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人材派遣会社トップのテンプスタッフは,人材流動化の追い風が吹く中,5期連続の増収を達成するなど快走を続けている。この現状に満足することなく,同社はさらなる体質強化に乗り出した。インターネットを駆使した,テンプスタッフ流の「CRM」がそれだ。登録しているスタッフを“顧客”と見なし,さまざまなサービスを提供することでスタッフの満足度向上を図っている。

 パソナ(東京都千代田区),アデコキャリアスタッフ(東京都港区),テンプスタッフの“三強”が,し烈な競争を繰り広げている人材派遣業界。中でも1995年度から5期連続で増収という急成長を続け,とうとう売上高で業界トップになったのがテンプスタッフだ(図1[拡大表示])。1998年1月に,登録スタッフの個人情報が流出するという同社の信用を揺るがす事件が発生したが,これも業績にはほとんど影響しなかった。

図1●テンプスタッフの売上高と利益の推移
1999年度に売上高で最大手だったパソナを追い抜いた

 売上高トップの座をさらに強固なものにするため,同社は今,顧客との関係強化を図る「CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)」に取り組んでいる。といっても,その対象は本来の顧客であるクライアント企業ではない。どちからといえば“身内”である登録スタッフを顧客と位置づけ,関係強化を図ろうとしているのだ。

 「人材派遣業は,優秀な登録スタッフをどれだけ多く抱えるかが勝ち残りのカギ。『優秀なスタッフがいるところには必然的にいい仕事が集まり,それがさらにいいスタッフを呼ぶ』という好循環が生まれる。そのために何かいい方法はないかと考えた末,CRMにたどり着いた」。テンプスタッフの酒井賢治IT企画室長は狙いをこう語る。

Webでスタッフの希望をくみ取る

 ではテンプスタッフのCRMはどんな仕組みになっているのだろうか。中核となっているのが,2000年3月に稼働させたWebサイト,「ジョブチェキ!(Job check it!)」である。

 ジョブチェキ!の仕組みはこうだ。クライアント企業から派遣の依頼が来ると,「コーディネータ」と呼ぶテンプスタッフの担当者はジョブチェキ!のデータベースに仕事内容を登録する。内容は,そのままジョブチェキ!のWebページに掲載する。登録スタッフは希望の勤務地や時給といった条件を入力することで,仕事内容を検索できる。

 登録スタッフは検索結果の中から,気に入った仕事を五つまで登録することができる。つまりテンプスタッフがクライアント企業から受けた仕事内容を開示し,登録スタッフからしたいと思う仕事があれば希望を受け付けるのがジョブチェキ!の役割だ。

 機能的には大きな特徴がなく,ありきたりとさえ言えるWebサイトだが,効果は大きい。その一つがテンプスタッフにとって派遣するスタッフを選ぶ余地が広がったことである。

 テンプスタッフでは従来,スタッフが登録時に申告したスキルや勤務経験といった情報が入っている「登録スタッフ・データベース」を,コーディネータが検索。企業から依頼があった仕事内容に最も合う条件を持つスタッフを選んでいた。登録スタッフ・データベースには,希望職種や希望勤務地,キャリアやスキルといった情報がすべて入っているので,対象者を選ぶ作業自体はそれほど手間はかからない。

 ところが「選んだスタッフに電話や電子メールで連絡をとってみると,旅行に出かけていたり,すでに別の仕事をしているといったケースがあり,派遣スタッフを決めるまでに時間がかかることがあった」(酒井室長)という。しかも派遣の依頼は,全社でおおよそ1日に400~500件。コーディネータは1人当たり20~30件の依頼を抱えており,一つの仕事に手間取ると,ほかの仕事のアサインにも影響が出てしまう。

 ジョブチェキ!により,こうした問題を改善できる。「効果を定量的に算出することはできないが,コーディネータの作業効率向上に,確実に役立っている」(酒井室長)。

(高下 義弘)