●最大1Gビット/秒の伝送速度を持つ「ギガビット・イーサネット」が,企業内LANの基幹部分に浸透し始めている。●ギガビット・イーサネットは従来のイーサネットを高速化したもので,導入にあたって特別な技術を新たに習得する必要がない。●広大な敷地を持つ工場の基幹LANを,全面的にギガビット・イーサネットに切り替えた事例も出ている。

図1●今回取り上げる「ギガビット・イーサネット」の位置づけ。企業内LANのバックボーンでの利用に適している。標準規格が決まり,機器の価格も低下している。VLAN(バーチャルLAN)を併用することで,設定変更などの負荷も低減できる
 企業内LANの構築に「ギガビット・イーサネット」を利用する例が増えてきた。ギガビット・イーサネットは,従来のイーサネットの伝送速度を最大1Gビット/秒に高速化したものである。主に企業内LANの基幹部分(バックボーン)での利用に適している(図1[拡大表示])。IEEE(米国電気電子技術者協会)で1998年6月に標準規格が決まり,最近はスイッチなどの対応機器も低価格化している。

 ギガビット・イーサネットの標準が決まる以前,LANの基幹部分を高速化する手法としては,ATM(非同期転送モード)の利用が有力と見られていた。実際,企業や大学などがATMで基幹LANを構築する例も出ていた。しかしATM用の機器は価格が高いうえ,従来のイーサネットとは方式が異なるために,ネットワーク担当者がATM機器の管理技術を新たに習得する必要があった。

 これに比べてギガビット・イーサネットは,パソコンやサーバーで普段利用しているイーサネットと基本的に同じ方式であるため,導入にあたって特別な技術を習得する必要がない。ATMと比較したときのイーサネットの欠点として,帯域管理ができない点が指摘されていたが,現実には企業内でギガビット級のバックボーンが混雑することは少ない。加えて,最近はギガビット・イーサネットのスイッチでも,データの種類やユーザーに応じて帯域を制御できるQoS(クオリティ・オブ・サービス)の機能を持つ製品が増えてきた(次ページの「ギガビット・イーサネットとは」を参照)。

 さらに,ギガビット・イーサネットのスイッチは,ほとんどがVLAN(バーチャルLAN)の機能を備える。VLANは物理的なLAN構成とは関係なく,端末を仮想的にグループ化する機能である。この機能を利用すれば,LAN全体の管理負荷を削減できる。例えば,人事異動や組織変更の際に,ネットワークの配線自体を変えずにグループの設定を変更できる。

 ギガビット・イーサネットは伝送媒体によっていくつか種類がある。このうち光ファイバを媒体として利用する場合は伝送距離を最大5kmまで延長できる。工場や大学など広大な敷地に点在する建物を結ぶLANに向いている。実際にギガビット・イーサネットを使って大規模な基幹LANを構築した企業も登場している。

ギガビット・イーサネットに全面刷新

 京セラは1999年11月に,鹿児島県国分市の国分工場の基幹LANをギガビット・イーサネットに全面刷新した(170ページの図2[拡大表示])。国分工場は電子部品や自動車部品などを主に生産する,京セラの中でも最大の工場である。東京ドーム6個分の28万6000平方メートルの敷地内に33棟の建物があり,約5000人の従業員が働いている。

図2●京セラがギガビット・イーサネットを使って国分工場内に構築したネットワークの構成。旧ネットワークは建物間を複数の銅線ケーブルで接続しており,雷の影響によるトラブルが発生することがあった。新しいネットワークでは建物間を光ケーブルのギガビット・イーサネットで接続することで雷の影響を避ける。さらにVLAN(バーチャルLAN)を設定し,同じ部門に属するユーザーが複数の建物に分かれてもケーブルの増設を不要にした
 国分工場の新しいネットワークは,シスコシステムズ(東京都千代田区)の大型ギガビット・イーサネット・スイッチ「Catalyst 6000」2台を中心とし,主要な建物に8台の部門スイッチ「Catalyst 2900」を置いて構成している。これらのスイッチ間はすべて光ファイバを使ったギガビット・イーサネットである。基幹スイッチと各部門スイッチの間はそれぞれ2本のケーブルで接続して,冗長性を高めている。

