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ベースは「自発力」と「プロ意識」

中村一世/関西IRM研究会代表

ITエンジニアに求められるのは,スキルだけではない。「やる気」や「バイタリティ」,「企画力」,「発想力」といった“資質”(その人が持つ性格や才能)も土台として必要だ。

 「システム構築を成功させる条件とは何か?」――約20年前から,筆者はこの問題を個人的に研究してきた。1980年代初め,筆者が勤務していたある製造業でメインフレーム用ソフトの開発をあるソフト会社に委託したとき,あらゆる場面で問題が噴出したことが,そのきっかけだった。

 そこでメンバーのOJT(On the Job Training)に力を入れたり,社内や社外でITエンジニアの交流会を開催し,スキルアップを支援する活動を始めた。そんな中で,優秀なITエンジニアの共通点として,「やる気」などの資質があることに気づいた。同じ技術を学んでも習得の速さは人によって違うし,技術力は高いのにそれをうまく発揮できない人もいる。また何度説明しても理解しない人がいる。そこに資質が大きな影響を与えていることが,分かってきたのだ。

 優秀なITエンジニアは,自分の資質を土台として,その上に必要なスキルを積み上げていく。言い換えれば,自分の資質をしっかりと理解し,短所をなくしながら長所をさらに磨くことが,ITプロフェッショナルとして評価されるための最短距離と感じている。

必要な資質は43ある

ITプロフェッショナルに必要な資質
 ITエンジニアに求められる資質は,具体的にどんなものか。20年以上に概要わたる筆者の経験や,ITエンジニアとの交流会などで得たことを図1[拡大表示]にまとめた。合計すると全部で43ある。科学的に分析したわけではないので,これがすべてではないだろうし,互いに重複していると思われる資質もある。ただ筆者としてはこの分類が,読者が自分の資質について考え,高めるきっかけになってくれればうれしい。

 ITエンジニアに求められる資質は,次の三つのグループに分類できる。

 一つめは,好奇心や執着心など「感性に関わる資質」。つまり外的刺激を感覚的に受け入れて反応する能力である。「ハマル」とか「マイブーム」(自分の中でのブーム)とかが起こるのは,外的刺激に感性が好感をもって反応した時である。この資質が強いと,スキルアップは早まる。

 逆に向いていないものを無理矢理続けていても,上達はしない。囲碁や将棋,ゴルフなどの趣味と同様,仕事でも必ず向き不向きがある。まず「その仕事や職種が自分に向いているかどうか」を知ることが,この資質を磨く近道だ。

 二つめは「知性が重要な資質」。企画力や交渉力,要約力などがこれに入る。人が幼い頃から学び,蓄積してきた資質で,物事を知り,考え,判断する能力だ。日頃からのたゆまぬ努力が結果を生む,いわば「年輪」のようなものと言えるだろう。人によって学習が速いウサギ派,遅いカメ派,その中間のアヒル派がいる。ウサギ派の人は,なぜ他の人が速く走れないのか理解できないことがよくある。しかし理解ができないと,孤立することになりかねない。

 もう一つはプロ意識やコーチング力など「意識して実践することが大切な資質」だ。一般に,無意識のうちに分かっていながら,実践するまでに至っていないことがたくさんある。これを明確にして,重要だと認識した上で,日々の仕事で実践することは非常に重要だ。これができないと,顧客から「こんな常識も考慮されていないのか。瑕疵ではないか」と言われる機会が多くなる。

エンジンは「自発力」

 図1の「重要な順位」は,筆者の経験に基づいた順位付けである。どれも重要なのだが,あえて順位を付けたのは筆者の想いを伝えたいことと,読者自らの資質強化の手助けになることを願ってのことだ。順位付けにあたっては,(1)筆者がモットーとしている,(2)これまでの経験から優秀なITエンジニアが共通して備えている,(3)部下へのOJTで特に重視してきた――の3点を考慮した。

 中でも重要と筆者が考えているのが「自発力」と「プロ意識」である。「自発力」は筆者の造語だが,「自らたゆまぬ取り組みができる」資質のことである。車に例えるとエンジンのようなもの。自発力というエンジンがかからないと,成果は出ない。さらに「好奇心」や「達成意欲」が強ければ強いほど,仕事のスピードに差が出る。

 もう一つの「プロ意識」は少々説明が必要だ。若手のITエンジニアに「プロのITエンジニアとはどんな人か?」という質問をすると,「ユーザーに信頼されるITエンジニア」という答が返ってくることが多い。「ではなぜ信頼されるのか?」と質問を重ねていくと,プロのITエンジニアとは「ユーザーが活用できるシステムを,責任を持ってリリースできるITエンジニアである」というところにたどり着く。この点を理解することがプロ意識だ。

 重要なのは「ユーザーが活用できる」という点である。たとえコストや納期を守れたとしても,業務に活用できなければ意味がない。当然,システムとしての拡張性や安定性,保守性も実現しなければならない。こうしたことを苦労や疲労の顔を見せずにやってのけるのが「真のプロ」だと思う。

 プロ意識で大切なのは,学生気質との決別だ。学生時代はテストで合格点を取れば,それでよかった。80点が合格なら,残りの20点は不正解でもいい。しかし,ビジネスの世界ではそうはいかない。20点の不正解が,瑕疵担保責任にまで発展することもあるからだ。

 ここで取り上げた資質は,読者にとっては「当たり前ではないか」と感じられるものばかりかもしれない。また「自分は大丈夫だ」と思っている人もいるだろう。しかし筆者の経験では,高めようと明確に意識しない限り,資質を伸ばすことはできない。その意味で,図1に示した資質を常に意識し,日常業務の中で実践するように努めていただきたいと思う。読者がITプロフェッショナルへの道を正しく進むために役立てば,幸いである。

中村一世
ITエンジニア(SE)歴33年のベテラン。一貫して製造業の情報システム部門に勤務してきたが,昨年,ITベンダーに移籍した。そのかたわら,ITエンジニアのコミュニティ「関西IRM研究会」の代表など,活発な対外活動を行っている。