黒崎 芳行 日立製作所 ソフトウェア事業部 ソリューション本部
散在する資産を一元管理
大量のパソコンを導入した企業では,パソコンのハード資産やソフト資産を管理するのは大変な労力が必要となります。こうした資産管理にもシステム管理ツールは有効です。最近ではソフトのライセンス数に応じた実行の制限や,資産管理用の帳票出力などの機能を持つ製品も登場しています。
![]() |
図3 ソフトウエアの資産管理機能 管理サーバーからの指示により,クライアントが応答した検索結果を解析することで資産管理を実現する。 |
インストール状況とライセンスを管理
ソフトのインストール状況をチェックする方法は,大きく2種類に分かれます。インストールされている実行形式ファイルをすべてセンターの管理サーバーに集める方法と,管理サーバーが指定したファイルがそれぞれのパソコンに入っているかを確認する方法です。前者の方法では,実行形式ファイルの内部に記述されている情報(アプリケーション名,バージョン,製造会社名など)を基に管理サーバーでソフトを管理します。後者の方法では,クライアントにあるエージェント・プログラムが,アプリケーションに固有のファイルの有無を調べます。最近では,両者の方式の良い点を組み合わせることで,効率よくソフトを管理できるようになっています。
ライセンスはソフトのインストール情報を基に管理します。指定されたアプリケーションがインストールされているパソコンの数を数えることで,どれだけのライセンス数が使われているかが分かります。システム管理ツールによっては,あらかじめライセンス数を指定しておくと,一定の時間間隔で各パソコンの状況をチェックし,ライセンス数が超過すると管理者に警告するものもあります。
ライセンスを管理する機能には,インストール数ではなくシステム内の同時使用者数を制限する「同時実行ライセンス」に対応する製品もあります。この場合,アプリケーションの起動を監視し,起動している数が契約数に達したらそれ以上の起動をさせないようにする方法がとられます。
資産管理にも活用可能
ソフトの管理だけでなく,各パソコンのハードの管理もシステム管理の重要な機能です。プロセッサの種類,ハード・ディスクの空き容量,メモリの容量などのデータを収集し,一元管理を実現するのです。ハードの管理方法には,(1)各パソコンで稼働するエージェント・ソフトが独自の方法で情報を収集する方法,(2)DMTFにより標準化されたDMIを利用して収集する方法,(3)DMIを発展させたWBEMを利用する方法――などがあります。特にWBEMは,収集するデータのやり取りにXMLを用い,運用管理のためのデータ表現と親和性が高いため,今後システム管理の主流になるものと期待されています。
最近ではシステム管理ツールの資産管理機能も注目を集めています。ハード管理を発展させることで,情報システム部門や総務部門が人手をかけて実態を調査し,書類を作成してきた資産管理業務を省力化する機能です。資産管理機能を使えば,パソコンの設置場所,レンタルまたは資産の別,資産であれば資産価値と償却期間,設置場所などの情報を管理できます。収集した管理情報を基に,パソコンに張り付ける資産シールの作成や,バーコード・リーダーによって読み込んできた情報の整理など,棚卸し業務を支援する機能も備えます。
ソフトの利用制御へ発展
一部の製品は,ソフトのインストール状況を把握するだけでなく,エンドユーザーの利用を制限する機能を持っています。この機能を使えば,例えばゲームなど,明らかに業務に関係のないアプリケーションがインストールされているのを発見した時に,使用できなくするといった制限を加えられます。また,パソコンのデスクトップ画面のポリシーによる制限・管理もできます。デスクトップ上に表示するアイコンなどの統一,アイコンの追加・削除の制限,Windowsであればスタートメニューから選択できるアプリケーションの制限,インストールするアプリケーションの制限などを可能にします。こうした機能は,管理者が定めたポリシーに基づいてパソコンのレジストリ情報を作成し,そのレジストリ情報を各パソコンに配布することで実現します。
これらの機能はまだシステム管理製品が一般的に持つものではありませんが,今後は多くのツールに実装されていくでしょう。
トラブル対応の迅速化を実現
大規模パソコン・ネットワークでは,トラブルへの対応も重要です。システム管理ツールのリモート・コントロール機能を使えば,遠隔地からのユーザー・サポートを実現できます。ただし,リモート・コントロール機能ですべての障害に対処できるわけではありません。ヘルプデスクを用意したり,資産管理機能を活用してトラブル発生を未然に防ぐことも重要です。大量にあるパソコンを管理する場合,発生するトラブルへの対処が問題になります。利用者は必ずしもパソコンに詳しいわけではなく,自分の業務アプリケーションの使い方以外はほとんど知識がない場合も少なくありません。しかし,大規模パソコン・ネットワークでは,トラブル発生のたびに管理者が出向いて対応するのは,時間的にも能力的にも不可能です。このようなトラブルの対処にリモート・コントロール機能が役立ちます。
![]() |
図4 リモート・コントロール機能 被操作側のエージェントがクライアント画面を操作側のコントローラに送信することで,クライアント画面を再現する。 |
クライアントの画面を管理者側で再現
リモート・コントロール機能は,運用管理者が使用しているサーバーから,トラブルが発生しているエンドユーザーのパソコンをネットワークを通じて遠隔操作するものです。エンドユーザーのパソコンに常駐するエージェントがデスクトップ画面を送信し,管理者のサーバーの画面上に再現します。管理者がサーバーから遠隔操作すると,エンドユーザーの画面上で同一の操作が行われます(図4[拡大表示])。この機能を利用すれば,管理者はトラブルのあったマシンまで行かなくても,エンドユーザーのパソコンを操作してトラブルの原因を探れます。問題点が見つかった場合,設定を正しい状態に変更できます。
リモート・コントロール機能は,アプリケーションのエラーや,使用方法の問い合わせなどには対処できますが,OS自体のハングアップのような致命的なエラーには使えません。ただし,再起動に成功し,エラーを発したアプリケーションが適切なログ・ファイルを残している場合は,ログ・ファイルをサーバー側に転送させて解析することで,トラブルの原因をつかみ,適切な対策をとることが可能になります。
ヘルプデスクでトラブル情報を共有
ヘルプデスクをネットワーク内に立ち上げてトラブルに関する相談を受けたり,情報共有することも重要です。トラブルの多くは,アプリケーションの設定ミスで発生します。こうした場合,設定を正常に戻すだけでトラブルは解決します。このようなトラブルは,エンドユーザー自らがヘルプデスクの情報を利用して対処できます。ヘルプデスク構築のために,過去の事例などをデータベースにまとめて管理し,相談時に役立てられるようにしたツールもあります。また,ヘルプデスク用のホームページをイントラネット内に立ち上げ,そこで相談を受け付けたり,過去の事例を挙げたりする運用もトラブル対応には有効です。