 それまで国分工場では,100Mビット/秒のファスト・イーサネットと約30台のルーターを使ってLANを構築し,工場内の生産管理システムや電子メール・システム,イントラネットなどのインフラに利用していた。しかし,運用管理と安定稼働の面に問題があった。また,メールやグループウエアのトラフィックが増えてきたことから,LANをさらに高速化する必要にも迫られていた。

 まず運用管理面では,人事異動のたびにネットワークの設定変更に手間とコストがかかるという問題があった。京セラは「アメーバ経営」と呼ぶ独自の経営方針を持っており,常に組織をアメーバのように柔軟に変化させている。「製品の増産,減産に応じて生産ラインと組織は頻繁に変わる。人事異動は毎月のようにある」(京セラの脇元親嗣 鹿児島国分工場長)。

 特に最近は,製品のライフ・サイクルが短くなっている。「以前は3年程度同じ製品を作っていたこともあったが,今では1年間同じ製品を作り続けて利益が出ることは少なくなった」(同)。また部署の統廃合も多く,「三つの部署が一緒になって新しい一つの部署になったり,ある部署が二つに分かれることが頻繁にある」(同)。このため人事異動に伴うネットワークの設定変更も毎月のように必要になった。

建物間のケーブルに落雷の影響

 ネットワークの設定変更で特に問題だったのは,同じ部門に所属するユーザーが別々の建物にいる場合である。従来のネットワークでは,同じ部門のユーザーは同じルーターに接続する必要があった。このため,建物間のケーブルをルーター接続用に増設したり,ケーブル中継用の機器(トランシーバ)を入れて対応していた。この作業は費用もかさんだ。「隣接する建物の間にケーブルを張る場合は数十万円もしないが,建物が離れている場合は数百万円かかった」(米山誠経営推進室情報システム技術部副部長)。こうした作業が人事異動のたびに繰り返され,結果として建物間を何本ものLANのケーブルが横断する状態になった。

 こうしたケーブルの敷設は,安定稼働の面での問題を招いた。国分工場は鹿児島という土地柄,台風が多い。建物間に張ったケーブルが落雷や風水害の影響を受けて,LANにトラブルが発生することが何度もあった。ファスト・イーサネットのケーブルには銅線を使い,しかも建物間では空中を“裸”で通していたからだ。「ケーブルに直接雷が落ちたり,近くに落ちた雷のサージ電流の影響でトランシーバが故障することもあった」(京セラ国分工場のネットワーク管理を担当する京セラコミュニケーションシステム=KCCS,京都市=国分事業所本社システムサービス事業部国分システムサービス課の長野伸幸氏)。

 そこで新しいギガビット・イーサネットのネットワークでは,基幹部分のケーブルを光ファイバに変えた。さらに建物間を結ぶ光ケーブルはすべて金属製のパイプの中に収容し,サージ電流に対する万全の対策をとった。

バーチャルLANで運用負荷を軽減

写真1●本館内に設置した基幹LANのギガビット・イーサネット・スイッチ
 人事異動に伴う設定変更の負荷については,ギガビット・イーサネット・スイッチが持つVLANの機能を使って軽減を図ることにした。従来のネットワークではケーブルの増設だけでなくルーターの設定変更も必要であり,これは同社内で「職人的な作業」とも言われるほど複雑な作業だった。

 新ネットワークでは,IP(インターネット・プロトコル)を使うVLANを事業本部単位で12個設定した。この設定にあたっては,組織の変化に伴う設定変更ができるだけ少なく(多くても年間2回程度),かつVLAN内のトラフィックが混雑しないようにバランスを考えて,各VLANの大きさを決めた。

 VLANの利用でケーブルの増設や設定変更の手間が減ることにより,京セラは年間4000万円程度のコストを削減できると見ている。ギガビット・イーサネットLANの導入には,機器の購入と光ケーブル設置工事,設定作業の費用を合わせて1億5000万円かかったが,4年程度で回収できる見込みである。

