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 神戸製鋼所は2008年春までに、100億円強を投じて鉄鋼部門の基幹系システムを刷新する。第1弾として昨夏、社内の各拠点に分散しているデータを一つにまとめた「統合データベース」の一部を、12億円かけて構築した。その容量は1.5テラ・バイト。今後、対象となるデータを増やし、基幹系刷新が完了する2008年春までには、数テラ・バイトにのぼる鉄鋼部門全体のデータを、統合データベースで一元管理する計画だ。

図●アプリケーションごとにバラバラだったデータベースを統合した
 基幹系システムを刷新する目的は、事業拠点別や用途別にバラバラに開発してきたシステムを整理、統合すること(図[拡大表示])。1970年代から必要に応じて開発されたアプリケーションは、鉄鋼部門だけで86種類に達し、その規模は合計で5200万ステップに及ぶ。加えて問題となっていたのが、アプリケーションごとに構築を進めてきたデータベースの乱立である。

 その数は数百を数え、データが完全に分散してしまっていた。ユーザー・ニーズの変化などから、データの分散が業務に与える悪影響は、無視できないものになってきていた。さらに、既存のアプリケーションを開発・運用してきたベテラン技術者が相次いで定年退社することで、社内のノウハウが断絶することも、アプリケーションやデータベースの刷新の動機となった。いわゆる「2007年問題」への対応が迫られているわけだ。

 すでに、統合データベースを利用した営業系のアプリケーションが稼働しており、顧客対応の迅速化などを実現した。年間で、延べ1万時間以上の業務の効率化を見込んでいる。ただ、統合データベースの構築は、容易ではなかった。各データベース間の項目の整合性を取ったり、情報漏洩を防ぐためにアクセス権限を細かく設定したりしなければならなかったからだ。稼働直前には、想定したレスポンスが出ないというトラブルにも見舞われたが,無事乗り切った。

システムの乱立で業務に支障

 まず、データの分散が業務にどのような悪影響を与えていたかを説明しよう。

 同社 鉄鋼部門の基幹系システムは、大きく二つに分かれている。加古川製鉄所/神戸製鉄所/高砂製作所における生産系システムと、本社や東京支社における営業系システムである。さらに、薄板/厚板/棒鋼などの品種、受注管理や原価計算などの用途によってもアプリケーションが分かれているため、合計で86種類ものアプリケーションが乱立してしまった。それぞれが別々に開発されたため、データベースも個別に開発されていた(図上)。

写真●「100億円プロジェクト」のメンバー。前列中央左がコベルコシステムの楠本氏、前列中央右が神戸製鋼所の清水氏。
 データ分散による弊害の一つが、自動車会社や造船会社といった大口顧客に対する納期回答の遅延である。「ジャスト・イン・タイム生産方式が普及するなかで、素早い納期回答へのニーズは高まる一方。その遅れは、顧客からの信頼を揺るがしかねない。にもかかわらず、顧客からの問い合わせに対する回答が丸1日かかることもあった」(鉄鋼部門 技術総括部 担当部長 システムグループ長の清水孝之氏=写真)。生産系システムと営業系システムが完全に分かれていたために営業担当者が生産ラインの状況を確認できず、製鉄所に電話や電子メールで状況を問い合わせる必要があったからだ。製鉄所側の担当者が外出中だと、次の日にならないと状況が把握できないこともあった。

 時には、顧客に渡す「ミルシート(品質保証書)」と呼ばれる書類の内容を間違えるトラブルも発生した。鋼材は製造ロットによって成分が微妙に異なり、硬度や強度もそのつど変わってくる。自動車工場などではミルシートに合わせて加工機械を微調整する必要があるが、その内容が不正確だと部品の製造不良につながりかねない。ミルシートは複数のデータベースからデータを集めて作成するが、データベースによって数値の小数点以下の桁数が異なり、それを合わせる部分でミスが起きることがあった。

 そうしたミスが起こりがちになった背景には、顧客からのデータ開示要求の内容が年々厳しくなってきたという事情がある。品質管理の強化のため、「受け取った鋼材の成分をロットごとに時系列で見たい」といった複雑な要求をする顧客が増えてきた。こうした場合、ベテラン技術者が記憶を頼りにデータの在りかを探り出し、何日もかかって集計プログラムを組んでレポートを作成していた。

 いわゆる2007年問題で、ベテラン技術者が退職すると、記憶を頼りにデータの在りかを探すことも難しくなる。といって、30年にわたって機能追加などの保守を積み重ねてきたアプリケーションに関する完全なドキュメントが残っているわけではなく、アプリケーション相互の依存関係も不明確になっていた。「定年に達した社員を継続雇用することでなんとかノウハウを維持しているのが現状だ。2007年問題は、今ここで起こっている」(清水氏)状態である。データやアプリケーションの整理統合は急務だった。