「電子政府プロジェクトは、このままでは失敗する」――こんな見方をする官僚や関係者が増えている。政府はこの1年、全体最適を目指すシステム開発体制を整備してきた。出来上がった体制は一見立派だが、現場をみると問題が山積している。現場の実態と課題を明らかにし、対策を提言する。

(森側 真一、広岡 延隆)

図1●大改革に舵を切った電子政府
図2●全体最適に向かうための提言
 電子政府プロジェクトの体制が4月から大幅に変わった。企画段階から、政府の業務やシステム全体を考慮してシステムを作るようになったのだ。

 これまでの政府の開発プロジェクトはベンダーに企画・設計・開発を丸投げし、その場しのぎでシステム化を進めることが多かった。そんな状況を変えようと、2年前に政府はシステム開発体制を改革したが、調達の仕組みを変えたにすぎなかった。

 その結果、年6000億円もの予算をIT開発・保守・運用に計上している政府のシステムは、現在もコストや効果の面で問題を抱えているものが多く、混乱が続いている。電子入札や電子申請、自動車保有手続きのワンストップ化など、電子政府の目玉といえる開発プロジェクトでも、重複投資や目的を見失った開発が横行し、税金の無駄使いとの非難は免れることのできない状況にある。

 そこで政府は重い腰を上げた。それが4月のシステム開発体制の改革だ。この改革は、企画・設計段階というシステム開発の中核部分を対象にしており、開発体制を抜本的に変えることを狙っている。その手段としてEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)という米国政府が利用しているシステム構築の考え方を導入した。

 各省庁はEAを実行するためのIT専門家「CIO補佐官」を外部の人材を中心に登用、各省庁のCIO補佐官が集まって全体最適について議論する場も作った。システム開発の基準となるガイドラインを整備、全省庁はそれを基に開発しなければならないという規定も設けた。

 形は整ってきたが、早くも形骸化の兆しが見え始めている。政府は、業務やシステム全体の視点から俯瞰して行政業務を分析すべきところを、十分に検討しないまま見切り発車でシステム化計画を策定したため、今後、重複投資が続く可能性が強まっている。またデータ標準化にはほとんど手を着けていないので、さまざまなシステムを連携させることはかなり難しい。省庁を横断するプロジェクトを動かす仕組みもない。

 つまり、EA導入が紙の上の話にとどまっている。情報システムをうまく開発・活用するには、目的を明確にし、プロジェクトがその目的に向かって進むように現場の意欲を喚起する仕組みを作る必要がある。しかし、そのようなことを可能にする施策がまったくといってよいほどない。トップの指示もない。これでは組織が改革に向かって動かないのは当然だ。

 政府内部でも改革の中心にいる人ほど、「形だけの改革に終わりかねない」、「このままでは失敗する」と真情を吐露する。しかし、そんな声は巨大な官僚機構の中でかき消え、政府首脳や省庁トップは、現場の実態を理解できないままだ。

 これまでの電子政府の実態や改革への準備を照らし合わせた結果、全体最適を阻むものとして大きく三つの課題が見えてきた(図1[拡大表示])。第1は、技術的な課題。全体最適を進めるための具体策がない。第2は、組織的な課題。最適化を進める体制や判断基準が整っていない。第3は、人的問題。業務改革は現場の業務担当者が中心にならなければ進まないにもかかわらず、現状は現場の人の改革意欲を引き出せる体制とは言えない。このままでは、全体最適への推進力が不足した状態で、最適化計画が作られていくことになる。

 これら三つの課題に対し、EA手法や政府の活動を研究してきた有識者などから提言を得た(図2[拡大表示])。まず技術的な課題に対しては、「参照モデルの作成と、それを維持管理していくための専門スタッフの導入」が重要となる。次に、組織的な課題に対しては「予算要求プロセスと最適化計画の良しあしの判断をリンクさせる体制の確立」を進めるべきとする。最後に、人的問題に対しては、「CIO補佐官のスキル向上、ビジョンを描けるCIOの導入」が意見として挙がった。