事前の検証を徹底し,移行に成功

 今回の基幹LANの刷新で京セラが最も注意を払ったのは,既存のネットワークを止めずに移行を完了させることだった。新旧のネットワークを同時に稼働させて移行するのは,同社にとって初めての経験。実は,京セラは1998年8月の本社社屋移転の際に,ギガビット・イーサネットによるLANを京都市の新本社で稼働させている。しかしこのときは,新しい社屋に新しいLANを設置したもので,国分工場のケースとは異なる。

 京セラは国分工場での移行作業を成功させるため,特に事前の検証を徹底した。「約1カ月間かけて,新旧のネットワークが併存した場合でも問題なく動作することを確認した」(KCCSの長野氏)。今回のネットワーク構築は主にKCCSが担当し,日立製作所と日立インフォメーションテクノロジー(東京都港区)が技術面のサポートを,古河電気工業と南電工(鹿児島市)が光ファイバ敷設をそれぞれ担当した。

 実際の移行作業は週末など工場が休みになる合計7日間を使って進めた。各部門ごとに,クライアント・パソコンのIPアドレスを新しいネットワークのものに変更し,ギガビット・イーサネット・スイッチ(写真1[拡大表示])の設定も合わせて順次変更していった。

 新しいギガビット・イーサネットLANは,その高速性から負荷率が極めて低く抑えられている。バックボーン部分で平均の負荷率は数%,部門LAN部分でも平均で10%前後だという。「時間帯に関係なくネットワークの速度が落ちないことが体感できる」(京セラ鹿児島国分工場の大塚昭一経営管理部経営管理2課電算管理責任者)。国分工場では,高速なバックボーンを生かしたアプリケーションとして,イントラネットで動画を配信することも検討している。

 京セラ全体では,今後も大規模な工場について基幹LANの再構築を進めていくという。その基本方針として「特に運用管理面を重視し,ATMではなく必ずギガビット・イーサネットを採用することを決めている」(米山副部長)。

(坂口 裕一)


ギガビット・イーサネットとは

 ギガビット・イーサネットは伝送速度が1Gビット/秒のイーサネットである。規格は4種類あり,伝送媒体に光ファイバを使うものとしては,波長1300nmの光を通す「1000BASE-LX」と,850nmの光を通す「1000 BASE-SX」の二つがある(表A[拡大表示])。ほかに,平衡型ケーブルを使う「1000 BASE-CX」と,非シールドより対線を使う「1000BASE-T」が標準化されている。基幹部分のネットワークを構成する場合は,伝送距離を伸ばすことができる光ファイバを利用するのが一般的だ。

表A●イーサネットの主な方式と仕様。各方式はいずれもIEEE802.3委員会で標準化されている(10GBASE-Xは現在,標準化の作業中)
 ギガビット・イーサネットのLANは通常,スイッチを使って構築する。ギガビット・イーサネット対応のスイッチは,シスコシステムズ(東京都千代田区)やスリーコム ジャパン(東京都文京区)などベンダー各社が多数の製品を販売している。大きく分けると,(1)ギガビット・イーサネットのインタフェースを複数持ち,ネットワークの基幹部分に配置するのに向く製品と,(2)ギガビット・イーサネットと100Mビット/秒の両方のインタフェースを持ち,各部門に配置するのに向く製品がある。価格は,(2)のタイプでスリーコム製の場合,60万円程度からである。

 多くのギガビット・イーサネット・スイッチ製品は,IPパケットをハードウエアで交換する方式をとり,処理速度を高めている。また,VLAN(バーチャルLAN)の設定機能や,スイッチ間を複数のケーブルで接続して冗長性や通信速度を高める機能を持つ製品が多い。

 最近のスイッチ製品で話題になっているのは,通信品質を意味するQoS(クオリティ・オブ・サービス)の制御機能である。音声や動画データなど伝送時に遅延が発生すると影響が大きいデータをスイッチが自動的に認識し,ネットワークが混雑した場合でも一定の帯域を確保して優先的にデータを送受信させることができる。シスコはこうした帯域制御を専用サーバーで一括管理する仕組みも提供している。これを利用すると,スイッチごとに設定をする必要がなく,時間帯などに応じて動的に設定を変更することもできる。