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今回から数回に渡って,話題を集めている「モバイル・セントレックス」について説明します。一言でモバイル・セントレックスといっても実現方式によっていくつかの種類があり,必要となるコストや機器もそれぞれ異なります。

図1 モバイル・セントレックスの利点
 携帯電話端末で内線通話を実現する「モバイル・セントレックス」が注目を集めています。社内のどこにいても無料か定額で内線電話の受信/発信が可能です。モバイル・セントレックスの導入によって「不在」の状態が無くなり,業務効率の向上が期待されています。また,固定の電話機と異なり場所にとらわれないので,引越しや異動時にPBX(構内交換機)の設定を変更しなくて済みます(図1[拡大表示])。

 これまでにもモバイル・セントレックスに似た電話システムとして,構内PHSがありました。しかし,携帯電話の加入者数が8000万人を超える現在,毎日持ち歩いている携帯電話をそのまま内線にも使いたいと考えるのは当然の流れだと言えます。携帯電話にはPHSと比較して,新幹線などの高速移動時にも使える点や,Webブラウザなど現在の進化した携帯電話の機能が使えるという優位性も持っています。

 もっとも,モバイル・セントレックスは登場したばかりの技術なので,内線電話機能が少ないなどの課題もあります。モバイル・セントレックスの導入効果とともに問題点やその解決策は次回以降に説明します。

事業者のサービスと自営のシステムに大別

 現在「モバイル・セントレックス」と呼ばれているシステムは(1)携帯電話端末を使い,携帯電話事業者が提供するサービスと,(2)携帯電話事業者が関与せず,無線型IP電話機と無線LANを使って構築するシステムに大別できます。(1)は外出先では携帯電話として使えますが(2)は社外に持ち出しては使えません。ただし,将来的には公衆無線LANサービスでも使えるようになる可能性はあります。

図2 携帯電話事業者が提供するサービスと端末に無線型IP電話機を使うシステムがある 携帯電話事業者のモバイル・セントレックスは各社で方式や料金が大きく異なる。NTTドコモの方式では専用端末であるNEC製の「N900iL」を利用する。KDDIとボーダフォンの方式では既存の端末を使う。一方,無線型IP電話機は沖電気工業や日立電線など各社が無線LANを使う製品を販売している。
 (1)はNTTドコモ,KDDI,ボーダフォンの3社がサービスを提供または提供の準備をしています。しかし,内線通話の方式や料金体系など,その中身は3社でまったく異なります(図2[拡大表示])。内線通話は,NTTドコモが無線LANとSIP対応のIPセントレックス装置,KDDIはユーザー専用の携帯電話基地局と交換機,ボーダフォンは公衆用の携帯電話網で実現します。

 料金体系を見ると,NTTドコモやKDDIの方式は無料または月額945円という安価な料金で内線電話を利用できます。ただし,無線LANアクセス・ポイントや専用基地局の設置など,多額の初期コストが発生します。一方,ボーダフォンの方式は初期コストが不要ですが,一番安価な料金プランでも月額8190円かかります。小規模の導入ならばボーダフォン,中から大規模の導入ならNTTドコモかKDDIという選択になりそうです。

 (2)は携帯電話事業者に払う料金が不要な点がメリットです。工場など社内での移動は多いが外出の少ない事業所には(1)よりも(2)の方がコスト面では適しています。ただし,端末は携帯電話と比べると技術的に未成熟で使い勝手が劣ります。

 もっとも,無線型IP電話機は現在数社が発売し,機能は徐々に向上しています。以前は待ち受け時間の短さが問題でしたが,最近では沖電気工業などが100時間を超える待ち受け時間を実現した製品を販売しています。また,端末はSIPに対応する製品が多いので,既存のIPセントレックスとの親和性も高いといえます。