木下 智氏 スターネット ネットワークソリューション部 ネットワーク技術課長
ATM専用線拠点でWeb応答が悪化
新ネットワークの運用を始めた途端,ある事業所から「特定の時間帯にだけ極端にWebアクセスのレスポンスが遅くなる」とクレームが入った。その事業所が他事業所と異なるのは,アクセス回線にATM専用線を使っていることだった。レスポンスが遅くなるのは,音声回線の利用が増える時間帯と重なっていた。 帯域管理装置を一切使っていなかったため,設計外の音声トラフィックがデータ通信用の帯域を圧迫したのである(図1[拡大表示])。一方,高速ディジタル専用線を使っている他事業所の音声帯域は1チャネル24kビット/秒。設計通りだった。
このためA社は,ATMセル化時のオーバーヘッドが原因だと疑った。
音声パケットをATM回線に流すには,2個のATMセルに分割しなければならない。セルのヘッダーと,2個めのセル中の余った部分がATM回線では余分に消費される。
音声ペイロードを40バイトに拡大
そこでA社は,一つのIPパケットに入れる音声ペイロードのサイズを大きくしてみた。1パケットで送れる音声データ量が多くなるため,相対的にヘッダー部分のオーバーヘッドが減る。帯域を抑制する効果がある。
A社が使っているVoIP機器の音声ペイロードのデフォルト値は,20バイトとなっていた。これをさらに大きくすると,1秒分の音声データを運ぶのに必要なIPパケットの数を減らせる(図2[拡大表示])。1秒当たりのセル数もその分少なくなる。その結果,セルのオーバーヘッドが減る。
A社は,検証の結果,音声ペイロード長として,音声品質と伝送効率でバランスの取れた40バイトを採用した。1秒の音声データを送るためのIPパケットの数は半減。1パケットが分割されるセル数は2個のままのため,セルの数も半減した。2個目のセルの空き部分も無くなった。
これにより,ATM回線での音声帯域は1回線あたり約22kビット/秒,高速ディジタル回線では約16kビット/秒となった。どちらも設計時に見積もった帯域より減らすことができた。その後Webのレスポンスは改善した。
遅延は業務に支障ないレベル
一般にペイロードを大きくすると,パケットの遅延が増える。一つのパケットのサイズが大きくなると,ルーターが回線上にパケットの送信を始めてから送信を完了するまでの時間が長くなるからだ。さらに,2回線以上の音声チャネルを同時に使用する場合,ほかのパケットの待ち時間が長くなるため,遅延増大を招いてしまう。
ただ,A社の場合,「劣化したな」と分かるほど通話品質に変化は感じなかった。業務に支障はないレベルと判断し,音声ペイロード長を40バイトとして運用を続けた。