●企業ネットワークの混雑を抑制し,通信の品質を保つための技術として,「帯域制御」が注目されている。●帯域制御は,個々の通信に対して適切な帯域を割り当てたり,優先順位を決めて送受信する技術である。●実際に帯域制御用の装置を導入して,遅延の影響を受けやすい音声通話やホストー端末間通信の品質を維持する企業も増えている。

図1●今回取り上げる「帯域制御」の位置づけ。通信速度の遅いWAN部分に適用することで効果を発揮する。音声や動画など遅延に弱いデータを優先して確実に送受信できるので,通信品質が向上する。既存の回線を有効に活用できれば,新たに回線速度を上げる必要もなくなり,コスト削減にも貢献する
 LANに比べて通信速度の遅いWANでは,回線が混雑したときにさまざまな問題が発生する。例えば,処理要求に対する応答が遅くなったり,場合によっては通信が途切れてしまうこともある。特に,音声や動画の伝送,ホスト―端末間の通信は遅延の影響を受けやすく,同じ回線上で大量のファイル転送などが同時に行われると,正常な通信ができなくなる。

 こうした問題を解決する手段として「帯域制御」が注目されている(図1[拡大表示])。通信の種類に応じて適切な帯域を割り当てたり,優先順位を付けることで,通信の品質を保つ技術である。既存の回線を利用して,実質的に通信のスループットを高めることができるので,回線速度を増やす必要がなくコスト削減にもつながる。

レスポンス低下がきっかけに

 帯域制御を行うには,LANからWANへの出口に専用の装置を設置したり,ルーターの持つ機能を使う。実際に帯域制御装置を導入して効果を上げている企業に日本無線がある。

 日本無線は社内のWANでホスト-端末間通信を優先するために,米パケッティアの帯域制御装置「PacketShaper」を1999年初めに導入した(226ページの図2[拡大表示])。同社のWANは,東京・赤坂の本社と三鷹製作所を結ぶ専用線,および全国の支社や営業所と三鷹製作所を結ぶフレーム・リレー網などで構成されている。このうち帯域制御装置は,三鷹製作所と主な支社の計4カ所に設置した。

図2●日本無線のWANのネットワーク構成。三鷹製作所や全国の主な支社に帯域制御装置「PacketShaper」を設置した。ホスト用プロトコルや独自のメール・システムの通信を優先して通すようにしている
 帯域制御装置を入れたのは,社内のトラフィック(通信量)の増加によって,ホスト-端末間通信のレスポンスが低下する現象が生じていたからである。ホスト・コンピュータは三鷹製作所にあるが,同製作所には多数のサーバー類も置かれている。特に最近は本社のクライアント・パソコン(約400台)と三鷹製作所のサーバーの間のトラフィックが急増し,これが同拠点間のホスト―端末間通信に悪影響を与えるようになっていた。

 日本無線の加藤義浩三鷹製作所情報処理センター主任は,「本社側の営業を強化するため,三鷹製作所にいた技術者が本社へ異動になるケースが増えた。この技術者たちが本社から三鷹製作所のファイル・サーバーに頻繁にアクセスしている」と説明する。

 本社と三鷹製作所を結ぶ専用線の速度は1.5Mビット/秒。このうち多くの帯域は,TDM(時分割多重装置)で内線電話用に固定的に割り当てている。残りのデータ通信用の帯域は384kビット/秒である。この限られた帯域の中で,オフィス・ソフトなどのファイルへのアクセスが多くなっていた。「回線の利用状況を調べたところ,わずか2~3人のユーザーがファイルにアクセスしただけで,データ通信用の帯域がほとんど埋まってしまう場合もあることが分かった」(加藤主任)。

 しかし,帯域が圧迫されているからと言って,専用線の回線速度を単純に増やすわけにもいかなかった。「専用線を高速なものに変えると,手間もコストもかかる」(同)。そこで同社は,既存の回線をそのままに,データ通信用の帯域を適切に制御することで問題の解決を図った。

ホスト-端末間通信を最優先

図3●宝印刷が整備したWANのネットワーク構成。主な支店や営業所,印刷工場に帯域制御装置「PacketShaper」を導入し,電話用の音声帯域とパソコン用のデータ帯域を分けて管理することで,遅延の発生を回避している
 日本無線が導入した帯域制御装置は合計で8段階の優先順位を設定できる。同社はこのうち4段階を使用している。最も優先順位を高くしたのは,ホスト-端末間通信(ホスト用プロトコル)である。懸案だったレスポンスの低下を解消するのが狙いだ。

 次に,機器やネットワークの管理に使うTelnet,SNMP(シンプル・ネットワーク・マネジメント・プロトコル)といったプロトコルと,独自開発の社内メール・システムの通信を,一括して第2レベルに設定した。

 メール・システムの通信を比較的上位に設定するのは珍しい。だが,「当社の独自メール・システムは,クライアントとサーバーの間で画面データとキー操作の情報だけが流れる仕組み。このためWANに流れるデータ量は少ないので,優先順位を上げても問題はない」(加藤主任)。

