トヨタの「カイゼン」を取り入れる

 お客様にコミットするということは、富士通自身も変わっていかないといけないということです。昨年から、トヨタ(自動車)さんの考え方や行動様式を見習おうというか、あえてマネしようとやってきました。

 社内のことに力を入れる理由は、私自身これからそんなに売り上げをバンバン伸ばせる時代じゃないと思っているからです。お客様も非常にシビアになっています。そういうなかで商売しようとすると、既存のお客様を大切にするということと同時に、我々自身がコストダウンする、あるいはスピードを上げるということが大事になります。

 例えばSEが今まで1年間に1回転しかしなかったのを、2回転できればよい。もちろん、単に無理やりSEの回転数を上げるといったことじゃないです。

 だからトヨタさんの考え方、いわゆる「カイゼン」の考え方を取り入れようというわけです。現場の問題点を見つけて改善する。そして、改善の効果が出た場合、経営者は必ず改善した人にリターンする。これを工場でやっています。

雇用を守りながら競争力をつける

 こうしたことをやっていくなかで大事なのは、雇用をきちんと守るということです。当然、給料をもっと上げるということもあるけれども、それ以上に雇用を安定させることが、非常に大事です。コストの面で中国や韓国といろいろと戦っているなかでも。

 だから私自身は、いろいろな工場に、トヨタさんのやり方を見習って行動様式を変えよう、と言っているわけです。自分たちの現場を見たときに、必ず改善できるポイントがある。それはなくならないんだと。それを見つけて提案し、改善した人にはリターンが増えることになるし、最終的には自分たちの会社が勝ち残れるようになるんだと。

 平準化とか、ジャスト・イン・タイムとか、そういった手法もありますけど、それはメインではないんです。私自身はやっぱり、現場を改善し続ければ自分たちは勝ち残れるんだという考え方が一番本質なんだと思っています。私はその考え方を、現場で働いている人も、幹部社員も、経営陣にも取り入れようと思ったんです。

 IT分野はものすごく変化が早いです。それからお客様もどんどん変わっていきます。そのときの戦いの一番の要素というのは、人間力です。人をどうマネジメントして、気持ちを合わせて強い力にするかが大事だと思っています。

利益を出せない会社は存在する価値なし

 私は去年、ずいぶんいろいろな工場に行きました。いろいろ見せてもらって、必ず「何かひとこと言ってくれ」とくるから、私は「利益を出せない会社は、存在する価値がない」と言いました。

 富士通のビジネスというのは、お客様と長く継続的な深い付き合いをするということを基本にしています。それはソフト・サービス事業しかり、それからプラットフォーム事業しかり、それから電子デバイス事業もしかりだと。

 では、お客様は富士通が毎年赤字を出していたら、そんな長い付き合いをしようと思うかと。もう過去2年間、赤字を出したきたんだから、今年はきちんと利益が出ることを証明しないといけないと。じゃないと長い付き合いなんか、富士通が望んだってしてくれないですと。

 経営者の観点からいったら、そんなリスクの大きい会社とは付き合えない。だから、必ず利益の話をしているんです。

 だから、現場の皆さんは利益を出すために、一生懸命頭を使ってどんどん会社を変えていってくれと言いました。幹部社員にもそうだし、経営陣には絶対にやれ、と強く言いました。そうしないと、従業員に対して「あなたは仕事がなくなりますよ」と言わないといけなくなるぞ、と。こんなのは一番つらいことだろう、と。そういう言い方をしています。明日(3月2日)も工場に行くんですが、そういう話をまたするつもりです。

 工場だけでなく、SEも同じです。今まで(ソフト・サービス事業は)非常に恵まれたなかでやってきましたから、やっぱり少し内部の改革という点が緩んでいると思っています。

リスク・マネジメントに力を入れる

 いま富士通は完全に変わり始めています。

 しかし最近では東邦銀行さんのPROBANKなどもありました。実際、銀行のシステムは生易しいものじゃない。

 富士通がいろんなシステム構築案件を手がけたというのは間違ってはいなかったと思います。しかし、そのリスクの大きさということを、もっと考えるべきだったという気はしています。

 技術やプロジェクト管理とかいろいろありますが、結構、富士通は最初のところで、なかなか身を引くというのができないタイプで。

 お客様からしたら(引き受けてくれる富士通は)頼りになるというのはあるんだろうけど、「そんなに苦労するんだったらもっと早く言ってくれ」というお客さんもたくさんおられるわけです。

