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モバイル・セントレックスへの期待が高まっていますが,今の段階では技術的な問題がまだあります。しかし,ネットワークの設計上の工夫や「無線LANスイッチ」と呼ばれる機器の導入で,問題をある程度はクリアできます。その具体的な施策を説明します。

図1 モバイル・セントレックスの課題と解決策 課題はまだ多いが徐々に解決されて行く見通し。ただし,モバイル・セントレックスに特化した運用管理ツールがまだなく,登場が待たれる。
 現在のモバイル・セントレックスには,図1[拡大表示]に示した五つの大きな課題があります。今回は端末の待ち受け時間とハンドオーバーについて,その問題点と対策を解説します。残る三つは次回以降に説明します。

ビーコンの通信頻度を減らす

 現在,大半の無線IP電話機(端末)は,待ち受け時間が100時間以下です。携帯電話端末やPHS端末の数百時間と比べて見劣りします。そこでユーザー側で工夫して待ち受け時間を少しでも長くする必要があります。

 端末は無線のアナログ回路で電力を大量消費します。無線通信の頻度を最小限にして電力消費を減らせば待ち受け時間を長くできます。具体的には(1)無線LANアクセス・ポイント(AP)からのビーコンの送信間隔を長くする,(2)DHCPサーバーが割り当てるIPアドレスの有効時間を調整し,DHCPサーバーとの通信回数を最適化する,といった設定を行います。

 (1)の場合は,例えば通常500ミリ秒のビーコンの間隔を1000ミリ秒にします。ビーコンの間隔が長くなると着信や端末が圏外に出た際の検出などが多少遅れますが,実用上は大きな問題はありません。

IPアドレスの有効時間を調整する

 (2)は少々説明が必要です。まず,デスクトップPCや固定IP電話機の利用を前提としたネットワークでは,IPアドレスの有効時間は検討すべき大きな問題ではありません。通常は24時間や3日間など,長めに設定します。しかし無線IP電話機の場合は常に端末が移動し,属しているサブネットが変わったり,電波の届かない「圏外」の状態になります。サブネットの変更や圏外からネットワークに再参加すると端末のIPアドレスが変わりますが,以前割り当てられていたIPアドレスは,設定された有効時間の間は他の端末に割り振れません。端末数が多く,利用者の移動も多く,かつIPアドレスの有効時間が長ければ254個のIPアドレスしか使えないクラスCのネットワークではIPアドレスが不足する可能性が生じます。

 そこで,IPアドレスの有効時間を短くする必要があるのですが,あまり短くするとDHCPサーバーとの通信が多くなり,電力消費が増大します。よって,利用環境に合わせた最適時間の検討が重要になります。例えば,利用者の移動が少ない環境では端末のIPアドレスの変更も少ないと想定して有効時間は長めに,移動が頻繁に起こる環境では有効期間は短めに――といった設定となります。実際にはIPアドレスの有効時間は1時間~数時間の範囲になると思われます。なお,クラスBのネットワーク環境ではIPアドレスの不足の心配は無いので,有効時間は長く設定しても大丈夫でしょう。

 もっとも,ビーコン間隔やIPアドレスの有効時間といった施策の効果は限定的です。待ち受け時間を根本的に長くするには,より電力消費の少ない無線LANチップなど,端末の技術革新を待つことになります。現在,各メーカーが開発に取り組んでいますので,近い将来,省電力化が進むでしょう。

図2 無線LANスイッチと呼ばれる製品を導入してサブネットをまたぐハンドオーバーを実現する
 無線LAN AP間の通話中のハンドオーバーにも課題があります。何も対策を施さないと(1)サブネットをまたぐと端末のIPアドレスが変わってしまうためハンドオーバーができない,(2)同一サブネット内でも無線LAN AP間の無線通信の同期や再認証の処理のためハンドオーバー時に最大数秒間の音切れが発生する,といった問題が生じます。これらを解決するためには最近登場してきた「無線LANスイッチ」と呼ばれる製品を導入する必要があります。

無線LANスイッチで高速ハンドオーバー

 まず(1)についてですが,端末が移動してIPアドレスが変わっても無線LANスイッチが通話先には変わっていないように見せかけることで,サブネットをまたぐハンドオーバーを実現します(図2[拡大表示])。

 (2)への対応は技術的な詳細は公開されていませんが,無線LANスイッチが無線通信の同期などを行い,ハンドオーバーを高速化する製品が提供されているので,これを利用することで解決できます。機種にもよりますが,無線LANスイッチにより音切れ時間を数百ミリ秒以内に抑えることができます。体感的な音切れを完全といえるほどなくせます。