシ・プランの意味がない。そこで同社は稼働の遅れを防ぐために、プロジェクト全体を第三者の視点でチェックするコンサルタントを招き、進捗管理を徹底した。グループのIT企業であるオリックス・システムにもプロジェクトの支援を依頼するなど、「できる限りの手を尽くした」(岡村統括部長)。

 今回のシステム刷新にかかわる開発費用は約13億円。富士通と契約した運用アウトソーシングは、5年契約で年間1億6000万円である。新基幹系システムの運用・保守にかかる費用は、従来システムに比べて1~2割削減できたという。

(大和田 尚孝)