 例えば(英)富士通サービスでやっているようなリスク・マネジメントを、取り入れることを急ぎます。商売を頂戴する前に、徹底してリスクを洗い出す、ということです。必要な技術やコスト、時間ですとか。お客様のためにやりますが、(当社が)損をしては何もならないので。

 富士通サービスはそうしたうえで10年間、1000億円以上の案件を取っているわけです。(英)ナショナルヘルスサービスや(英)国税庁などね。業務パッケージなんかは得意な他社と組んでいるわけですよ。そうしてリスクを下げているわけです。

 自分の持っている能力や、お客様の能力、そういうものをきちっと見ながら、商談の最初のところできちっとリスクを認識して、先手、先手で打っていくということが、すごく重要になってきているわけですね。もう富士通も、そういうことをやっていかないとダメなんです。富士通がだいたい失敗するケースは“突っ込み型”ですからね(笑)。

 でもリスク・マネジメントも企業文化そのものです。社内でも以前からずっとチェックシートを作っているんだけど、社内の価値観のまま変えようとすると、すごく大変です。さっき、トヨタさんの行動様式を見習おうじゃないかと言った、というのは、やっぱり外の良いモデルを活用して、ベンチマークするほうが結果的に早いからです。

 私自身は一番いい“先生”、つまりベンチマークをする相手というのは富士通サービスじゃないかと思います。いま、富士通サービスに社員を送っていまして、互いの情報を交換しています。

モノを「作る」発想から「使う」に変える

 ほかに力を入れてやっているのは、仕事のプロセスやマネジメントを変えろということです。

 今までは自分たちで作る、ということを中心に置いたマネジメントであり、それに基づいていろいろなプロセスをつくってきた。だけど、もう違うんじゃないか。お客様が「経営のために使う」という観点に立ったマネジメントやプロセスに改革しないといけない。

 ただモノを作るのは間違いです。まずはお客様のやりたいことをよく理解してモノを作る。そうですよね。それに、お客様の言う通りに作ったらいい物ができる、なんて考えも違います。

 ITを使って、お客様の経営とか事業をよくするんだという観点で考えたときに、そこではこれまでの富士通のやり方とは違う、いろいろなアイデアがあっていいわけです。自前で済ますのではなく、得意な他社さんと組んだ方がいいとか、逆にここはお客さんに任せた方がいいものができる、という部分もあります。

 そうすると富士通のビジネスのやり方を変えないといけないわけです。変えなかったら、生きていけなくなります。

 例えば(手を前に出しながら)こっちの軸にお客様のCEO(最高経営責任者)がいます。それからCIO(最高情報責任者)がいて、システム部門があってエンドユーザー、こういう構造になります。

 上の方から企画から開発、運用、評価と。そうすると富士通は何だかんだいっても、CIOとシステム部門が中心のビジネスです。外へ広げると言っても、やっぱり作るということを軸にしたときにはそういうふうになっちゃいますよ。

 いま、ITでお客様のビジネスをトランスフォーメーションしますと言っています。これからはCEOを相手にすることを考えないとどうしようもない。確かに、いままでも富士通はCEOを相手にした商売をやる、と言っていました。しかし、現実にどこまでできたか、という疑問はありますね。

 私がお客様に言っているのは、エレクトロニクスや製造の分野だったら(業務コンサルティングを)できますと、私はセミナーで正直に言いました。だから自分たちのできないところは、そういう意味で(提携している)アクセンチュアと組みますと。できないことを言ったって仕方がないですからね。

 お客様がITを作ることから使いこなすという方に移っていけば、我々自身も今までのCIOやシステム部門を軸にしたやり方から脱皮しないといけない。

 経営者に対してはいま、ビジネスのパートナー、事業のパートナーというメッセージを出しています。SEも、作るということから使う、技術よりもむしろ経営、という視点を持たないといけない。お客様の経営とコンピュータ活用をつなぐ、CIOに対するアドバイザ、あるいはCEOに対するアドバイザ、そういう役割がもっと重要になると思っています。

 変えるのは大変です。それでもビジネスの領域に踏み込んでやっていく必要があります。総花的に自社だけで揃えるのではなく、他社と組んでやっていく必要があると考えます。

写真=吉田 明弘