 第3のレベルには,ファイル・アクセスやWebブラウザによるコンテンツ閲覧など,一般的なIP(インターネット・プロトコル)のアプリケーションを設定した。

 そして,ファイルの転送に使うFTP(ファイル転送プロトコル)と,メールの読み出し用プロトコルのPOP(ポスト・オフィス・プロトコル)は最低の順位に設定した。日本無線では,一部の部門が独自メール・システムではなくPOPサーバーを利用している。POPはサーバーからクライアントにメールのデータをダウンロードする仕組みであるため,帯域を圧迫する可能性が高いと見て最低順位にした。

 帯域制御装置の導入によって,日本無線は既存の回線を最大限に有効利用できるようになった。帯域制御をしない場合は,回線の利用率が50%を超えるとコリジョン(データ信号の衝突)が多発し通信に支障が生じる。しかし,同社は帯域制御装置の導入後,100%近い利用率でも問題なくネットワークが動作しているという。

音声/データ統合で帯域制御を導入

 最近は,通信回線のプロトコルをIPに一本化し,その上で音声とデータの伝送を統合する企業も出始めている。この場合,音声の品質を確保するために,回線上の帯域制御は不可欠となる。

 宝印刷は2000年2月に,東京本社と支店,営業所,印刷工場を結ぶWANを刷新し,内線電話とデータ通信のプロトコルをIPに統一した。その際,遅延に弱い音声をWANで優先的に伝送するために,帯域制御装置(PacketShaper)を導入した(図3[拡大表示])。インテグレーションは兼松エレクトロニクスが担当した。

 帯域制御装置を設置した場所は大阪,名古屋,横浜など6拠点で,音声用に一定の帯域を割り当てる設定にしている。これにより,データの通信量が急激に変化しても音声用の帯域は変化せず,通話に遅延の影響が出ない。ただし,本社と大阪の拠点をつなぐ回線については特にデータ量が多いため,音声用の帯域を固定せず,通話がないときは帯域全体をデータ用として利用できるように制御している。

 宝印刷は今回のWAN刷新の一環として,日本ワムネット(東京都品川区)が提供する通信サービス「WAM!NET」にも接続した。宝印刷は,上場企業が決算後に大蔵省に提出する有価証券報告書の作成支援サービスを手がけている。この報告書は顧客企業や監査法人との間で,Wordの文書ファイルに訂正を加えながら,互いにやり取りをして作成する。「公開前の重要なファイルをネットワークで送受信する必要があるため,セキュリティを確保しやすいWAM!NETを利用することにした。WAM!NETは閉じたネットワークで,ファイル転送の機能しかない点が大きな特徴になっている」(宝印刷の田中洋一営業企画部長)。

 今回のWAN刷新にかかったコストは,インフラの整備と工事で合計約5000万円。「以前は内線電話網をすみずみまで整備できていなかったため,一般の電話を使って本社に連絡してくる支店もあった」(田中部長)。WANの刷新後はこうしたケースもなくなるので,通信コストの削減が見込める。

 今後は,拠点間のデータ通信量が増えた場合でも,帯域制御を活用することで,当面は回線速度を上げずに対処できるという。例えば,音声用の帯域を,動的にデータに割り当てることが一つの手法となる。

(坂口 裕一)


帯域制御とは

 帯域制御とは,ネットワーク内で特定の通信に対して一定の帯域を確保したり,優先順位を決めて送受信する技術である(図A[拡大表示])。音声や動画のようなリアルタイム性を要求する情報を伝送する場合は,他のデータ通信によって伝送時に遅延が発生すると,品質が劣化する。そこで,帯域制御によって,他のデータよりも優先的に伝送することで一定の品質を確保する。

図A●帯域制御の仕組み。アプリケーションやプロトコルごとにあらかじめ一定の帯域を確保したり,優先順位を付けたりする
 ほかに,メインフレームやオフコンなどのホスト・コンピュータと端末の間の通信も,レスポンスの許容時間(タイムアウトの時間)を短く設定している場合が多い。このため,帯域制御を使い,他のアプリケーションよりも優先させて通信を行うのが一般的である。

 逆に,ファイル転送や電子メールのデータは,多少遅延が発生したとしてもユーザーへの影響が少ない。このため帯域制御にあたっては,これらの通信は優先順位を下げて設定することが多い。

 実際に帯域制御を行う方法にはいくつかある。通信ごとに一定の帯域を確保したり優先順位を付けるのが基本となるが,それ以外にも,帯域の最大量または最小量を設定する方法,帯域を動的に変更する方法などがある。個々の通信を識別するには,アプリケーションやプロトコルの種類,通信先のIPアドレスなどを基にして判断する。

 帯域制御のための製品としては,米パケッティアの「PacketShaper」のような専用装置がある。また,日立製作所の「GR2000」のようにルーターの機能として提供されるものや,日本ヒューレット・パッカードの「OpenView PolicyXpert」のようにWindows NTサーバーで稼働するソフトウエアとして提供される製品もある。価格はそれぞれ,Packet-Shaperが約150万円,GR2000が160万円から,OpenView PolicyXpertが約380万円である。