●通信サービスを利用する際のアクセス回線の選択肢として「FWA(加入者系無線アクセス・システム)」が急浮上している。
●FWAは無線を使って高速にデータを伝送する。光ファイバなどの有線に比べて導入が短期間ですみ,通信コストも割安だ。
●FWAの導入により,光ファイバを利用する場合に比べ,年間で約140万円安くネットワークを高速化した企業も出ている。

図1●今回取り上げる「FWA」の位置づけ。加入者系無線アクセス・システムと呼ばれ,ユーザー企業と通信事業者の間を無線で接続する。ユーザー側のビル内に光ファイバを引き込む場合に比べて,短期間で導入できる。さらに月額利用料金も割安である
 「FWA(加入者系無線アクセス・システム)」と呼ばれる新しい通信技術の導入機運が高まってきた。FWAは,無線を利用して高速にデータを伝送する技術である。比較的距離が短く見通しの良い区間で,屋外アンテナを対向させてデータをやり取りする。主に,通信事業者が提供するフレーム・リレー・サービスやインターネット接続サービスを利用する際の,新しいアクセス手段として期待されている(図1[拡大表示])。

 従来,これらの通信サービスを企業が利用する場合は,通信事業者側のアクセス・ポイントとユーザー側の拠点を結ぶ回線(アクセス回線)として,光ファイバなどの有線を使うのが一般的だった。しかし,有線のアクセス回線は導入に時間がかかることが多く,特に光ファイバの場合はコストも高い。

 FWAはこうした有線の利用に伴う問題を解消する。通信事業者の基地局とユーザー企業のビルの間を無線で結ぶので,光ファイバを引き込む場合に比べて導入期間が短くてすむ。光ファイバの敷設には通常3カ月以上かかるが,FWAの導入期間は平均で約1カ月。回線の速度を上げる場合も,無線機器の設定を変えるだけでよい。

 さらに,月額の利用料金も割安だ。1.5Mビット/秒の料金を比べると,光ファイバによる専用線が15万~30万円程度かかるのに対し,FWAは約12万円から利用できる。ただし,サービスの提供地域や伝送距離には制限がある(次ページの別掲記事を参照)。

 最近になってFWAを商用サービスとして提供する事業者も増えてきた。すでに日本テレコムやKDDウィンスター(東京都中央区),MCIワールドコム・ジャパン(東京都千代田区)などが1999年からFWAサービスを提供している。さらに今年3月にはNTTコミュニケーションズ(東京都千代田区)がFWAサービスを開始した。また,ソニーは7月に,クロスウェイブ コミュニケーションズ(東京都千代田区)は8月にサービスを始める予定だ。

光ファイバより年間140万円安い

図2●日本アジア投資の新旧ネットワーク。FWAの導入により,同じ速度の光ファイバ回線を利用する場合に比べ全体で年間約140万円安くなるという
 FWAサービスを効果的に利用するユーザー企業も登場している。例えば,ベンチャ・キャピタルの日本アジア投資(JAIC,東京都千代田区)は今年1月にFWAサービスを導入し,アクセス回線の高速化を低コストで実現した。

 JAICは東京の本社と全国6カ所の支店をフレーム・リレー網で結んでいる。以前は日本テレコムのフレーム・リレー・サービスを利用し,そのアクセス回線としてNTTの専用線を拠点ごとに引いていた。専用線の速度は本社が192kビット/秒,各支店が64kビット/秒だった。

 新しいネットワークでは,本社からフレーム・リレー網へのアクセス回線をFWAに切り替え,同時に通信速度を約8倍の1.5Mビット/秒に高めた(次ページの図2[拡大表示])。KDDウィンスターのFWAサービスを導入したことに伴い,利用するフレーム・リレー・サービスは,KDDウィンスターの親会社であるKDDのサービスに変更した。各支店のアクセス回線についてはNTTの専用線のままだが,通信速度は2倍の128kビット/秒にした。

 JAICによれば,FWAを導入することにより,「同じ1.5Mビット/秒の光ファイバ回線を利用する場合に比べ,全体の通信コストは年間で約140万円安くなる」(渡邉干城管理本部総務部総務課長)。新ネットワークの通信コストは年間690万円という。

