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合併を機にIP-VPNでネットワークをフラット化
業務系は専用線,Webなどの情報系はADSLと使い分け
ADSLの信頼性を専用線へのう回で底上げ


2004年1月の合併を目前にした明治生命保険と安田生命保険は,1850もの支社,営業所を結ぶ新ネットワーク構築の最中。ADSLを導入し,大容量データのやり取りにも備える。ADSLの信頼性を確保するため,バックアップの仕組みも実装した。
(市嶋 洋平)

 大手金融機関同士の合併というと,思い浮かぶのが2002年4月に起こったみずほ銀行のシステム障害。さまざまな原因が指摘されているが,問題は大きく三つの点に集約される。一つはシステムに対する経営側の認識の低さ。二つめは統合への準備期間の見積もりの甘さ。そして,最大の問題が“縄張り”を尊重するあまり統合後のシステムを各行の部隊がそれぞれ個別に開発していた,という点である。

 それから約1年。生命保険大手の明治生命と安田生命は,統合に向けた最終段階に入った。統合後の明治安田生命は総資産で日本生命,第一生命に次ぐ業界第3位へと躍り出る。社員と営業担当者の数は合わせて約5万人。合併時に拠点を統廃合するものの,それでも支社が100,営業所が1750の大陣容となる。

 もっとも両社の取り組みを見る限り,みずほ銀行の“事例”を踏まえたかのように遂行している。合併の発表前に,両社の一部のシステム要員と外部コンサルタントで互いのシステムを精査した。また,両社社長はことあるごとに「システムは統合の最重要課題と認識」と発言。共同のシステム開発オフィスを設け,部員を交流させるなどの手も打っている。

拠点の統廃合に強いフラット型へ

 業務システムの統合を支えているのが,IP-VPNを活用した拠点間ネットワークのフラット化だ。明治生命が2002年1月に運用を始めたIP-VPN網に,安田生命の拠点を収容していくことで進められた。3カ月かけて,安田生命の拠点を段階的にIP-VPNにつなぎ替えていった。

安田生命
情報システム部
ネット開発グループ
課長 野賀雅人氏

 ネットワーク構成を階層型からフラット型にすることで,障害に強くなり,柔軟性も上がる。

 例えば,階層型だと「上位の支社ネットワークで障害が起こると,配下の30程度の営業所がすべて影響を受けてしまう場合がある」(安田生命 情報システム部 ネット開発グループの野賀雅人課長:写真)。一方,フラット型なら障害が起こっても局所的な影響で済む。

 拠点の統廃合にも強くなる。階層型の構成だと,「支社を廃止すると配下の営業所を他の支社へと回線を引き直す物理的な切り替え作業が発生していた」(明治生命 情報システム部の岸信孝主席システムプランナー)。これに対しフラット型であれば,「支社が廃止になっても,営業所が新しくどこの支社の配下に入るのか,ルーターのあて先アドレス設定を書き換えるだけ」(岸氏)で済む。

“合併当日”は設定を変えるだけ

 業務系の拠点間ネットのフラット化は,2002年末に完了した。ただし,合併までは両社の拠点やセンター間での通信はしない。法律上はまだ別の会社であり,顧客データを個別に管理しておく必要があるからだ。

 2004年1月の合併時は,大きな作業の必要がない。「支社や営業所のルーター設定をリモートから変更する」(明治生命の岸主席システムプランナー)だけで,一つのネットワークに統合できる()。

ネットは自前で運用しない

 明治生命は2002年1月,安田生命は12月のIP-VPNへの移行を機に,ネットワークを自前で運用するのをやめた。明治生命が住友生命などと共同で設立したネットワークの敷設/運用会社リバンスネットに委託した。

 システム部は拠点に置いたルーターから内側のLANの管理に集中できる。拠点間を結ぶ回線はリバンスネットが監視し,障害時の対応やバックボーンが不足した際の帯域拡大などの作業を肩代わりする。

 コスト面のメリットも大きい。従来は回線を直接通信事業者から調達していたが,アウトソーシングしたことで,回線費用だけで2割から3割も削減できたという。またリバンスネットとは,「ある一定の数までは,営業所や支社を追加したり廃止しても新たなネットワーク敷設や運用のコストが発生しない」(明治生命の岸主席システムプランナー)という契約を交わしている。拠点の統廃合の多い会社にとって,このメリットも大きい。

図 2004年1月の合併時におけるネットワーク構成
ネットワークをアウトソーシングすることで回線コストを削減し,管理の手間を減らした。情報系ADSL回線は拠点とデータ・センターの間をIPsecでトンネリング。業務系の専用線はMPLSで構築したIP-VPN網に接続する。


※本記事は日経コミュニケーション2002年4月28日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。全文は同号をご覧下さい。そのためにはバックナンバーとして同号だけご購入いただくか,日経コミュニケーションの定期購読をご利用ください。