松下電器産業は4月6日、今後3年かけて全社を挙げて実施するIT革新プロジェクトのなかで、「松下版EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)」を導入していく方針を正式発表した。グループ全体でシステムの全体最適を目指す。ビジネスの変化に即応できるシステムを確立する。

写真●松下電器産業の牧田孝衞IT革新本部 副本部長
写真=吉田 明弘

 松下が4月6日に発表したのは、2004年度から2006年度にかけて実施するプロジェクト「全社IT革新」の概要。最大の特徴は松下版EAともいえる「経営ITアーキテクチャ」を導入することだ。今後3年かけて、グループ内のシステムを見直し、情報システム基盤を整備する。これによりシステムの全体最適を図る。情報システム担当役員である牧田孝衞(たかえ)IT革新本部副本部長(写真)は、「体系的に情報基盤を再構築することで、ビジネスの変化に即座に適合可能なシステム環境を整備し、スピード経営を実現する」と意気込みを語る。国内の大手製造業でEA導入を正式に表明したのは松下が初めて。

 松下はEAの導入を通じて、グループ全体で共用できるシステムは、原則として全社で統一する。ネットワークやデータセンターといった「システム基盤」だけでなく、会計、調達といったグループ各社に共通する業務システムもそろえる(図1[拡大表示])。

 一方、グループを担当事業で分けた「事業ドメイン会社」でもシステムの統一を図る。システムを販売や物流といった各事業ドメイン会社に共通する部分(共通システム)と、それ以外(個別システム)に分け、各社の共通システムを順次統合していく。

 このほか松下は、EAの導入を機にグループ全体のシステム基盤を統一する。システム維持・運用費用の削減を目指す。「2006年度には、維持・運用コストを最低15%は削減したい」と牧田副本部長は見通しを語る。

システムに一貫性がない

図1●松下電器産業がEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)を導入する背景と将来像
図2●松下電器産業が2001年度から3年間実施してきたシステム関連プロジェクトの主な施策と成果

 松下は数年来、グループの再編を進め、昨年4月には14の事業ドメイン会社体制に移行した。今回の松下版EAの導入は、この経営体制の激変を受けての措置。本体の事業部やグループ会社の整理・統合によって生まれた各事業ドメイン会社のシステムは、過去に本社事業部やグループ会社が独自に構築したものなので、半ば“寄せ集め状態”になっている。「各事業ドメイン会社内でシステムに一貫性がなく、業務変化に対してシステムを柔軟に変更するのが難しくなっている」と牧田副本部長は指摘する。

 システムに一貫性がないのは、何も事業ドメイン会社のなかだけの現象ではない。松下グループ全体を見わたしても、従来は事業部やグループ会社の自主性を尊重していたため、「システムに一貫性がある」とは言いづらい状況だった。

 松下は状況の打破をEAに託す。「経営ITアーキテクチャを導入すれば、ある事業ドメイン会社のシステムで大きな成果が出るとわかったら、他の事業ドメイン会社に横展開しやすくなる」と情報企画グループの中村 亨IT革新総括推進リーダーは強調する。

ITの投資効果をできる限り引き出す

 EA導入と並行して、松下は今後3年間で、これまでのシステム投資を回収し、成果を最大限に引き出すことに全力を尽くす。そのために全社IT革新で進める個々のプロジェクトの管理体制を強化する。

 2001年度から2003年度にわたる中期経営計画「創生21計画」に沿って進めてきたシステム関連プロジェクトの成果を調べた。導入効果が当初の予想を下回ったシステムについては、新たに活用促進策などを講じる。

 併せて要件定義やシステム分析、設計といった上流工程を重視したプロジェクトマネジメント手法を導入する。プロジェクトの手戻りをなくし、ムダな投資を減らす。

 具体的には過去3年間進めてきたプロジェクトの効果を「コスト削減」、「リードタイム短縮」といった形で金額換算し、投資回収額を計算した。その結果を事業ドメイン会社や地域ごとに整理したところ、全体の52%のプロジェクトは、投資額に見合った成果が上がっていないことがわかった。

 牧田副本部長は「これまでの取り組みがすべてうまくいっているとは限らない」と率直に認める。そのうえで「開発するシステムが経営戦略と乖離(かいり)しないように、上流工程を重視したプロジェクトマネジメント手法を導入する。一連の取り組みでシステム投資の成果を最大限に引き出していく」と牧田副本部長は意気込みを語る。

過去のプロジェクトで着実に成果

 もちろん大きな成果を上げたプロジェクトも多い。松下は過去3年間で、SCM(サプライチェーン管理)やCRM(顧客関係管理)、商品開発支援といったIT導入の重点項目を定め、全社IT革新のプロジェクト全体で3年間に1153億円を投資し、836億円相当の成果が上がったという。

 この数字は、業務効率の改善、在庫の圧縮などにより削減できたコストなどを基に見積もった。なかには、サプライチェーン管理(SCM)システム(導入効果513億円)、間接業務の効率向上(同67億円)など、投資額を上回る成果を上げたものもある(図2[拡大表示])。

 「過去3年間を振り返ると、投資効果は1年遅れで表れている。来年(2005年)には、これまでのIT投資を回収できるだろう」と牧田副本部長は見通しを語る。

(西村 崇)