無線でも通信品質に問題なし

図3●東海インターナショナル証券のネットワーク構成。既存のNTT専用線に加えて,FWAを導入することにより,インターネットとの接続を有線と無線で2重化した
 JAICがFWAサービスを導入した主な理由は,本社と支店の間でやり取りするデータ量がここ1~2年で急増したことである。JAICは社内のサーバー類を本社に置いて集中管理している。ところが,投資情報システムや経理システムといった新たな基幹系システムを稼働させたり,本社のLANをインターネットと接続したりしたことで,本社-支店間のトラフィックが増大。結果として,本社側のアクセス回線が混雑するようになった。

 そこでJAICは1999年夏から秋にかけてアクセス回線の高速化を検討。複数の通信事業者から提案を受け,最終的には料金の安さが決め手となって,KDDウィンスターのFWAサービスを採用することにした。

 FWAは無線を使う通信技術であることから,光ファイバなどの有線に比べて品質面には不安がつきまとう。しかし,JAICで社内システムを担当する西尾紀央社長室主任は,「無線に対する抵抗や不安はなかった」と語る。JAICが利用しているKDDウィンスターのサービスでは,基地局からユーザー側のビルまでの距離が2km以内ならば,「光ファイバと同等の通信品質を保証している」(KDDウィンスターの小田切育子東京支店長)。実際,JAICがFWAを導入して以来,「無線に関するトラブルはゼロ。品質にまったく問題はない」(西尾主任)という。

インターネット接続を2重化

 JAICのようにフレーム・リレー・サービスのアクセス回線にFWAを使う企業がある一方で,インターネットへのアクセスにFWAを使う企業もある。東海銀行系の証券会社,東海インターナショナル証券(名古屋市)がその1社である。

 同社は1999年12月に,東京支店のインターネット接続回線としてFWAを導入した(図3[拡大表示])。従来はNTTの光ファイバの専用線(1.5Mビット/秒)を使っていたが,これに加えてFWAの回線(1.5Mビット/秒)を併用することで,インターネットとの接続を有線と無線で2重化した。2本のアクセス回線は,混雑の度合いなどに応じて使い分ける。具体的には,ルーター(シスコシステムズ製)の機能を利用して,混雑の少ない回線のほうにトラフィックを振り分ける仕組みだ。

 FWAを導入するきっかけとなったのは,西暦2000年問題のコンティンジェンシー・プラン(危機管理計画)の一環として,インターネットとの接続を2重化する必要が生じたことだ。同社は東京支店内に外部向けのWebサーバーを設置し,1999年4月から有料のWebサイト「TISフォーラム」を運営している。これは,会員に対して金融マーケットの価格情報やニュースをリアルタイムで提供するサービスである。東海インターナショナル証券で社内システムを担当する小泉裕企画部東京企画グループ課長は,「社内のシステムの2000年問題対応には自信があったが,お客様にいっそう安心してもらうために,インターネットとの接続も2重化することにした」と語る。

光ファイバの新設に業者が難色

 実は,アクセス回線を2重化するにあたって,東海インターナショナル証券は当初からFWAの採用を決めていたわけではない。基本的には,既存のNTT専用線とは違う事業者,または違う方式の回線であればよいと考えた。実際,同社はNTT以外のある通信事業者に光ファイバの敷設を相談した。ところが,「営業担当者から『新規敷設のための道路掘削工事に4000万円かかる。テナント・ビル内の1社のユーザーのためにそこまでやるのは難しい』と言われ,断念した」(小泉課長)。

 こうして検討を重ねるうちに,同社はKDDコミュニケーションズ(KCOM,東京都千代田区)の担当者からFWAサービスの紹介を受けた。KCOMは,東海インターナショナル証券が利用しているインターネット・サービス・プロバイダである。KCOMの担当者は,同じKDD系のKDDウィンスターのFWAサービスを勧めてきた。小泉課長は実際にKDDウィンスターの提案を検討した結果,「光ファイバに比べ導入に時間やコストがかからないし,技術的にも問題がなさそうだと考え,即座に導入を決めた」。昨年11月のことである。

