業務の言葉でシステムを運用
米IBM オートノミック・コンピューティング担当のアラン・ガネック バイス・プレジデントは、「ユーザーがビジネスの言葉で運用ポリシーをシステムに指示すれば、それに従いシステムが動くということを目指している」と語る。ユーザーは「生産管理システムは稼働率99%を確保してほしい」と指示すれば、管理ソフトが自律的に関係システムを制御して、ユーザーの指示を実現するわけだ。
「ユーザーが関心をもつのは、サーバーが動いているかではなく、サービスが動いているかどうかだ」。東芝ソリューションの望月参事が言うように、オートノミックが実現すればユーザーはトラブルの原因はもちろん、気づかない間に復旧していればトラブルが起こったことすら知る必要がなくなる。
ただオートノミックも、進化するにはグリッドと同じく標準化が課題になる。オートノミックは、監視や分析、計画、実行といった機能が寄せ集まって初めて実現できるもので、それぞれ必要な標準化技術は異なる。監視の機能一つとっても、サーバーのほかネットワーク機器、ストレージなどシステムにつながるすべてのハードウエアで、動作状況を報告する信号のインタフェースを統一しなければならない注1-6)。
注1-6) 例えば東芝ソリューションは同社製クラスタ・ソフトをIBMのブレード・サーバーで自律的に動かす研究に、IBMと共同で取り組んでいる。具体的には、東芝ソリューションの「ClusterPerfect EX」とIBMのIAサーバー用システム管理ソフト「IBM Director」を連携させて、自律機能の強化を図るものだ。こうしたソフトとハードの関係がメーカーや機種に依存しない形になれば、2010年のサーバー仮想化に手が届く。
信頼性確保や課金体系も課題
ほかにも技術的な課題はある。例えば、仮想サーバーで動く100個のシステムでピークが偶然重なっても、はたして大丈夫か。「ユーティリティ産業を名乗るからには、ピーク時の最大使用量を視野に入れて設備投資をしなければならない。しかし、システム全体の信頼性と採算の両方を確保するのはそう簡単ではない」。電気・ガスといった“元祖”ユーティリティ事業に詳しい関係者は、こう打ち明ける。
ソフトの課金体系も大幅な見直しが必要だ。サーバーの仮想化に合わせて、従来のサーバー単位、プロセサ単位といったハード依存型の料金体系を変えていかなければならない。
ブレード・サーバーで拡張性を備えたITインフラの構築を手がけるUFJグループは、「いくらブレード・サーバーで素早くサーバーを追加できる環境を作っても、サーバーで動くソフトウエアのライセンスがサーバー単位だと、ライセンスを追加購入するたびに社内で決裁が必要になる」(ユーフィットの千貫素成(もとなり)オープンプラットホーム部ASP事業グループ調査役)と、ソフトの料金体系に不満をもらす。UFJの課題は、どの企業もユーティリティ時代にいずれ直面するであろう。
それでもレガシー・アプリは残る
Part1の最後として、ユーティリティ・コンピューティングの時代ではアプリケーションの姿がどうなるかも展望しておこう。
本誌の予想では、自社開発した業務アプリケーションは2010年もそのまま残る。そうしたアプリケーションは、動作プラットフォームだけを仮想サーバーに移し替えて動かすことになる。
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図1-5●業務アプリケーションはインフラの進化に合わせて3極化していく ハードに比べると、変化のスピードは緩やかになる |
一方で、インフラの進化に合わせて形を変えるアプリケーションが出てくる(図1-5[拡大表示])。メール・システムや会計システムなど各社で機能に大差ないものは、異なる企業による共同利用が主流になる。パッケージ製品を使ったシステムも、ある程度の集約が進むとみられる。共通のコア機能を実現するエンジン部分を統合し、カスタマイズしたモジュールをその周辺に配置する格好だ。米IBMのロバート・スーター マーケティング・ディレクタは、「Webサービスの進化もアプリケーションのあり方に影響を与える」と話す(WebサービスについてはPart2を参照)。
インフラ技術に比べて、アプリケーションの進化はそれほど大きくないというのが大方の予想だ。ガートナー ジャパンの栗原潔リサーチ・ディレクターは、「企業の業務の仕組みをはじめ人間の行動にかかわるものは、時間がたっても思ったほど変わらない。アプリケーションがまさにこれ。ハードとはまったく逆だ」と話す。
来るべきユーティリティ・コンピューティングの時代に備えて、ユーザー企業はできることから取りかかるべきだろう。米IBMのガネック氏は、「まず既存システムの把握から始めるのが得策」と話す。社内システムの把握や更新計画の整理といった、いわゆるEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の取り組みが有効というわけだ注1-7)。
注1-7) 2003年9月8日号44ページの特集「EA大全、企業情報システムの救世主」を参照。