 FWAの導入作業は1カ月足らずで完了し,2000年を迎える前に無事にアクセス回線を2重化できた。導入が短期間ですんだのは,ビルの屋上にFWAのアンテナを設置することに関して,「ビルのオーナーからすぐに許可を得られたことが大きい」(小泉課長)。というのは,テナント・ビル内にある企業の場合,「FWAサービスを利用したくても,ビルのオーナーからアンテナ設置の許可がなかなか下りずに困ることがある」(KDDウィンスターの小柳琢磨副社長)からだ。

 導入後も,FWAの運用は順調という。通信の品質については,「無線を使っていることをまったく意識しないほどだ」(小泉課長)。セキュリティに関しても,「無線にはスクランブルがかかっているし,ビルの屋上は普段は立ち入り禁止なので屋外アンテナにいたずらされる心配もない」(同)。

 同社は今後,名古屋市の本店にもFWAサービスを導入し,本店-東京支店間の社内ネットワークのアクセス回線としてもFWAを活用する考えだ。小泉課長は「FWAサービスはすぐに導入効果が出るのが魅力」と高く評価している。

(戸川 尚樹)

FWA(加入者系無線アクセス・システム)とは

 FWA(加入者系無線アクセス・システム)は,準ミリ波(22GHz,26 GHz帯)やミリ波(38GHz帯)の無線を使い,高速なデータ伝送を実現する技術またはシステムの総称である。光ファイバやメタル線,同軸ケーブルなどの有線と並ぶ,アクセス回線の新しい手段として位置づけられる。アクセス回線とは,フレーム・リレー・サービスやインターネット接続サービスといった各種のネットワーク・サービスを利用する際に必要な,通信事業者とユーザーの拠点を直接結ぶ回線である。

 郵政省が1998年末に商用のFWAサービスを解禁して以来,現在までに約10社の通信事業者がFWAサービスを提供している。ユーザー企業は,専用の屋外アンテナと通信機器をそれぞれビルの屋上と屋内に設置するだけで利用できる(図A[拡大表示])。

図A●FWAサービスの概要。ユーザー企業は専用の屋外アンテナと屋内通信機器を設置するだけで,サービスを利用できる
 FWAには二つの方式がある。2地点間を1対1で接続するP-P(ポイント・ツー・ポイント)方式と,一つの基地局と複数のユーザーを1対多で接続するP-MP(ポイント・ツー・マルチポイント)方式である。P-P方式は最大で約155Mビット/秒の伝送が可能であり,主に企業向けの高速なアクセス回線に利用される。

 一方のP-MP方式は,SOHO(スモール・オフィス・ホーム・オフィス)や個人のユーザーがインターネット接続などのサービスにアクセスする用途に向く。P-MP方式の場合は一つの基地局で数百のユーザーとの通信が可能だが,伝送速度は最大で10 Mビット/秒程度にとどまる。

 FWAサービスの料金例を挙げると,KDDウィンスターの場合で回線接続工事の費用が1500円(ほかに設備工事が実費),1.5Mビット/秒の回線(P-P方式)の利用料金が月額11万8000円(アンテナ使用料を含む)である。同じ1.5Mビット/秒の専用線の利用料金は,通信事業者によって異なるが,通常は月額約30万円,エコノミー・タイプでも月額約15万円以上かかる(いずれも距離15km以内の場合)。

 FWAの難点はサービスの提供エリアである。各社は基地局の増設に懸命だが,現状でFWAサービスを利用できる地域は東京や大阪などの主要都市に限られる。しかもユーザー側の拠点が基地局から一定の範囲内にあり(P-P方式で約4km以内,P-MP方式で約1km以内),対向させるアンテナの間に障害物のないことが条件となる。

 距離が限定されるのは,通信の品質維持のためである。ただし実際には「約5kmまでなら,光ファイバとそん色ない品質が得られる」(KDDウィンスターの小柳琢磨副社長)。KDDウィンスターは,2km以内の場合については光ファイバと同等の品質を保証している。